慶應義塾

吉藤 歩:境界を越え、知をつなぎ、社会に還す

公開日:2026.06.19

執筆者プロフィール

  • 吉藤 歩(よしふじ あゆみ)

    鳥取大学医学部臨床感染症学講座教授医学部 卒業

    2007医 専門分野/ライフサイエンス、感染症内科学

    吉藤 歩(よしふじ あゆみ)

    鳥取大学医学部臨床感染症学講座教授医学部 卒業

    2007医 専門分野/ライフサイエンス、感染症内科学

私は慶應義塾大学医学部で学び、腎臓内分泌代謝内科および感染症学教室で研鑽を積み、2026年2月より鳥取大学医学部臨床感染症学講座教授を拝命し、感染症診療・研究・教育に携わっています。慶應義塾大学で得た最大の財産は、分野や国境を越えて人とつながる力、そして既存の枠にとらわれない発想でした。医学にとどまらず多様な分野の仲間と議論する中で、「知はつながることで新しい価値を生む」という実感を得てきました。

私の研究は常に臨床の現場から始まります。糖尿病や慢性腎臓病、透析患者さんがなぜ感染症にかかりやすいのかという問いを出発点に、免疫応答やワクチン効果の解析へと展開してきました。新型コロナウイルス、帯状疱疹、RSウイルスワクチンについては、国内外の免疫学者と連携しながら研究を進めています。異なる分野・異なる国で得られた知見を統合し、最終的に患者さんの予防や診療へと還元する──この循環こそが、私の考える研究の本質です。

スイス・チューリヒ大学への留学では、「新しい視点を持つこと」の重要性を学びました。従来無菌と考えられていた尿にも細菌叢が存在し、それが耐性遺伝子の伝播に関与する可能性があるという新たな概念に至ったのも、分野を越えた対話の中からでした。また現地では三田会を通じて多様な領域で活躍する方々と交流し、慶應のネットワークが世界規模で機能していることを実感しました。

研究を前に進める原動力は、人と人との関係性にあります。異分野とのコラボレーション、産学連携、国際連携はいずれも、相手の考えを尊重し理解することから始まります。私はこれを「Harmony」と捉えています。そして学生時代に学んだボート(端艇)の精神、All for one, one for all は、現在のチーム医療や共同研究の現場においても重要な基盤となっています。

これからの時代に求められるのは、既存の枠にとらわれず本質的な問いを立て、それを社会に還元できる人材です。若い世代が「なぜか」を問い続ける力を育み、世界に挑戦できる環境を整えることが私の役割だと考えています。臨床・研究・社会を往還しながら、境界を越えて知をつなぎ、その成果を社会へ還元する──この実践をこれからも続けていきます。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。