慶應義塾

森 春菜:パリで花開く、規格外

公開日:2026.10.29

執筆者プロフィール

  • 森 春菜(もり はるな)

    ANNA DIAMONDファウンダーデザイナー文学部 卒業

    2019文

    森 春菜(もり はるな)

    ANNA DIAMONDファウンダーデザイナー文学部 卒業

    2019文

AIが猛威を振るう昨今、つるつるとした"綺麗"なもので溢れる社会になったと思う。


大学卒業後、コピーライターを経て、形あるものに憧れジュエリーブランド、ANNADIAMONDを始めた。廃棄された電子機器から精製した金属や、これまでは規格外とされたユニークな色や形のアコヤ真珠、採掘や児童労働と縁遠い人工のダイヤモンドを扱い、ジュエリーをデザイン、販売している。真珠については、毎年愛媛・宇和島まで仕入れに伺う。養殖家さんが3~5年かけて育てた珠のうち、真円と呼べるものは1割ほど、残りは規格外とされる。私が選ぶのは、その規格外のほうだ。全てのジュエリーは、「みんな違って、みんな良い」という考え方に近しい言葉を起点にデザインしている。


ブランド名のANNAとは、私の10歳年下の妹の名前だ。彼女が私と同じ年齢になる10年先の未来が、希望のある場所であってほしい。その未来に貢献できるブランドでありたいという想いから、ANNA DIAMONDと名付けた。


私はざらざらしたものに強烈な美を感じる。物理的なざらざらではなく、哲学的な意味でのざらざらだ。社会には"正解"と言われるものを少しずつつまみ食いして構成するような、"綺麗"なものが溢れている。AIの台頭もあり、誰もがそういうものを簡単に生産できるようになった。でも私は、誰かの強烈な想い、偏りのある個性、そういう肌触りを感じるものにこそ強烈な引力を感じるのだ。


この感覚は大学時代に体得したと思う。学生時代、私は文学部の美学美術史学専攻にいた。歪んだ茶碗を最上とする東洋の美意識に触れたとき、美しさとは整っていることではないのだと腑に落ちた。資本主義社会ですぐに役立つ知識ではない学問に、社会へ出る直前のモラトリアム期間を丸ごと使えたことは、いま思えば途方もなく贅沢だった。そこで得た感覚は、私自身の血肉となっている。


昨年10月、私はブランドと共に、東京からパリに拠点を移した。つるつると"綺麗"なものが溢れた現代社会でこそ、私の偏重した暑苦しいほどの想いが詰まったジュエリーの美しさは、言語の壁を越えるのではないかと信じての挑戦だ。私自身も、正解の生き方を目指すのではなく、規格外でも、体当たりでも、泥臭くとも、ざらざらとした最高の手触りに溢れた人生を築いていきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。