登場者プロフィール
鳥居 大資(とりい だいし)
鳥居食品(トリイソース)代表取締役社長経済学部 卒業1993年慶應義塾大学経済学部卒業。浜松にて100年以上続く老舗のソースメーカーを経営。焼そば専用のソース「焼そばソース」を開発・販売している。
鳥居 大資(とりい だいし)
鳥居食品(トリイソース)代表取締役社長経済学部 卒業1993年慶應義塾大学経済学部卒業。浜松にて100年以上続く老舗のソースメーカーを経営。焼そば専用のソース「焼そばソース」を開発・販売している。
小松 友子(こまつ ゆうこ)
手作りキッチン工房Bonheur(ボヌール)主宰商学部 卒業1993年慶應義塾大学商学部卒業。料理研究家。SNS総フォロワー30万人。食育インストラクター。著書に『マルちゃん焼そば世界の旅レシピ50』がある。
小松 友子(こまつ ゆうこ)
手作りキッチン工房Bonheur(ボヌール)主宰商学部 卒業1993年慶應義塾大学商学部卒業。料理研究家。SNS総フォロワー30万人。食育インストラクター。著書に『マルちゃん焼そば世界の旅レシピ50』がある。
白澤 勉(しらさわ つとむ)
日清食品執行役員、マーケティング部長法学部 卒業1997年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2026年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。日清焼そばU.F.O.のブランドマネージャーを歴任。
白澤 勉(しらさわ つとむ)
日清食品執行役員、マーケティング部長法学部 卒業1997年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2026年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。日清焼そばU.F.O.のブランドマネージャーを歴任。
ソース焼そばとの向き合い方
私は卒業後すぐに日清食品に入社して、約30年間、勤めています。
今はマーケティング部長という役職に就いていますが、以前はカップ焼そば「日清焼そばU.F.O.」のブランドマネージャーを担当していました。
私は家業がトリイソースというソースメーカーで、今年で創業102年になります。
4年ほど前から焼そば専用ソースを開発して販売しています。今日はソースメーカーの視点から焼そばについて語れればと思います。
私は卒業後、社会人生活を経て、いくつかの海外ベーカリーで修業した後、手作りキッチン工房Bonheur(ボヌール)を開きました。現在はそこで料理教室を行う傍ら、レシピ開発やSNSでの情報発信を行うほか、食育インストラクターとしても活動しています。
その活動の一環として昨年、『マルちゃん焼そば 世界の旅レシピ50』(イカロス出版)というレシピ本を出したんです。
これは東洋水産の「マルちゃん焼そば」を使って日本だけではなく、世界各国の料理を再現しようという本です。お蔭様でこの本を作っている時には1日5食、焼そばを食べることもありました(笑)。
そのため焼そばについては色々と語ることができるのではないかと思います。
奥深きソース
焼そばと一口にいっても色々ありますが、やはりその中でもソース焼そばの持つ魅力って独特だと思うんです。
というのも、ソース焼そばが苦手という人を私は見たことがなくて。もはや国民食と言っても過言ではないのではないかと。
確かに、あまり嫌いな人はいないかもしれませんね。
レシピ本でも世界の焼そばのページと日本の焼そばのページがあるのですが、日本の焼そばはやはりソースなんです。ソースだったら味が単調になるかと思いきや、そうではなくて、基本のソースに何をプラスアルファするかによって変わってくる。醤油を加えるのか、ケチャップを加えるのかで、そこから新しい味の展開が始まるんです。
色々な調味料とかけあわせることで、味わいが変わるんですね。
私は他の料理のレシピでも隠し味でソースを使うことが多いのですが、少し入れるだけで、一気に日本の味になるんです。
日本人に馴染みのない異国の味も、ソースを入れるだけで日本人の口に合う味になるのは本当に不思議ですよね。
元々ソースはたくさんの野菜を煮込んだものに香辛料を加えて作るものですね。ベースが野菜なので、他の調味料とも喧嘩せず、味を纏めてくれる。
ソースにも色々ありますが、よく使うのはウスターソースです。一番汎用性が高いので。
ただ、普段食卓でウスターってなかなか使わないんですよね。中濃やとんかつソースはよく使いますが。
関西はウスターが主流ですね。
そうなんですか。
元々、ソースはイギリスで生まれて、明治時代に日本に輸入されました。最初はウスターソースしかなかったのですが、その後、オリバーソースがとんかつに合う「とんかつソース」を開発したんです。
オリバーソースは関西の企業だったので、ウスターソースととんかつソースを使い分ける文化は関西で定着しました。そのため、関西の人たちはこの2種類のソースを使い分けられるのですが、関東の人は使い分けられない。それでキッコーマンが開発したのが「中濃ソース」なんです。
関西では中濃ソースに馴染みのない方が多いですよね。
地図で見ると、静岡県までは中濃ソースがよく使われているんですよね。これが愛知県、三河地区あたりになってくると使われる味噌も渋味のある八丁味噌になるからか、中濃ソースよりもウスターソースが好んで使われるようになる。
何種類もソースがあれば、様々な料理で使い分けられる反面、冷蔵庫の場所を取ってしまうのがネックですよね。その点、ウスターソースはそれさえあれば色々な料理に使える。
料理好きな方は、ウスターソースを好んで使う人が多いようですね。一方、料理が苦手な人はウスターソースではなく、中濃ソースをよく使うようです。
関西のスーパーマーケットでソースの売り場を見ると、ものすごく沢山の種類があります。中にはどう使うのかわからないものもあるくらい(笑)。
関東や静岡は消費量こそそれなりにありますが、種類は多くないですね。関西はメーカーの数も多いですし、家庭によってこだわりもすごいですよね。「うちは○○ソース一筋!」といった感じで(笑)。
カップ焼そばの味の変遷
日清食品さんは元々関西発祥の企業ですが、やはりそのことが味に影響を与えているのですか。
おっしゃるとおり、関西発祥の企業ということもあり、焼そばのソースもドロッとした濃厚な味わいを重視してきました。というのも関西にはたこ焼きやお好み焼きといった、粉もの文化があり、粘性が高いソースが好まれる傾向があるからなんです。
他社さんのソースは比較的薄く、さっぱりしたものが多いですが、うちのソースはとにかく濃さを強調している。
ソースの味を地域によって変えたりしているんですか。
以前、東日本と西日本で変えていたこともあるのですが、現在は全国で同じ味のものを使っています。実はカップ焼そばは地域性が強くて、シェアが地域によってまるで違うんですよ。
北海道では「やきそば弁当」(東洋水産)、東北は「焼そばバゴォーン」(東洋水産)、関東は「ペヤング」(まるか食品)の存在感が大きく、静岡より西は「U.F.O.」が強いですね。一方で、「一平ちゃん」(明星食品)は地域による偏りが比較的小さいです。
本当に色々な種類があるんですね。
ペヤングも今は全国のコンビニで売っているので認知度も上がりましたが、元々関西の人たちにとって身近な存在ではありませんでした。関西の人たちにとってカップ焼そばといえば「U.F.O.」なんです。
一方、「U.F.O.」は関東のシェアが課題でした。そこで以前、関東でのシェア拡大を目指してソースを変えた商品を発売したのですが、思うような結果は得られませんでした。今では地域ごとに味を変えるのではなく、ブランドとして1本筋の通った味を追求することが大切だと考えています。
私のイメージでは、西に行けば行くほどソースって甘くなっていく傾向があるのですが、「U.F.O.」のソースも重視しているのは甘さなのでしょうか。
どちらかというと、重視しているのは風味ですね。消費者の方々は、家庭で作る焼そばとカップ焼そばは別物だと認識されていると思うのですが、私たちはカップ焼そばでも、鉄板やフライパンで作った焼そばを口にした時と同じような感覚を再現したい。
そこで重要になるのが、実は油なんです。「U.F.O.」のソースをお皿に出してみるとわかるのですが、かなりの量の油が入っているんです。
いわゆる香味油ですね。
はい。その油に鉄板で焼いた焼そばのような香ばしい風味を纏わせています。「U.F.O.」には欠かせない調味料の1つです。
実は焼いていない"焼そば"
先ほどカップ焼そばと焼そばの違いの話が出ましたが、実は縁日などの鉄板で作る焼そばと家庭で作る焼そばも別物なんです。
なぜかというと、家庭で作る際、フライパンでお肉を炒めてから、次に野菜を入れる。そして最後に麺を投入するのですが、その際に水をかけるんです。つまり焼いているというよりも蒸している、といったほうが正しい。
確かに。鉄板で焼く時には、フライパンで調理する時ほど水は使わないですね。
先ほどのレシピ本用のメニューを試作している途中、「何かが違う」って思って。そこで思い切って麺を先に焼いてみたんです。
具材を入れる前に、先に焼いてしまうんですね。
フライパンに油を敷いて、焼き色がつくまで焼いてしまう。なんなら裏返しにして、また焼く。それで麺は取っておく。
そこから肉・野菜を炒めて、最後に焼いた麺を入れる。こうして作ると、まるで別物です。
そんなに違いますか。
通常通り水を入れるやり方だと、麺が蒸し上がってふっくらするんです。ただふっくらしている分、ソースを吸わない。一方、麺を先に焼いておいて水分を飛ばしておくと、最後にフライパンに戻してソースを入れた時に、すごくソースを吸うんです。
やはり焼そばって、具材よりも麺にソースの味が付いていたほうが断然美味しいんです。今回、このやり方をして、あらためてそのことに気付きました。
蒸し麺自体が、そもそも油でコーティングされているんですよね。ソースは見ての通り液体なので、そのままかけても油に弾かれてしまう。そのため、でん粉たっぷりの、とろみのあるソースでないと麺に絡みにくい。
それを解決してくれるのが、麺を1回焼くという工程なんです。
本当に美味しい焼そばを作ろうと思うと、結構手間がかかるんですね。
その点、やっぱりマルちゃん焼そばってよく考えられている。何より素晴らしいのが、素人が作っても美味しく作れるようになっているところです。実はその一番の要因となっているのが、あの粉末ソースなんです。
先ほども言ったように蒸し麺は油でコーティングされているので、液体だと弾かれてしまいますが、粉末ならその心配もない。それに肉や野菜に塩を振って炒めると、水分が出て味がぼやけてしまう危険がありますが、それも粉末が余計な水分を吸収してくれる。液体のソースを作っている身からすると、優秀すぎる存在です。
確かに。普段料理をしない人も簡単に作れますね。
僕も「何で世の中に焼そば専用ソースってそんなにないのだろう?」ってずっと疑問だったのですが、自分で作ってみてよくわかりました。マルちゃんの粉末ソースが優秀すぎて、なかなか勝てないからなんです(笑)。
日清食品からも出ていますが、実は焼そばには蒸し麺やカップ焼そばの他に、インスタントラーメンの袋麺タイプの商品もあるんです。1963年に発売した「日清焼そば」がその元祖で、発売当初から粉末ソースを使っているんです。
それはどのように作るのですか?
フライパンに水を張って、麺をその中に置きます。麺をほぐしつつ、水分が飛んだところで粉末ソースを入れる。最後に炒めて出来上がりです。
実は関西では蒸し麺タイプと並ぶほどの人気で、「日清焼そば」を食べて育ったという人も多く、ソウルフードの1つと言ってもいいくらいの存在なんです。
カップ焼そばのソースは液体ですが、袋麺は粉末なんですね。
ええ。というのも、カップ焼そばは液体ソースとの相性がいいんです。
カップ焼そばはお湯を入れて、湯切りをしてからソースを混ぜますが、粉末ソースだとダマになってムラが出やすい。その点、液体ソースは均一に混ざりやすいし、油によって艶も出せる。だから「U.F.O.」でも液体ソースを採用しています。
麺とソースの相性
カップ焼そばの麺の太さはどうやって決めているのですか。
ソースとの相性を考えながら、麺の太さを調節しています。
「U.F.O.」はソースが濃厚なので、それに負けないよう、カップ焼そばの中でもかなり太い麺を採用しています。
一般的には細い麺を採用しているメーカーが多く、実はうちでも細麺を検討したこともあるのですが、ソースとのバランスや「U.F.O.」らしい食べ応えを考えると、やはり今の太さが一番しっくりくるんです。
麺については、うちも細い麺のほうがいいというスタンスなんです。実は代替わりしてから、ソースを作る際に食品添加物は使わないようにしたんです。
それ自体はよいことなのですが、食品添加物を使わないで焼そばのソースを作ろうとすると、濃厚な味にするのが難しいんです。自然素材だけだと、どうしてもあっさりした味になってしまう。
味わいが優しくなる分、濃厚にするのが難しくなってしまうんですよね。
すると細い麺でないと味が合わない。富士宮焼そばみたいな太い麺には、うちのソースだと対応できないんです。
もう1つ悩ましいのが、砂糖を入れて甘さを出したいのですが、甘さを出そうとすればするほど焦げやすくなってしまうんです。いっそのこと粉末ソースにしてしまおうかとも思ったのですが、粉末にするためにはある程度、砂糖を抜かないと麺と混ぜた時に固まりやすくなってしまう。
これまで色々なソースを作ってきましたが、焼そばソースが一番難しいです。
特に普段あまり料理をしない人にとっては、難しいかもしれませんね。
関西では、市販の麺とソースを別々に買って自分好みの焼そばを作る方が多いように思います。一方で、関東だと麺とセットになっているソースを使うことが多く、しかもそれが美味しいから、わざわざ別にソースを買うという発想にならない。
だから、焼そば用のソースを関西以外で普及させるのはなかなか大変ですよね。
難しいです。それこそ入り込める余地があるとすれば、粉末ソースの味が合わないお客さんに対してですね。
慣れている人であれば、粉末ソースの量を調整して、味を調えられますが、調整できない人は全部入れてしまう。
そういう人たちからすると、粉末ソースだと味が濃すぎるので、自分用に味を整えられるソースの方がいいですよね。
でも、先ほどおっしゃっていた「無添加」というのは1つ、売りになると思います。最近は健康志向の方も多いですし、そうした方々にとっては粉末ソースより、鳥居さんのソースのほうがよいかと。
そうした方面から、なんとか展開していきたいですね。
ご当地焼そばの多様性
最近はご当地グルメで、その土地ならではの焼そばが紹介されることも多いですね。
2006年からスタートしたB-1グランプリという、ご当地B級グルメにスポットを当てたイベントをきっかけに、ご当地焼そばの注目度が上がっていったんです。
B-1グランプリで上位に入賞したご当地焼そばが全国的な人気を集め、その話題性や集客力の高さを見て、各地で新たなご当地名物を作ろうという動きも出てきた。その流れの中で誕生したご当地焼そばもあったと思います。
そのため今は、元々地域で親しまれていたものと地域おこしの中から生まれたものが混在しています。
その中でどうやって差をつけているのでしょうか。
富士宮焼そばのように魚粉が入っていたり、太麺を使ったりと、麺や味わいで個性を出しているものもありますが、やはり差別化しやすいのは具材だと思います。見た目にもインパクトを出せますし、ご当地らしさも表現しやすい。
ご当地焼そばによって、譲れないポイントが違うんですよね。例えば肉かすは絶対入れるとか、肉はラムを使わなければならない、など。
ただ、B-1グランプリの公認商品に認定されると、レシピを作って公開する時にも、「富士宮やきそば風」のように「風」を付けないと絶対に駄目なんです。そうでなければ規定に引っかかってしまう。
なかなか厳しいんですね。
でも本当にその土地ごとに、色々な特徴があるから面白いですよね。
例えば栃木にはつゆ焼そばという焼そばがあるのですが、これはソース焼そばを汁に入れて食べるんです。
汁に浸しちゃうんですか。
そうなんです。すごく面白いのが、ソース味の麺をつゆに入れるので、1口ごとに味が変わっていくんです。
初めの1口はソースの印象が強いのですが、食べているうちに徐々にソースが溶けて、つゆと中和していく。最初と最後でまるで違う味になっている。だから飽きずどんどん食べられるんです。
確かに珍しい食べ方ですね。
きっとこの焼そばも、その土地ならではの文化や歴史的背景と結びついて、この形になったんだと思うんです。そうした特徴が地域によって違うのが、また面白いですよね。
海外における焼そば
今、海外では日本食が人気ですが、「U.F.O.」の人気はいかがですか。
「U.F.O.」については、海外展開を始めたばかりですので、まだまだ発展途上ですが、受け入れてもらえる可能性は十分にあると思います。
ただ、ラーメンと違って「焼そば」という料理自体の認知度がまだ高くないので、まずは認知を高め、魅力を知ってもらうところから始めています。
例えばヨーロッパでは、「Soba」というブランドで、カップヌードルのような縦型容器でカップ焼そばを販売しているのですが、それが"日本の味"として、広く受け入れられているんです。そうした事例を見ると、海外でも「焼そば」が定着していく可能性は大いにあると思います。
「U.F.O.」というブランドの前に、まずソース焼そばという食べ物の知名度を上げる必要があるということですね。
それと調理方法ですね。日本では50年にわたって親しまれているので、1度お湯を注いだあとに湯切りするという調理方法が定着していますが、海外ではまだまだ馴染みがありません。
せっかく商品を手に取ってもらっても、美味しく作ってもらえなければ意味がないので、まずはプロモーションを通じて正しい調理方法を知ってもらうことが重要だと思います。
「U.F.O.」のパッケージを見ていつも感心するのですが、容器自体がテクノロジーの塊ですよね。湯切りの仕組みも本当によく考えられている。
これも色々と歴史があって、最初はプラスチック製の薄いふたを使っていたんです。ふたの上部に湯切り用の切り込みが入っていて、そこからお湯を捨てる仕組みでした。
ただ、これだと湯切りの際にふたが外れて中身がこぼれるおそれがありました。そこで、どうすれば安全性と簡便性を両立できるかを追求し、試行錯誤の末にたどり着いたのが今のふたの形状なんです。
今だとふたが貼りついているから、こぼれる心配もないですよね。先ほど調理方法の話がありましたが、お湯を捨てない形にするのは難しいのでしょうか。
難しいですね。湯切りをなくせないかと色々試したのですが、なかなかうまくいきませんでした。その中で唯一、うまくいったのは、あんかけ焼そばにするという方法です。
麺がほぐれるギリギリまでお湯の量を減らし、麺が吸った後に残るお湯を使ってあんを作る。そうすると、カップ焼そばでありながら湯切りなしで食べられる。
発売後、ある程度は売れたのですが「焼そばはソースがいい」という声も多く、定着するまでには至りませんでした。
罪悪感というスパイス
「U.F.O.」は今年で発売50年を迎えますが、これほど長く愛され続ける理由はなんだと思いますか?
色々な理由があると思いますが、1つキーワードになるのが「罪悪感」ではないかと思います。カップ焼そばは油で揚げた麺を使っているので、1食当たりのカロリーは決して低くありません。ただ、そのほうが今、若者には売れるんです。
以前、「どんな時にU.F.O.を食べますか?」というアンケートを取ったことがあるのですが、ストレス解消のために夜遅くに食べる、と答えた人が多かったんです。
麺を頬張って口の中で噛みながら、炭酸飲料などと一緒に流し込んでスッキリする。それがヘビーユーザーが最も好む食べ方なんです。
わかるような気がします(笑)。
アンケート結果を見て、皆さんは麺を食べているようで、実はソースを求めているんだと感じました。うちも広告で「ソース食おうぜ!」というコピーを使っていたのですが、濃厚なソースを思いっきり味わいたい、そんな気持ちが根底にあるんだと思います。
罪悪感がありながらも夜中に食べてしまう。そして、日ごろのストレスやモヤモヤも一緒に流し込む。それこそが、カップ焼そばの醍醐味なのかも知れません(笑)。
そうか。ソースを食べるという感覚なんですね。
「ソースを食べるという感覚」というのは、若者の会話の中でもよく聞く話ですね。
カップ麺市場でいうと、例えば「無添加のカップ焼そば」へのニーズはないでしょうか?
買ってくださる方は一部いらっしゃると思いますが、カップ焼そばに期待される価値とは少し違うのかもしれません。
とはいえ、我々としてもそこはすごく難しいところで、当然ながら体に悪いものを作るつもりは全くないんです。「健康に配慮しながら、美味しいものを作る」というのが大前提なので。
ただ、最近は様々な企業がギルティ商品と呼ばれる、高カロリー、高脂質のいわゆる「背徳グルメ」を展開していて、若い世代を中心に受けているんです。カップ焼そばも、そうしたジャンルの商品の1つと言えるかもしれません。
これは普通の焼そばにもあると思うのですが、ラーメンと違ってスープがない分、しっかりとしたのどごしがある。その、ある種の抵抗感を味わいながらも、おそらく皆さん、噛まずに飲み込んでいく。
噛まない行為ってよくないかもしれませんが、それが一種の快感になっているのだと思います。若者や子ども、意外と焼そばは噛んでいない人のほうが多い。
焼そばって面白いのが、1口目を食べてから、最後食べ終わるまでが1つの動作なんですよ。
私はレシピ本のメニューを作っている時、はじめは3口ぐらい味わって「美味しい。これOK」とやっていたのですが、そうではなくて、最後、食べ終わった時の満足感。あれがあって初めて焼そばを食べ終える、というところが面白いと思ったんです。
不思議ですよね、本当に最後の1口を味わって、そこで初めて料理として完成する。
あと、我々がこだわっているのは「香り」ですね。ソース会社さんも相当こだわっていると思いますが、うちも開発段階から、焼そばを作っている時にソースの香りが部屋中に充満するという点を重要視してきました。
先ほどの満足感の話ではないですが、食べ終わったあとも口の中にソースの風味が長く残る。歯を磨かないと消えないくらいの存在感なのですが、ヘビーユーザーからすると、それがたまらないんです。いつまでも続くおいしさの余韻も求められているのだと思います。
"焼きそば"ではなく"焼そば"
1つ、不思議なのは焼そばって、文字にすると普通「焼きそば」と、平仮名の「き」が間に入るじゃないですか。でも商品名には「き」が入っていないものが多いですよね。
確かに「U.F.O.」も「き」を入れていないです。
3文字の方が見た目がよいからでしょうか。
理由そのものは定かではないですが、先ほど話題にあがった袋麺の「日清焼そば」。これが世に出たのが1963年と「U.F.O.」よりも歴史が古いのですが、その時から「き」を入れていないんです。
商品として初めて発売された即席麺の「焼そば」がこの表記だったことで、その後も「き」を入れない表記が業界でも広く使われるようになったのではないでしょうか。
実はうちの商品も「き」を入れていないんです。ないほうがスッキリするので。
今回の閑談のタイトルからも「き」は取ったほうがいいかもしれませんね(笑)。
焼そばの可能性
日清食品さんとしては、これからは「U.F.O.」の海外進出に力を入れていきたい感じでしょうか。
「U.F.O.」に関しては、進化の余地はあると思います。先ほどの調理方法やフレーバーなど、発展させられる点はまだまだ残っています。
今のお客さまが求めているものとは少し違うかもしれませんが、新しい価値を提案することで、これまでカップ焼そばを手に取らなかった方々にも興味を持ってもらうことができるかもしれません。
それとやはり海外展開ですよね。まずは「焼そば」という料理自体の認知を高めつつ、「U.F.O.」ならではの美味しさや魅力を発信していきたい。
海外だとどの辺りが一番、反応がよいのですか。
アジア圏は、ソース味ではありませんが、パッタイやミーゴレンのような炒め麺料理の文化があるので、比較的反応はよいです。
アメリカも市場としては魅力的ですが、アメリカでソースというと、どうしてもバーベキューソースをイメージされることが多いんです。日本のソース味をそのまま持っていくと、「イメージしていた味と違う」となってしまう。
もしかすると、ヨーロッパのほうが可能性があるかもしれませんね。
2024年にはオタフクソースがパリに支店を開設し、粉もの文化の普及をしていますし、これからヨーロッパでソースの需要が増える可能性は十分にあると思います。
そうですね。ヨーロッパ、それから南米といった地域には、まだまだ色々な可能性があると思います。
トリイソースさんも海外に進出されているのですか。
今、色々と海外の展示会に出展したりして、基盤を築いているところです。
ただ、単独で展開するというよりも、それこそオタフクソースが切り拓いた市場の中で、また違った魅力のある商品、いわゆる「クラフトソース」として売り出していけたらと考えています。オタフクさんの認知が広がっていって、そこでやっとこちらも行けるな、ぐらいの感じですね(笑)。
ただ、焼そばという料理全体で見た時に、ソースもですが、麺が今どんどん進化しているんです。食感といい味といい、昔とは比較にならないくらいレベルアップしている。だから1つの麺料理として、焼そばはこれからもまだまだ進化していくのではないかと思います。
焼そばって国民の生活にも根づいていて、だいたい焼そばに関する話題って、皆さん、何かしら持っているんですよね。
私の場合、焼そばの香りを嗅ぐと、亡き父を思い出すんです。というのも、小さい頃、週末になると父が焼そばを作ってくれたのですが、それを食べるのが楽しみで(笑)。だから私にとって、焼そばの香りは父を連想させてくれるものなんです。
いい思い出ですね。
きっと誰しも、こうした思い出ってあると思うんです。ソースの香りってそれくらい印象深くて、嗅ぐだけで様々なことを思い出させてくれる。
だから発展とは少し違うかもしれませんが、この焼そばの味わいが、思い出と共に次世代に受け継がれていくといいなと思うんです。日本の大事なソウルフードの1つなので。
日本の大事な食文化の1つとして、これからも世代を超えて愛され続けてほしいですね。
(2026年5月21日、三田キャンパスにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。