慶應義塾

武末 翔吾:金属と人間の表面と内面

公開日:2026.06.17

執筆者プロフィール

  • 武末 翔吾(たけすえ しょうご)

    京都工芸繊維大学機械工学系准教授理工学部 卒業理工学研究科 卒業

    2013理工、15理工修、19理工博 専門分野/機械材料、材料強度学

    武末 翔吾(たけすえ しょうご)

    京都工芸繊維大学機械工学系准教授理工学部 卒業理工学研究科 卒業

    2013理工、15理工修、19理工博 専門分野/機械材料、材料強度学

筆者は慶應義塾に在籍していた学生の時より、機械構造物に用いられる金属材料の表面改質に関する研究に携わっている。金属表面の特性が、その材料全体の特性を支配する場合は多い。例えば表面を強くしてあげれば、疲労亀裂が発生、進展しにくくなり、疲労破壊しにくくなる。表面を硬くしてあげれば、摩耗しにくくなる。化学的に安定にしてあげれば、耐食性が上がりさびにくくなる。このように、表面のみを「より良く」してあげれば、材料全体の特性を向上できることは多い。一方、表面のみを良くしても、向上できない特性もある。例えば、金属を引っ張ったときに真っ二つに破断するときの応力(引張強さ)は、表面の特性のみを向上させても上昇しない。材料全体に高い力が負荷されるような過酷な環境では、材料内部の特性が重要になる。

このような金属材料の研究をしていると、たまに金属は人間と似ているのではないか、と思うことがある。人間も表面(外面?)だけ良くしておけば、日常の多くの場面で良い評価を得られることが多いだろう。それは、社会を渡り歩くためには必要なことでもあるかもしれない。しかし、差し迫った状態(材料が思いっきり引っ張られているような)では、その人の内に秘めた考え、性格などが表れてくる。研究者や企業の不正などもしばしば報じられているが、そのような可能性にさらされる時に、いかに足を踏み入れず、対抗できるかは、その人の内面の強さが重要になるだろう。

筆者が慶應義塾で学位を取得し、現所属に異動してから約7年、独立して研究室を運営するようになってから約1年が経った。大学の講義では技術者倫理を担当し、学生に「自身の考えに基づき正しい行動をしなければいけない」と伝えている。研究室でも多くの学生と接するようになり、「この学生は本心ではどのように考えているのだろう」と思うこともある。逆にいうと、学生も「この先生は信念をもって教育・研究をやっているの? 裏では何を考えているの?」と思っているということだろう。

まだ若輩者ではあるが、学生に対して恥ずかしくない教育者・研究者であるために、今後も金属表面の研究を続けつつ、人としては内面を磨かなければと思う。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。