慶應義塾大学医学部内科学(循環器)教室の湯浅慎介専任講師、同予防医療センターの楠本大助教らの研究グループは、人工知能(AI)を用いた新しい創薬スクリーニング手法(Deep-SeSMo:ディープセスモ)の開発を行い、血管内皮細胞の老化を抑制する薬剤候補を同定することに成功しました。
近年、AIの発展により様々な問題が新たに解決可能となり、AIは多くの分野で社会に組み込まれるようになりました。特に、画像解析の分野では人間を超える精度で認識・判定が可能となり、医学・生物学分野においても大きな発展が期待されています。本研究グループは、まずAIの中でも画像解析に特化した畳み込みニューラルネットワークを用いて、培養血管内皮細胞の顕微鏡写真のみから細胞の老化度合いを評価することができるシステム(Deep-SeSMo;ディープセスモ)の開発を行いました。さらに同システムを応用して化合物のスクリーニングを行い、老化抑制効果を有する薬剤候補の同定に成功しました。
従来、化合物スクリーニングを行うためには、細胞が病的状態にあることを評価するために複雑な分子生物学的手法を用いる必要があり、これに伴う膨大な手間と費用が大規模スクリーニングの障壁となっていました。今回研究グループが開発したDeep-SeSMoは画像1枚につきわずか0.1ミリ秒で評価可能であり、本システムの導入により従来よりもはるかに高速かつ簡便に、信頼性の高い創薬スクリーニングが可能となりました。本システムを応用することで、他の様々な病気に対する新規治療薬開発も加速することが期待されます。
本成果で同定された薬剤候補化合物について今後さらに研究を進めることにより、老化コントロールを目的とした治療薬開発につなげていきます。また血管老化などに起因する心筋梗塞や心不全などの様々な疾患に対する画期的な治療薬の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2021年1月11日(ロンドン時間)に英国科学誌『Nature Communications』オンライン版に公開されました。