慶應義塾大学理工学部の井上 朋也 助教、畑中 美穂 准教授、中嶋 敦 教授は、気相中で生成したアルミニウムナノクラスター超原子にホウ素原子が添加(ドープ)された際に、その幾何構造との協奏によって反応活性化と不活性化の二面性があることの解明に成功し、超原子の構造上でホウ素原子が占める位置によって反応性が制御されることを明らかにしました。
新規ナノ構造体による機能基板の開発は、化学変換過程やエネルギー変換過程の一層の効率化を通して、エネルギーや環境の問題を克服するために極めて重要です。原子が数個から数十個集合したナノクラスターのなかには、原子と同じような電子状態をとることから、ナノクラスター超原子と呼ばれるナノ構造体があり、異なる元素を添加するとその反応性が大きく変化することが知られていました。しかし、原子数、組成を単一にしたナノクラスター超原子の生成が難しいことに加えて、基板表面では、表面の特性や構造の乱れのために、ナノクラスター超原子が変形したり、電荷状態が変化したりすることなどによって、異原子を添加した効果が正しく議論できないという課題がありました。
本研究グループは、原子数や組成を完全に制御した純粋な超原子を大量に合成し、非破壊かつ安定的に基板に固定化する技術を確立しました。さらに、複合超原子を基礎としたナノ構造体を活用することで、異原子が添加された際に、その幾何構造が協奏して反応活性化と不活性化の二面性をもつことも解明しました。これらの結果は、次世代の化学変換、エネルギー変換を実現する複合ナノ構造体の機能創成につながることが期待されます。
本研究成果は、2023年10月4日(米国時間)にアメリカ化学会の学術誌『Journal of the American Chemical Society』で公開されました。