執筆者プロフィール
福島 幸宏(ふくしま ゆきひろ)
文学部 准教授専門分野/デジタルアーカイブ
福島 幸宏(ふくしま ゆきひろ)
文学部 准教授専門分野/デジタルアーカイブ
私たちは今、膨大な情報が瞬時に生成され、即座に消費される時代に生きている。その一方で、地域の歴史や人々の生活の営みを伝える記録は、少子高齢化による地域社会の崩壊や頻発する災害などによって日々失われつつある。
そのなかで私は、文化資源のデジタル化とその利活用に関心を持ち、「様々なデジタル情報資源を収集・保存・提供する仕組みの総体」と定義されるデジタルアーカイブを専門として名乗っている。これから語るのは、この鵺(ぬえ)のような立ち位置から、分野横断的に触れている文献、研究会、そして多様な知人との会話から組み立てた一種の妄想である。
この間、日本の各地では大規模な面的開発が相次いでいる。これ自体は新しい現象ではなく、アジア太平洋戦争後に限定しても、ダムや高速道路の建設、住宅団地や都市の再開発など、その事例は枚挙に暇がない。ただ従来と様相をことにしているのは、デジタル撮影の手法の深化によって、変化する地域の状況をごく手軽に、また多様な形でアーカイブできるようになったことである。例えば、成田空港の拡張工事によって移転する村々の記録を、住民や開発者と連携しながらデジタル機器をも駆使して記録していこう、という活動が歴史学の研究者を中心に取り組まれている。ここだけに留まらず、各地でこのような記録活動が熱心に行われている。
地域変容の記録を詳細に残す、という行為がデジタルアーカイブ領域に加わってきている。ただし、制度的なバックボーンなく、個々の研究者がそれぞれに活動するのであれば、それは各個撃破に留まる。また、2026年に集積したデータが2076年に利活用できる形で遺せるかも心許ない。
ここで思い起こされるのが、高度成長期前後に整備された埋蔵文化財行政の成立過程である。開発によって無数の遺跡が破壊の危機に直面するなか、原因者がその記録保存(発掘調査)費用を負担し、記録を行う専門家を行政が雇用するという仕組みが定着した。社会の合意として開発による地域の変容が避けられないのであれば、この経緯などに学びつつ、地域の記録を遺す新しい仕組みをデジタルアーカイブの立場から構想することは許されるのではないか。そしてそれは、どのディシプリンにおいても周縁にいる鵺が紡ぐ妄想、ただし実現への手触りのある妄想である。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。