戊辰戦争のさなかの慶応4年5月15日、江戸中が騒然とする中、福澤諭吉は動ずることなくいつものようにフランシス・ウェーランドの経済書に関する講義を続けました。慶應義塾では、世の中にいかなる変化があっても学問教育を尊重した福澤の精神を長く伝えるために、5月15日を「福澤先生ウェーランド経済書講述記念日」として1956年より記念講演会を開催しています。
今年は5月15日(水)、井奥成彦名誉教授により、「福澤諭吉と在来産業-酒造業に対する考え方を中心に-」という演題で講演会が行われました。
井奥名誉教授は、生涯にわたって酒と縁の深かった福澤は、在来産業の中でも酒造業へ期待していたこと、酒造業の近代化において、「学門ノ主義ヲ活用シテ…化学ノ原則に照ラシ…」と説き、従来の伝統・経験に西洋の科学的根拠に基づく醸造方法を融合する提案をしていたと説明しました。現在において、酒や醤油をはじめとする日本の醸造製品が海外での人気が高いことも、一律で機械化を推し進めるのではなく、日本独自の伝統・経験を大切にしながら育んできたためであり、福澤の教えが一助になっていると話されました。
福澤は、当時の慶應義塾の門下生へ技術そのものではなく、西洋理念を教えることで、それを活かして各々の伝統的な家業を近代的に発展させることを望んでいたことでしょう。今回の聴講者たちも講演に熱心に耳を傾け、配布された資料にメモを取る人の姿が多く見られました。