伊勢の伊勢海老
坂田 巧(さかた たくみ)
割烹『大喜』取締役会長、前伊勢三田会会長・1970法
伊勢海老は千葉県以南の太平洋側の暖かい海で漁獲されます。近年は海水温の上昇や、黒潮の大蛇行により東北地方でも取れるようになってきています。
古くから三重県の志摩地方が日本一の漁獲量を誇っており、朝廷の儀礼用に伊勢から献上されたり、伊勢神宮の神事にお供えとして使われていたことで伊勢海老と言う名前で全国に通用しています。
伊勢海老は全て天然物ですので、資源保護のため夏の産卵期には禁漁となります。10月に解禁されますが、12月、1月の最も寒い時期が一番美味です。伊勢志摩の伊勢海老が日本で一番旨いのは、年間降雨量最多の紀伊半島の中央にある大台山系に降った雨が、森の木々を伝い土の中を抜けミネラルをいっぱい含んだ水となって伊勢湾へ注ぐ。そこでプランクトン豊富な海水と混じりあい、さらに栄養価を高めその海水で育った海藻類を伊勢海老が食べて育つため他所より一層美味しい伊勢海老となるわけです。
10月、解禁になりましたら伊勢海老を食べに、伊勢へお越しください。
海老名の恵みとともに
橋場 友一(はしば ゆういち)
泉橋酒造株式会社6代目蔵元・1992商
海老は祝いの席に欠かせぬ食材である。長い髭と曲がった腰は長寿の象徴とされ、焼いても茹でても日本酒との相性は格別だ。その名を持つ神奈川県海老名市は、神奈川の真ん中あたりに位置し、かつては相模国分寺も置かれていた悠久の歴史を持つ。大きな海老が棲んだという伝説や、曲がった地形を指す古語が転じたとする諸説があるが定かではない。
私が家業を継いで6代目をつとめる「泉橋酒造」はこの海老名の地で1857年創業、「酒造りは米作りから」を信条に、自ら田を耕し、日本酒の原料となる酒米を育てている。会社のシンボルマークは「とんぼ」。前にしか進まない縁起の良い虫であることと、農薬や化学肥料を抑えることで、田んぼに生きる生き物の代表であるとんぼが飛び交うような農業への取り組み姿勢を表している。
最近では創業からの銘柄「いづみ橋」よりも「とんぼ」のほうがポピュラーになりつつある。海老が長寿を寿ぐように、いづみ橋の酒がこの土地の恵みとともに末永く愛されることを願ってやまない。
海老と地方創生
平野 彩(ひらの あや)
(株)Seaside代表取締役・2004政
海老は種類や季節によって季語が異なるそうです。おせち料理や祝膳に欠かせない伊勢海老は新年、夏の時期ですと淡水で生息する手長蝦。このように古くから日本は海老を好んでいたようです。
そんな海老ですが、日本の海老の自給率は、重さを基準とした重量ベースで5%と、海に囲まれた島国であるにもかかわらず非常に低いのが現状です。
私はこの現状を目の当たりにし、9年前に海老の陸上養殖および、陸上養殖の設備ノウハウ販売を行う会社を設立しました。陸上養殖は沖合や海岸で行う養殖に比べ、担い手の身体上の負荷や危険は少なく、天候にも左右されにくいため、通年での出荷も可能、と多くの利点があります。
日本で初めて農地を活用したバナメイエビの養殖を行ったということで、テレビ・新聞・雑誌などに多数取り上げていただきました。遊休地を活用して陸上養殖という新たな産業を生み出し、雇用を創出し、食料自給率の向上に寄与し、地方創生に少しでも貢献できればと思っています。
海老が語る生命の不思議
足立 晴彦(あだち はるひこ)
慶應義塾大学先端生命科学研究所特任助教
海老といえば食材としておなじみですが、私にとっては生命の不思議を見せてくれる存在です。私が研究に用いているのは、観賞用として親しまれている透明なカワリヌマエビ属の一種です。透明なため、生きたまま体の中を観察することができます。現在は、遺伝情報の解析や遺伝学的な実験手法の整備も進めています。これにより、細胞の振る舞いをより詳しく観察し、その背景にある仕組みを理解できるようになると期待しています。透明な海老は、体の中で何が起きているのかをのぞき見ることができる、小さな「窓」のような存在です。その窓を通して観察を続けることで、これまで知られていなかった細胞の振る舞いや生命現象が見つかるかもしれません。
最近は、透明な幼生期をもつ伊勢海老の研究も行っています。葉のように平たい幼生が、海底で暮らす海老らしい姿へと変わる様子は実に見事です。
海老たちは、生き物の体の中で何が起きているのかを教えてくれる存在です。その不思議を少しでも理解したいと考えています。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。