慶應義塾

水門 善之:AI・ビッグデータ時代の社会経済研究

公開日:2026.04.14

執筆者プロフィール

  • 水門 善之(すいもん よしゆき)

    システムデザイン・マネジメント研究科 准教授

    専門分野/社会経済システム

    水門 善之(すいもん よしゆき)

    システムデザイン・マネジメント研究科 准教授

    専門分野/社会経済システム

人気映画『ワイルド・スピード』シリーズに登場する「神の目」は、携帯電話や監視カメラ、通信ネットワークなど、あらゆるシステムに侵入できる世界最強のハッキングシステムである。従来であれば長期間を要した追跡調査が、瞬時に完了してしまうという設定だ。

さて、私は自身の専門分野を「社会経済システム」としている。具体的には、社会の動きをデータから読み解く研究を行っている。ここでは、その一例を紹介したい。

例えば、人工衛星から放つマイクロ波の反射情報を用いて地表を計測する技術がある。これにより、商業施設の駐車場の利用状況や、海上に浮かぶ船舶の分布、牧場にいる牛の群れの様子まで、地球上の多様な活動が把握できる。

同様に、インターネット上の膨大なデータも活用する。SNSを分析すれば人々の関心の所在がわかり、ウェブトラフィックデータからは、任意のサイトの閲覧者の行動特性が分析できる。さらに、クレジットカードの決済情報を用いれば、ホテルに宿泊する旅行者の居住地を推定できる。ただし、ノイズやサンプルバイアスは避けられない。そこで当研究室では、複数のデータを組み合わせて分析精度の向上を図っている。たとえば、スマートフォンのログ情報も用いれば、立科のホテルに宿泊した人のうち、横浜市港北区日吉からの来訪者の割合まで推計できる。

これらは一見するとSFのように思われるかもしれないが、実際には私の研究室で即座に把握可能な内容である。さらに、こうしたビッグデータに心理特性や生体データを組み合わせた研究も進めている。顔画像や瞬きのパターン、心拍変動データの解析に加え、人格データに基づくマルチエージェントによる仮想社会シミュレーションも行っている。

映画ではフィクションとして描かれた「神の目」に近い世界は、すでに現実となった。もちろん、データを追跡するだけでは、表層的な傾向しか捉えられない。だからこそファンダメンタルズを重視し、経済学、情報科学、物理学、医学、心理学といった学問分野を横断して研究を進めている。学ぶべきことは多いが、先人の知見を活用し、多くの仲間と大学という自由度の高い環境で研究できることは、非常に恵まれたことである。その幸運に感謝したい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。