登場者プロフィール
ルース ショーン京介さん
医学部6年生(留学時5年生)留学先:アメリカ・Northwestern University(ノースウェスタン大学) 小児アレルギー・免疫科
ルース ショーン京介さん
医学部6年生(留学時5年生)留学先:アメリカ・Northwestern University(ノースウェスタン大学) 小児アレルギー・免疫科
杉井 万里子さん
医学部6年生(留学時5年生)留学先:アメリカ・Johns Hopkins University(ジョンズホプキンス大学)胸部外科(心臓外科・呼吸器外科)
杉井 万里子さん
医学部6年生(留学時5年生)留学先:アメリカ・Johns Hopkins University(ジョンズホプキンス大学)胸部外科(心臓外科・呼吸器外科)
松村 侑香さん
医学部6年生(留学時5年生)留学先:アメリカ・Washington University in St. Louis(セントルイス・ワシントン大学)腫瘍内科
松村 侑香さん
医学部6年生(留学時5年生)留学先:アメリカ・Washington University in St. Louis(セントルイス・ワシントン大学)腫瘍内科
深澤 俊輔さん
医学部6年生(留学時5年生)留学先:ドイツ・University of Cologne(ケルン大学)耳鼻咽喉科
深澤 俊輔さん
医学部6年生(留学時5年生)留学先:ドイツ・University of Cologne(ケルン大学)耳鼻咽喉科
※学年はインタビュー当時
2026/06/30
慶應義塾大学医学部では、学生が海外の大学や病院で学ぶ短期留学プログラムが充実しています。特に、海外の医療機関で1ヶ月間臨床実習を行う「短期海外留学プログラム【臨床】」は、人気のプログラムであり、5年生110人のうち63人(2025年度)が参加しました。
今回、「短期海外留学プログラム【臨床】」に参加した、医学部6年生(留学時5年生)の4人の学生たちに話を聞きました。 海外の医療現場で何を感じ、どのような刺激を受けたのか。そして、その経験を今後どのように活かしていきたいと考えているのか。それぞれの思いを聞きました。
それぞれの「医師になりたい」と思った瞬間
――まずは、みなさんが医師を志したきっかけから教えてください。
松村:私は小学生の頃、家族でカナダに滞在していたときに体調を崩してしまったことがありました。慣れない海外で不安だったのですが、現地の先生がとても優しく接してくださり、そのときに、「医師は、こんなふうに人に安心感を与えられる仕事なんだ」と感じたのが大きかったです。
ルース:それ、すごくわかります。私も幼少期に病気がちで、小児科によく通っていました。診察室に入る前は不安なのに、小児科の先生と話すと安心感を覚え、「自分もこんな存在になりたい」と思ったのが、小児科医を志したきっかけでした。
杉井:私は最初から医師一本というわけではなく、いろいろな仕事に興味がありました。でも、人の健康や命に直接関わる仕事には特別なやりがいがあると感じるようになり、なかでも、専門性を深く追求できる外科に魅力を感じました。
深澤:実家が歯科医院だったので、医療自体は身近な存在でした。ただ、自分が医師になりたいと思ったきっかけは、テレビ番組の『総合診療医ドクターG』なんです。症状から病気を推理していく姿がすごく面白くて。「こんな仕事があるんだ」と憧れました。
――慶應義塾大学医学部を選んだ理由も、それぞれ違いそうですね。
深澤:私は岐阜出身なので、東京で学びたいという思いもありました。でも、一番惹かれたのは、学生の自主性を尊重する校風ですね。勉強だけでなく、課外活動も含めて、自分でいろいろ挑戦できる雰囲気がありました。
松村:私は京都出身なので、やはり東京への憧れがありました。それに、慶應はOB・OGのつながりがすごく強い印象があって。実際、今回の留学でもそのつながりを実感しました。
杉井:私も「自主性」という点に魅力を感じました。特に、海外留学や研究の制度が充実していて、「挑戦したい」と思った学生を後押ししてくれる環境が整っていると感じました。
ルース:私は慶應義塾志木高等学校からの内部進学ですが、やはり自由な校風は魅力でしたね。自分で考えて行動することを大切にする文化があると思います。
海外臨床実習へ――それぞれが選んだ留学先
――今回の海外実習では、それぞれ異なる国・分野で学ばれています。まず、なぜその留学先を選んだのでしょうか。
杉井:私はアメリカのジョンズホプキンス大学で胸部外科を学びました。心臓外科や移植外科に興味があり、世界トップレベルの医療現場を見てみたいと思ったからです。ジョンズホプキンスは、近代的なレジデンシー制度を作った病院としても有名ですし、医学史の中でも重要な役割を果たしてきた場所なので、「ここで学びたい」という憧れがありました。
松村:私はワシントン大学のBarnes-Jewish Hospitalで、腫瘍内科の臨床実習を行いました。日本人の先生も多くいらして、将来のロールモデルを近くで見る貴重な機会になると思ったことと、留学生でも主体的に診療に参加できる環境だと聞いていたことも大きかったですね。
ルース:私はノースウェスタン大学で小児アレルギー・免疫科を回りました。アメリカでは医学生の裁量が大きくて、見学だけでなく実際に診療に参加できることに魅力を感じました。また、日本でも外国人患者さんが増えているので、将来的に英語で診療できるようになりたいという思いもありました
深澤:私はドイツのケルン大学の耳鼻咽喉科に行きました。日本の医学は歴史的にドイツから多くを学んできましたし、文化的にも共通点が多い国です。一方で、最近ではドイツが日本のGDPを上回ったことなども話題になっていて、「実際どのような国なのか」と興味を持ちました。
――留学中、大変だったことはありましたか。
松村:やっぱり英語ですね(笑)。USMLE(米国医師国家試験)の勉強をしたり、リスニングの練習をしたりしていたのですが、実際の臨床現場では、患者さんにもわかる言葉で伝えなければなりません。単なる英語力だけではなく、「どう伝えるか」がすごく難しかったです。
ルース:特に小児科は、子ども本人だけでなく保護者とも話さなければいけないので、難しかったですね。しかもアメリカは多民族国家なので、本当に多様な背景の患者さんが受診されていました。
深澤:私は院内の会話が全部ドイツ語だったので、最初はかなり苦労しました(笑)。
杉井:アメリカは、自主性を重んじる文化で、医学生でも自由に意見が言える環境ですが、その反面、自分から積極的に「これを学びたい」と言わないと何も起こらない。忙しい外科の現場で診療の妨げにならないように配慮しながら、いかに積極性を示すかが難しかったです。
「学生」ではなく、チームの一員として扱われる
――実際の臨床実習では、どんな経験をされたのでしょうか。
松村:アメリカでは、「学生だから見学だけ」という感じではなく、チームの一員として扱ってもらえたのが印象的でした。私も患者さんの担当を持たせていただき、一人で診察をしてカルテを書くのはもちろん、治療方針について自分で考えたうえで上級医にプレゼンをしていました。
――かなり実践的ですね。
松村:そうなんです。さらに、印象的だった症例については自分で文献を調べて、スライドにまとめて発表する機会もありました。4週間で3回発表をしたので、かなり鍛えられました(笑)。
ルース:私も、最初に患者さんから話を聞いて、その内容を上級医にプレゼンする役割を任されていました。最初は1日1人担当するだけで精一杯だったのですが、少しずつ任されるようになり、終盤には、複数の患者さんを担当しながら上級医の修正がほとんど不要なレベルのカルテを作成できるようになり、大きな達成感がありました。
杉井:アメリカは本当に「学びたい人には機会を与える」という文化がありますよね。
ルース:そうですね。自分から動けば、ちゃんと応えてくれる環境がありました。
杉井:私も、朝の回診やカンファレンス、手術見学などに参加しましたが、「これを見たい」「これを学びたい」と言わないと始まらない環境でした。逆に、自分からアピールすると、本当にいろいろ経験させてもらえました。日本で実習していた時以上に、自分から学びにいく姿勢の大切さを感じました。
深澤:ドイツも似ています。現地の6年生は、日本でいう初期研修医に近い立場でかなり実務をしていて、自主性が求められていました。私も病棟業務に参加したり、手術に入ったりしましたが、「自分で考えて動く」ことが前提になっている感じがしました。
――実習で特に印象に残っていることは?
杉井:心臓移植や肺移植の手術を見学したことです。特に、ドナー臓器のプロキュアメント(調達)から、レシピエント(受け取る人)の体内で再び動き始める瞬間までを見たことは非常に感動的で、移植医療の重みを強く実感しました。
松村:免疫チェックポイント阻害薬によるがんの治療中に、重症の脳炎を発症した若年の患者さんの症例が特に印象に残っています。重い病状の患者さんやご家族にどのように伝え、支えていくかについて深く考えさせられました。
ルース:少なくとも医学生の視点からは、日本とアメリカの医師の能力に大きな差があるようには見えませんでしたが、利用可能な検査や治療選択肢が日本よりも豊富であり、患者さんに提供できる医療の幅がアメリカの方が広く感じたことが印象的でした。
海外で見えてきた「日本の医療」
――海外で学ぶことで、日本の医療を客観的に見る機会にもなったのではないでしょうか。
ルース:一番印象的だったのは、やはりアメリカの医療保険制度です。アメリカは私的保険が中心なので、保険が適用されないことを理由に通院を中断せざるを得ない患者さんがいたり、処方した薬が保険適用外だと使えなかったりといったケースがありました。
――日本では考えられないですね。
ルース:はい。上級医が保険会社と交渉している場面も見ました。日本では国民皆保険制度があるので、「必要な医療を受けられる」ということが当たり前になっていますが、それは本当に恵まれたことなんだと実感しました。
松村:ただ、実習中には支援体制が手厚い場面にも遭遇しました。医療費を払えない患者さんを切り捨てるのではなく、ソーシャルワーカーなどが連携して支援していく姿勢は素晴らしいと思いました。
杉井:アメリカは合理性やシステム化もすごく進んでいると感じました。カルテを自分のスマホやPCからすぐ確認できたり、分業が徹底されていたり。医療費が高いこともあって、退院までのスピード感も日本とは全然違いました。
深澤:ドイツはまた違った意味で衝撃でしたね。まず、ワークライフバランスを本当に大切にしている。手術中でも休憩を取るし、勤務時間もかなり柔軟でした。
松村:手術中に休憩するんですか?
深澤:そうなんです(笑)。交代制で休憩を取ったりしていて、日本との違いをすごく感じました。
杉井:日本だと「最後までやり切る」という感覚がありますよね。
深澤:そうですね。でも、ドイツの先生方を見ていると、「短い時間で集中して高いパフォーマンスを出す」という意識が強いように感じました。
――働き方に対する価値観も違うのですね。
深澤:ただ、その分、患者側からすると不便さもあるのではないかと感じました。さまざまな店舗の営業時間が短い点や、病院の待ち時間が長い点等、日本はサービスの質が本当に高い国なんだなと感じました。
杉井:私は留学を通して、日本の「丁寧さ」の良さを改めて感じました。アメリカは合理的でスピード感がありますが、日本では多職種同士が細かくコミュニケーションを取りながら診療していて、その安心感は大きいと思います。
学びだけではない、人との出会い
――留学したからこそ得られたことはどんなことですか?
深澤:留学って、勉強だけじゃなくて、人との出会いが大きいですよね。
ルース:そうですね。診療科の責任者の先生が、留学生全員を自宅に招いてくださったこともありました。すごく温かい雰囲気で、「歓迎してくれているんだ」と感じました。
杉井:私は現地で活躍されている日本人の医師との出会いが印象的でした。アメリカ人の医師たちと息の合ったチームワークで手術をされていて、本当にかっこよかったです。現地の医師たちからもとても尊敬されていました。でも、それだけすごい先生なのに、すごく謙虚で誠実で。「自分も将来こういう医師になりたい」と思いました。
松村:私も、慶應出身の先生方にお会いできたのは大きかったです。海外でも慶應のつながりがあることに感動しました。
深澤:私は、慶應とは直接関係のない日本人の先生にもすごく助けてもらいました。海外に行くと、日本人同士のつながりのありがたみを感じます。
海外経験を、日本の医療の未来へ
――最後に、今回の経験を今後どのように生かしていきたいですか。
ルース:日本では今後、外国人患者さんがさらに増えていくと思います。そのときに、英語でスムーズに診療できる医師になりたいです。また、今後日本で医師として働くうえでは、日本ではまだ普及していない新たな医療知見にも常にアンテナを張り、必要に応じて日本への導入や応用を意識しながら診療にあたることで、患者さんに提供できる医療の幅を少しでも広げていきたいと考えています。
松村:今回、アメリカでチーム医療や教育体制を学びましたが、日本の良さも改めて感じました。両方を知ったうえで、日本の医療に貢献できる医師になりたいです。
杉井:今回の経験を通して学んだ積極的に学ぶ姿勢を、今後の臨床実習や研修でも持ち続けたいです。また、これまで研究にはあまり強い関心がありませんでしたが、臨床と研究が近い距離にある環境を見て、臨床研究の面白さも感じるようになりました。将来は、外科医として、特に移植医療に貢献できる医師を目指したいです。
深澤:私は、ドイツで見た働き方や価値観を通して、日本の医療を外から見直す視点を得られました。日本には日本の良さがありますが、海外の良い部分も取り入れながら、よりよい医療環境を考えていきたいです。
――今回の留学は、単に「海外で学ぶ」というだけではなく、日本の医療を見つめ直す機会にもなったのですね。
松村:本当にそうだと思います。
ルース:外に出たからこそ、日本の良さにも気づけました。
杉井:同時に、「もっとこうできるかもしれない」という視点も得られました。
深澤:留学は、医学だけではなく、自分自身の価値観を広げる経験だったと思います。このような機会を与えてくれた大学と両親にあらためて感謝をしています。