殿町タウンキャンパス(義塾内の組織上名称:殿町先端研究教育連携スクエア)は、2016年の開設から今年で10年の節目を迎えた。新川崎、鶴岡に続く3つ目のタウンキャンパスである。
川崎市川崎区「殿町」の地名は、戦国時代に上杉家の武家屋敷があったことに由来する。殿町タウンキャンパスは、かつていすゞ自動車の川崎工場があった跡地に整備された殿町国際戦略拠点「キングスカイフロント」内に開設している。羽田空港から多摩川を挟んだ対岸で多摩川スカイブリッジを渡って車で10分ほど、首都高速と東京湾アクアラインが接続する浮島ジャンクションの近くに位置する。
義塾におけるタウンキャンパスの意義は、単に「地方にサテライトキャンパスを置く」ことにはない。「地域そのものを研究・教育・社会実装のフィールドとし、実学を実践する」点にある。殿町では自治体や周辺の研究機関、企業等とのオープンイノベーションを通じて、産学官公連携のエコシステムを着実に築いてきた。
その下で最大の特徴は、学部や専門の垣根を越えた学内連携による学際研究だ。医学、理工学、薬学、看護医療学といった多岐にわたる学問領域が融合し、日々活発な共同研究が行われている。なかでもヘルスケア領域に強く、健康マネジメント研究科・スポーツ医学研究センターとの協働により2025年度から始まった「川崎みらいアクティブ・プロジェクト(K-MAP)」では、75歳から79歳の川崎市民約1,000名を対象に、超高齢社会における健康長寿のロールモデル構築と、地域社会への成果還元を目指している。
また、「再生医療リサーチセンター」の存在も大きい。再生医療・遺伝子治療研究等を行う研究センターとして、多様な疾患のモデル化や病態解明、iPS細胞創薬による難治性疾患の治療法開発など、世界水準の研究成果を発信してきた。さらには神奈川県内や多摩川対岸の大田区羽田地区の大学・研究機関・企業が連携し2024年に発足した「殿町・羽田再生医療拠点」の一角として、基礎研究から臨床応用、産業化までを一貫して見据えたグローバル展開の体制づくりにも寄与している。
同時に、次世代を見据えた教育活動の場としての役割も担う。小・中学生を対象としたジュニアドクター育成プログラム「KEIO WIZARD "GLOCAL"」では、システム思考とデザイン思考を通じて身近な課題と世界の問題を結びつけ、自ら解決に動ける未来の科学者を育てている。
開設から10年。地域に根づきながら世界最先端研究の拠点として歩んできた殿町タウンキャンパスは、実学の実践として研究成果の社会実装を体現しながら、次の10年に向けた歩みを進めている。
(学術研究支援部産学連携担当、元殿町タウンキャンパス事務長 田中 翼)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。