執筆者プロフィール
寺本 和弘(てらもと かずひろ)
一橋大学大学院経済学研究科講師商学部 卒業2013商 専門分野/マクロ経済学、労働経済学
寺本 和弘(てらもと かずひろ)
一橋大学大学院経済学研究科講師商学部 卒業2013商 専門分野/マクロ経済学、労働経済学
人が経済学に興味を持つきっかけは、何だろうか。関心を引かれる社会現象は人によって違っても、その背後にどのようなメカニズムが働いているのかを知りたいという思いは、ミクロ・マクロを問わず、経済学に関心を持つ人々に共通する入口なのだと、私はどこかで考えていた。
ところが、学生との会話や研究テーマの相談を通じて、意外とそうではないのかもしれないと思い始めた。社会現象が生じるメカニズムを解き明かすことを出発点とするのではなく、「この政策は実際に効果があるのか、あるとすればどのくらいなのか」を、データから直接検証することを探究の端緒とする学生も少なくないように感じたからだ。
確かに、自分自身に置き換えて考えてみれば、そのような関心はごく自然なものである。風邪をひいて医者にかかったとき、何にお金を払っているかといえば、症状の詳しい原因を知ることに対してではなく、治療によって症状が改善することへの期待に対してである。政策についても、その仕組みを理解することに先立って、まず実際に効果があるのかを知りたいと考えるのは、自然なことなのかもしれない。
近年の経済学の潮流を思えば、すでにお気づきの方もいるかもしれないが、こうした関心が経済学への入口になりやすくなった背景には、おそらく、因果推論をはじめとする実証分析手法の発展があるのだろう。それによって経済学は以前よりも、「効果を知りたい」という身近な問いに向き合う学問として見えやすくなったのかもしれない。
ただし、検証できる政策には限りがある。多くの場合、それはすでに試された政策や、それに近い経験がある場合に限られる。社会が初めて直面する課題に対して新しい政策を実行するときには、それがなぜ効きうるのかを事前に考え、社会に向けて説明する必要がある。
社会現象の背後にどのようなメカニズムが働いているのかを知りたいという思いは、それ自体が経済学の魅力である。しかし、メカニズムを考えることは、知的好奇心を満たすだけでなく、まだ十分な経験のない問題に向き合うための手がかりにもなる。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。