登場者プロフィール
前田 佳菜美
政策・メディア研究科 修士課程1年所属プログラム:環境デザイン・ガバナンス(EG)
前田 佳菜美
政策・メディア研究科 修士課程1年所属プログラム:環境デザイン・ガバナンス(EG)
線状降水帯が発生するメカニズムとは?
宮本佳明先生の「環境センシング論」を受講したことがきっかけで、学部2年の秋学期から宮本佳明研究会(気象学)に所属しています。もともと環境問題に興味があり、身近な自然現象から地球環境に関わる問題を扱えることが刺激的でした。
宮本研究会に入ってからは、身近な「降水現象」に着目しました。なかでも興味を惹かれたのは、豪雨事例の約3分の2を占める「線状降水帯」です。たまたま熊本での旅行中に線状降水帯による大雨を体験し、その発生と停滞のメカニズムを解明したいと強く考えるようになりました。
地球レベルの気候変動によって、将来的にも気象災害の発生数の増加が懸念されています。。線状降水帯は、観測技術や、数値予報モデルの精度向上によって従来よりも正確に捉えられるようになりました。近年、メディアでもたびたび取り上げられるようになり、予測精度の向上が急がれる社会課題のひとつです。降水現象のような身近な問題を、自力で解決できる可能性に研究の意義を感じています。
水蒸気フラックス収束という要因に着目
研究の目的は、線状降水帯の発生・維持の条件を特定して予測精度を少しでも向上させることです。そのひとつとして私は、水蒸気フラックス収束と大気不安定度(対流の起きやすさ)の相互作用について注目しました。
水蒸気フラックス収束とは、ある空間内に集まるような風の流れよって、、水蒸気がどのくらい増減するのかを示す指標です。ある空間に風が集まることを、「風による収束」と呼びます。質量保存の法則を仮定すると、収束によってによって上昇流が起こります。ここで、風の動きだけではなく水蒸気の動きも同時に考えることがポイントになります。風によって運ばれてきた水蒸気がどのくらい上昇するのかを計算できる指標が、「水蒸気フラックス収束」です。これは、水蒸気が上空で凝結して雲になる過程を考える上で重要になるため、注目しました。。
この水蒸気フラックス収束は、降水現象と強い相関があるといわれているものの、線状降水帯との具体的な関連はまだわかっていません。線状降水帯の発生や維持にどう寄与しているのかが明らかになれば、予測精度の向上に繋がり、災害防止に役立てられるのではないかと考えています。
研究では、2021年8月に発生した線状降水帯を事例として、理化学研究所で宮本先生が開発に携わったSCALEという気象モデルを用いて、環境場の再現(数値シミュレーション)をおこないました。気象モデルは、観測データをもとに、支配方程式をコンピューター上で解くため、観測では得られない気象変数を計算することができます。さらに、対象とする現象に合わせて、空間分解能や時間分解能を細かく設定することもできます。特に、線状降水帯は空間解像度を細かく設定しなければ再現が難しい現象です。また、観測データ以外の気象変数も含めて、さまざまな気象要素が形成や維持に関連します。そのため、メカニズム解明には、気象モデルを用いた数値シミュレーションによる解析が重要になってきます。
空振りと見逃しを減らすために試行錯誤を継続
線状降水帯の予測は非常に難しく、的中率はまだ府県単位で約10%ほど(2024年時点)しかありません。その理由としては、数値予報の解像度が粗いことや、線状降水帯の発生および維持メカニズムについて未解明な部分が多いことが挙げられます。最近では線状降水帯を予測する定量的な6条件が提示されていますが、特に空振り率(線状降水帯の発生を予測したが実際には発生しなかった割合)の高さが課題となっています。
しかし、空振り率を下げようとして条件を厳しくすると、見逃し率(線状降水帯が発生しないと予測したが、実際には発生した割合)が、高くなってしまうのが難しいところです。そもそも、複雑に絡み合っている現象なので、正確な条件を特定すること自体が困難なのです。
現在私は、台風の発生条件を線状降水帯の発生条件に応用できるのではないかという仮説を立てて、検証しています。
学部時代は、この研究が山岸学生プロジェクト支援制度に2年間採択されました。政策・メディア研究科にも森泰吉郎記念研究振興基金という支援制度があり、研究資金をもらいながら主体的に研究を進められることは、SFCの大きなメリットです。
研究のかたわらで、宮本先生が代表取締役を務める気象ベンチャー企業のアルバイトもしています。航空関連の事業ですが、研究活動で得られた知見も活かせる職場です。研究だけでは得られない実務の経験は、将来のキャリアにも確実につながる非常に貴重な経験だと思っています。
現在は研究が中心の生活ですが、高校時代から研究者を志していたわけではありません。文系や理系の区別なく、色々なことを学びたいと考えてSFCを選びました。進路の的を絞れていない人にとっても、SFCはとてもいい環境だと思います。そもそも宮本研究会に入ったのは、宮本先生がすごく優しい方だったからです。自分のペースで課題を見つけ出し、それを掘り下げていく楽しさに没頭しています。
研究室紹介
キーワード:気象学