慶應義塾
Keio LIFE

# 6

若きを踊らす道半ばにて

#Person#Challenge
公開日:2026.06.17
高校時代から起業の世界に飛び込み、自らの手で未来を切り拓いてきた今井智紀。2025年9月には文部科学省のアントレプレナーシップ推進大使に任命され、全国の高校へ出向きながら若者に挑戦の価値を伝えている。周囲から信頼を集める穏やかな人柄の反面、その等身大の姿の裏には、次の世代へ挑戦の火を灯そうとする強い意志があった。

プロフィール

今井智紀

在学生/環境情報学部2年

取材当時(2026年1月)は、自身の活動に専念するため1年間の休学をしていた。大学では、経営学やファイナンス、中国語を中心に学び、好成績を収めている。また、無類のラーメン好きである。

手探りだった中高生時代

編集部O :

まず最初に、今井君がビジネスや起業に興味を持ったきっかけを教えてください。

今井君 :

最初にビジネスに興味を持ったのは中学生の頃です。親の勧めで、中学1年生のときに株式投資を始めたんです。ニュースや経済の話題を見ているうちに「企業ってどうやって成長するんだろう」とか「お金は社会の中でどう動いているんだろう」ということに興味を持ったのが動機でした。投資は単にお金を増やすというよりも、社会の仕組みを知るひとつの手段のように感じていました。

編集部H :

かなり早い段階から社会の構造に関心を持っていたんですね。

今井君 :

そうかもしれません。その延長線で、中学3年生の頃には友達三人で起業しようという話になりました。実際にビジネスのアイデアを考えて、簡単な計画も立ててみたんです。

編集部O :

中学生で起業を考えるのはかなり行動的ですね。その挑戦はどうなったのでしょうか。

今井君 :

残念ながらうまくいきませんでした。知識も経験も足りなくて、途中で計画が止まってしまいました。当時はかなり悔しかったですね。

編集部H :

その後は起業から少し距離を置いたのでしょうか。

今井君 :

高校に進学してからは、いったん勉強に集中しようと思いました。ただ、中学時代にいろいろ挑戦していた反動もあって、どこか燃え尽きたような感覚もありました。

編集部O :

そこから再び起業を志す転機が訪れたと。

今井君 :

はい。都内で行われていた高校生向けの起業家プログラムに参加したんです。そこで、実際にビジネスをしている同世代の起業家に出会って刺激を受けました。「同じ高校生でもここまでやっている人がいるんだ」、と。その経験を通して、もう一度自分も挑戦してみたいと思うようになりました。

今井君を囲むLigula主要メンバーの二人
編集部H :

そして大きな決断をされたわけですね。

今井君 :

はい。高校2年生のときに高校を中退しました。起業に集中するため、通信制高校に編入しました。

自身の事業について

編集部O :

高校を中退した後、株式会社Ligulaを創業されたんですね。

今井君 :

はい。高校2年生の頃に一人で立ち上げました。

編集部H :

Ligulaという社名にはどんな意味があるのでしょうか。

今井君 :

「Ligula」はラテン語で「型破り」という意味です。人が既存の枠組みに縛られるのではなく、自分の意思で挑戦するきっかけを作る会社にしたいと思って名付けました。

編集部O :

現在はどのような事業を展開しているのでしょうか。

今井君 :

主にアパレルを展開しています。人は、着るものによって気分や行動が大きく変わると思うんです。だから、服を通して挑戦する気持ちを後押しできるようなブランドを作りたいと思っています。単なるファッションではなく、メッセージ性のあるブランドなんです。

Ligula
編集部H :

素敵ですね。他にも何か活動はされているのでしょうか。

今井君 :

若い世代が夢を語り合うイベントを開催したり、夢に向けてどんな行動をするのかを言語化するアプリの開発も進めています。挑戦する人同士がつながる場を作りたいという思いがあります。また、教育事業にも取り組んでいます。高校3年生の頃に株式会社MoonJapanを創業しました。高校生向けの起業家プログラムで出会った仲間と二人で共同代表を務めています。

編集部O :

どのような事業なのでしょうか。

今井君 :

教員向けのDXサービスを提供しています。「探究」や「アントレプレナーシップ」をテーマに、大手企業や地域企業と協力して授業用コンテンツを作っています。

編集部H :

教育に取り組もうと思った背景は何だったのでしょう。

今井君 :

コロナ禍の経験です。当時、高校が社会と断絶されているような感覚がありました。学校の中にいるだけでは社会のことを実感できない。でも進路は高校生のうちに決めなければならない。その状況に違和感を持ちました。

編集部O :

それで社会との接点を作る仕組みを考えたと。

今井君 :

はい。学校の中にいても社会を知ることができる環境を作れないかと思い、この会社を立ち上げました。

編集部H :

ところで、なぜ大学に進学されたのですか。順調に事業を立ち上げていたのに。

今井君 :

正直、大学進学に強いこだわりはなかったです。行ったとしても海外大学かな、と。そのぐらいの考えでした。ただ、高校時代の先輩達の進路を聞いていくうちに、日本の大学も調べるようになって。そこで、SFC(慶應義塾湘南藤沢キャンパス)も知りました。

編集部O :

SFCを最終的に選んだ決め手はありますか。

今井君 :

「アメリカに行かなくても、日本に自分の理想に近い環境がある」と感じたからです。従来の日本の大学と違って、自由度が高く、個を限りなく重んじる風潮に惹かれました。自分がそれまで「行きたくない」と感じていた大学とは違うと思えたんです。入学後は、会社経営と両立しながら、中国語やファイナンスを重点的に勉強し、履修した講義の単位は全て取得しました。SFC、そして慶應の校風のおかげで、融通の利いた楽しく充実した生活ができています。

起業家としての苦難

編集部H :

順調に見えますが、やはり苦労もあったのでしょうか。

今井君 :

高校を辞めて、起業した最初の2か月は、売上が全く出ませんでした。正直かなり焦りました。

編集部O :

その状況をどう乗り越えたのでしょうか。

今井君 :

現状を変えたいと思って、修行の意味も込めて地域おこし協力隊のインターンに参加しました。そのご縁で岡山県笠岡市に住み込みで半移住することになったんです。それまで縁のなかった土地でしたが、地域の人たちと関わる中で視野が広がりました。都市とは違う価値観や働き方に触れることで、改めて自分の事業を見つめ直すことができたと感じています。

今井君
編集部H :

学生起業家ならではの悩みもあったのでしょうか。

今井君 :

やはり、社会人経験がないという点が大きな弱点でした。企業の意思決定プロセスをしっかりと把握できずに、経営を走らせないといけないのに恐怖心がありました。また、学生起業家という肩書きが有利に働く場面も勿論あるのですが、その反面、その肩書きありきで大人に判断されてしまうという難点もあります。

編集部O :

どういうことでしょうか。

今井君 :

肩書きが外れた瞬間、自分には何も価値が残らない可能性が出てくるんです。そのため、如何に自分を「固定資産」にできるか、を常に意識していました。お世話になった、師の教えです。自身の立場を、冷静に俯瞰し、分析することを心がけています。

編集部H :

経営についてはどのように考えていますか。

今井君 :

経営は常に危機と隣り合わせだと思っています。キャッシュがあるかどうかで会社の安定性は大きく変わります。大きな投資をしなければ、会社はすぐに倒産するわけではありません。仮に資金繰りが厳しくなったとしても、自分がアルバイトをして資金を入れることもできます。会社を維持するコストは、僕の会社の場合、年間20万円ほどで済みます。経営には、挑戦的な志と同じぐらい、堅実な姿勢が大切なんです。

今井智紀として

編集部O :

今井君の将来の目標を教えてください。

今井君 :

日本のウォーレン・バフェットのような存在になりたいと思っています。事業会社を経営しながら投資も行うのが目標です。いわゆる、コングロマリット型の経営者です。資本だけでなく、人の情熱やアイデアも含めて配置しながら、新しい産業を生み出していきたいと思っています。要するに、利益だけでなく産業を育てる存在、ですかね。

編集部H :

では、様々な分野において自分の色はどう見つければいいのでしょうか。

今井君 :

自分の色を出そうとしすぎないことが、逆に一番色が出ると思っています。長い時間をかけて、自分がやりたいことを続けていく。その積み重ねが自然とその人の個性になるのではないでしょうか。自分らしさを求め、演出を無理に施そうと力むほど、結果的に何も残らないものです。

編集部O :

同世代に向けてメッセージをお願いしたいです。

今井君 :

自分の人生は自分で決めるべきだと思います。もちろん親や先生の言葉には感謝することが大切です。ただ、最終的にどんな道を選ぶかは自分自身の問題だと思います。そして、実際に小さくてもいいから一歩踏み出してください。行動を通して、成果を得ることで、次にやりたいことが連鎖的に見えてくるかもしれません。また、やりたいことが見つかるまで、流れに身を任せてみるのも大切な選択のひとつです。

編集部H :

冷静に、でも挑戦的に。今井君らしい言葉です。

今井君 :

自分の意思で挑戦をし、失敗したとしても、それは必ず糧になります。一方で、他人の意思決定に従い、行動した結果での失敗は後悔や恨みが残り続けてしまう可能性があるんです。これだけは避けて欲しいです。自分を信じて。

編集部O :

ありがとうございます。最後に一言お願いします。

今井君 :

あなたはどちらの人生を選びますか。

今井君

ありきたりながらも、静かに、でも確かに、問いは投げかけられました。

取材・撮影

T.O

卵かけご飯を食べるとお腹を壊す 。暇な日には、本を読んで、友人と散歩をして、二郎を食べる。最近、ギターを始めました。二十歳。

ねろり

出生地と留学先が東南アジアでした。1年で一番夏が好きです。社会学を勉強しています 。息抜きは、カラフルな絵を描くことです 。ネロリの香りが好きです。

M.H

散歩をしながら、何気ない日常の風景を写真に収めるのが好きです。見慣れた街並みの中にも小さな発見や特別な瞬間が隠れていると感じることが多く、そんな「気づき」を大切にしながら過ごすことを日々大切にしています 。


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