慶應義塾

クレーンゲームと日本社会

公開日:2026.05.25

登場者プロフィール

  • 川﨑 寧生(かわさき やすお)

    近畿大学文芸学部非常勤講師

    専門は歴史社会学、戦後日本史。著書に『日本の「ゲームセンター」史 ―娯楽施設としての変遷と社会的位置づけ―』。

    川﨑 寧生(かわさき やすお)

    近畿大学文芸学部非常勤講師

    専門は歴史社会学、戦後日本史。著書に『日本の「ゲームセンター」史 ―娯楽施設としての変遷と社会的位置づけ―』。

  • ボトス・ブノワ

    商学部 訪問講師

    専門は日本研究、文化社会学。日本のメディア文化と都市文化の特徴を中心に、メディア間の関係・社会的背景を研究。著書に『クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論』。

    ボトス・ブノワ

    商学部 訪問講師

    専門は日本研究、文化社会学。日本のメディア文化と都市文化の特徴を中心に、メディア間の関係・社会的背景を研究。著書に『クレーンゲーム研究 系譜学・考現学・メディア論』。

  • 井上 岳久(いのうえ たかひさ)

    経済学部 卒業

    井上戦略PRコンサルティング事務所代表、株式会社カレー総合研究所代表取締役。1998年慶應義塾大学経済学部卒業。著書に『集客が劇的に変わる!クレーンゲーム専門店エブリデイの経営戦略 BADプレイスでも儲かる理由』等。

    井上 岳久(いのうえ たかひさ)

    経済学部 卒業

    井上戦略PRコンサルティング事務所代表、株式会社カレー総合研究所代表取締役。1998年慶應義塾大学経済学部卒業。著書に『集客が劇的に変わる!クレーンゲーム専門店エブリデイの経営戦略 BADプレイスでも儲かる理由』等。

クレーンゲームとのかかわり

井上

川﨑さんはゲームセンターの研究に携わっておられますが、何がきっかけだったのでしょうか?

川﨑

私は歴史社会学、戦後日本史を研究しているのですが、歴史学的な観点から見ると、日本のゲームセンターという施設は非常に興味深い存在だということがわかりました。

というのも、ゲームセンターという施設が他の国では変化したり、衰退してなくなったりもしている中で、日本では、店舗の数もそれなりにありますし、多世代にわたって遊び続けられている。では、なぜ根付いたのか? それを調べてみたいと思ったことがきっかけでした。

井上

クレーンゲームもよくやられるのですか?

川﨑

実は、私がメインでやっているゲームセンターのゲームはクレーンゲームではなく、アーケードビデオゲームと呼ばれる、いわゆる対戦型格闘ゲームやシューティングゲームです。あと、メダルゲームでもよく遊びます。クレーンゲームは景品で気になったものがあった時に見るくらいでした。

ただ、最近はクレーンゲームの種類がかなり増えてきていて、ゲームセンターの中のコーナーも拡大してきている。また日本だけではなく、色々な国でクレーンゲームが増えてきているという話も聞きます。そのため、今では非常に興味深い研究対象の1つです。

ブノワ

私はフランスのパリ出身で、パリ第七大学の日本言語文化学部を卒業してから進学し、修士課程までジャパニーズ・スタディーズ(日本学)の研究をしていました。

井上

その当時からゲームセンターに興味を?

ブノワ

いえ、当初は戦後日本の郊外化に伴い、日本のロードサイド系のビジネスはどう進化したのかを研究したいと思ったのです。

ただ、ロードサイドビジネスと一口に言っても様々なものがあります。そこで何を研究しようかと思った時、1番気になったのは、ゲームセンターでした。元々日本の家庭用ゲームが好きで遊んでいたこともあって、どうせなら自分が興味を持てるものにしようと思い、修士課程の2年生の時からゲームセンターでフィールドワークを始めたのです。

その時気付いたのは、私が想像していた日本のゲームセンターと、実際のゲームセンターにはかなりギャップがある、ということでした。

川﨑

どのようなギャップがあったのでしょうか?

ブノワ

私が想像していたのはちょっと昔の昭和の映画に出てくるようなレトロな「ゲーセン」です。店内は暗く、ビデオゲームやメダルゲームを遊んでいる男性が集まっている。それこそ、いわゆる不良のたまり場のようなイメージでした(笑)。

しかし、実際にゲームセンターに行ってみると、店内は明るく、ピンク色のクレーンゲームの機械の中にはかわいいぬいぐるみが入っている。そこには女性のお客さんがたくさんいて、楽しんでゲーム機で遊んでいる。いつからこうなったんだろうとショックを受け(笑)、同時に関心を持つようになりました。

井上

私は以前からアミューズメント業界に興味があり、以前勤めていた会社ではゲームセンターやパチンコのマーケティングの仕事をしていました。今もゲームセンターからのコンサルティングの依頼を受けることが多いです。

「エブリデイ」というクレーンゲームに特化したゲームセンターがありますが、こことも昔からお付き合いがあり、経営面だけでなく、商品開発にも色々と協力しています。

川﨑

どのような筐体を開発されたのですか?

井上

本物の隕石をケースに小分けして入れた「隕石キャッチャー」や、野菜を取れる「採れたてキャッチャー」などですね。また、カレーの専門家でもありますので「ご当地カレーキャッチャー」という筐体も製作しました。これは入手困難な全国各地のご当地カレー、及びオリジナル開発したレトルトカレーやルウが景品として入っています。

それとあわせて、ゲームセンターの中に飲食スペースを設け、取った景品をその場で食べられるようにするサービスも始めました。風営法の問題で、ゲームセンターの中で食材を調理することはできないのですが、電子レンジで食材を温める分には問題ない。そこで、レトルトのご飯が景品となった筐体も一緒に用意したところ大好評で、今では主力商品の1つになっています。

クレーンゲームの定義とは?

ブノワ

クレーンゲームには明確な定義はないと思いますが、あえて定義するならば、ゲームセンターや遊園地などのアミューズメント施設に設置されている、単純に何かのシステムで景品を獲得するゲーム、または、業務用ゲーム機の種類、もしくはジャンルのことを指すのではないかと思います。

川﨑

付け加えると、「景品を獲得する」ところに技術が大きくかかわってくるということが重要だと思っています。なぜかというと、海外でゲームのプレイ結果によってチケットを得て、それを交換する「リデンプションゲーム」というゲームがあるのですが、それを今、日本でやるとパチンコと同じ扱いの風俗第4号営業になってしまうんです。

つまり日本でクレーンゲームとして扱われるには偶然ではなく、自力で景品を取ることができるシステムにしなければならないわけですね。

ブノワ

そうですね。また、これも日本のクレーンゲームの特徴の1つですが、ある種、グレーゾーンの存在であるわけなんですね。1985年に風営法が改正され、ゲームセンターは風営法の規制対象に入りました。そのため、ゲームの結果に応じて何らかの賞品をもらうことは、本来禁止されているのです。

ただ、そうなるとクレーンゲームはどうなるのか。当時業界の中ですごく議論されました。結果的に景品の種類と価格を制限すればよい、ということになったのですが、そのあたりが曖昧なまま、今まで進化してきたわけです。

最初はお菓子やたばこが主な景品でした。1960年代は景品に制限はなかったのですが、70年代に法律で、原価が90円以下のものに定められました。景品の詳細が本格的に決まったのは90年代のブームの時ですね。

川﨑

日本のゲームセンターの原点の1つは、駄菓子屋にあった子ども向けのゲームコーナーなんです。子どもたちはお菓子が欲しいので、景品には駄菓子やお菓子が多かった。

ブノワ

そうですね、クレーンゲームが本格的に日本で遊ばれるようになるのは1960年代なのですが、戦前、すでにクレーンゲームはあったんです。ただ、その時はゲームと同時に自動販売機としての役割も大きかったのです。

当時、グリコを始めとした製菓会社はケーキやチョコレートといったお菓子を大量生産し、販売することを考えていました。その時、売り方の1つとして自動販売機に目を付け、その1つとして、クレーンゲームは誕生したのです。

景品の変遷

川﨑

景品の原価の上限も年々上がっていますよね。

井上

今では1000円以下です。ただ、景品は専用の非売品が多く、価格定義には曖昧な面があります。通常、原価は製造や仕入れの費用を指しますが、開発費の算出が複雑なため、実務上は店側の仕入れ額が基準となります。そのため、一見高価そうな品でも、店側が「1000円以下で仕入れた」と主張(証明)すれば、それが正当な価格として通ってしまうという側面があります。

以前、「宝石キャッチャー」という筐体を作ったことがあります。リサイクルとして買い取った指輪などから外された宝石の中には、価値がタダ同然で処分されてしまうものも少なくありません。それを何かに再利用できないか、と相談されて、クレーンゲームの景品にしたところ、大ヒットしました。もちろん宝石自体は本物なのですが、そのリサイクル品がいくらなのか? となると正確な値段をつけるのは難しい。おそらく他にもそういった景品はたくさんあると思います。

川﨑

それこそ最近は景品として想定されていなかったものが景品とされていることも多くて、例えばカードゲームのパックがそのまま景品になっていることもあります。

ブノワ

90年代末から2000年代初めに、生きている海老と亀を景品にした筐体が立て続けに出たことがあって、ものすごく話題になりましたね。

川﨑

あれは国会でも議論されていました(笑)。

ブノワ

その影響からか今、生き物を景品とするのは禁止です。またアイスクリームや植物も景品として出たばかりの頃はとても話題になりました。当初は取った景品を「食べて平気なのか」という声もありましたが、今では技術が進んだこともあり、どちらも普通に景品としてあります。

ゲームセンターにおける立ち位置

井上

もはやゲームセンターにとって、クレーンゲームはなくてはならない存在ですよね。

川﨑

そうですね。JAIA(一般財団法人日本アミューズメント産業協会)の広報誌に、ゲームセンターのオペレーション売上高が掲載されています。2023年度の売上を見ると、クレーンゲームを含めた、景品の獲得を主目的としたプライズゲームの売上が3643億円なのに対し、ビデオゲームは約270億円、音楽ゲームが約127億円、メダルゲームが約500億円と、圧倒的人気なんです。

井上

この状況はいつ頃から続いているのでしょうか。

川﨑

やはりセガの「UFOキャッチャー」が流行り始めた1990年代からですね。以来、業界トップの売上を維持し続けています。

井上

経営者の立場からすると、クレーンゲームは店頭に置くと非常に効果的です。老若男女皆を引き寄せて、お店の中に引きずり込んでいく、というのが店舗経営の基本です。

ブノワ

ショーウインドー的な役割を果たしていますよね。

川﨑

ゲームセンターの歴史で見ると、1980年代前半はインベーダーゲームのブームもあり、ビデオゲームをプレイするお客さんが多かった。それが80年代中頃か後半ぐらいから、新しいゲームがどんどん出ていく中で、ゲームの難易度も上がり、初心者のお客さんが遊びづらくなった。結果、対戦格闘など特殊な事例を除き、ビデオゲームだけでは利益が出なくなってしまったんです。

井上

操作が複雑なものだと、初心者はきついですよね。

川﨑

あと、単価の問題もありました。ビデオゲームはある一定時間以上遊ばれてしまうと、どんどん単価が落ちてしまう。音楽ゲームも人気ですが、あれも1回100円で、10分ぐらい遊べてしまう。それだとやはり客単価的には厳しい。

ブノワ

その点、クレーンゲームは安定して利益が出ますよね。景品を入れ替えれば早々に飽きられることもないですし。

川﨑

ただ、そうしたお店の事情はわかるのですが、個人的にはゲームセンターにあるのがクレーンゲームだけだと、モノカルチャー的になってしまうので、色々なゲームが置かれてほしい。その中から新しいゲームが生まれてくれると、お客さんも嬉しいのではないかと思います。

ゲームセンターがイメチェンした理由

井上

ブノワさんが言われていたとおり、1980年代はゲームセンターというと不良のたまり場の印象が強かったですね。

川﨑

実際、80年代前半頃にはいわゆる不良が集まるところとして、ゲームセンターは問題視されていました。

また、同時期には賭博の問題もありました。海外から輸入したスロットマシンを中心とした、賭博機器犯罪が増えてきたり、暴力団がゲームセンターに違法性のある改造したメダルゲームを設置して利益を得たりと、一時期ゲームセンターがものすごく暗い時期がありました。

ただ、風営法の規制対象となったことで、完全に賭博犯罪とも縁が切れたのです。お店もちゃんと自浄努力をしていって、老若男女が入れるような場所にしていこうという流れになりました。その時、クレーンゲームが果たした役割は大きかったと思います。

ブノワ

クレーンゲームがゲームセンターのイメージを改善するのに一役買ったことは間違いないですね。おかげで女性や子どもも入りやすくなった。ただ、これは必ずしもよいことばかりではなかったんです。

セガはUFOキャッチャーの景品としてぬいぐるみを選択し、女子高生をターゲットにしたのです。1980年代から90年代にかけては女子高生ブームもありました。

ただ、女子高生がゲームセンターに入るということは、ゲームセンターが明るくなる一方で、援助交際の場になってしまうこともあった。こうした事象があったことも、見過ごしてはいけないのではないかと思います。

海外におけるクレーンゲーム

井上

欧米だとクレーンゲームはどのぐらい人気があるのでしょうか。

ブノワ

残念ながら、あまり流行っていないのが現状です。

アメリカで問題となったのは法律の壁です。アメリカも日本と同様、1980年代末から90年代初期にかけて、ぬいぐるみブームがありました。その時、アメリカではブームの少し前に、映画の「E.T.」がヒットしていたため、「E.T.」のぬいぐるみを入れたクレーンゲームを設置したところ、非常に人気が出ました。

これをアメリカ全土に展開しようとしたのですが、問題は、アメリカは州によって法律が変わることです。業界としては全土でやりたいけれど、州によってはクレーンゲームで子どもが遊ぶことが禁止されているため、大きく展開できなかったのです。

一方、欧州、特にフランスでは1930年代にクレーンゲームが流行っていたのですが、ある時から賭博扱いになってしまい、全面禁止されました。戦後になってもう一度クレーンゲームを設置して遊べるようにしようという動きがあったのですが、法律上やはり無理でした。

ただ、最近では業務用ゲーム機のレンタル事業でゲームセンター業界を席巻しているGENDAがイギリスに現地法人を設立したり、ラウンドワンがアメリカでヒットし、店舗数を増やしたりしていますので、再び欧米でクレーンゲームがブームになる可能性も今後あるかと思います。

井上

それは興味深いですね。最近海外で日本のクレーンゲームが流行っているという話を耳にしますが、それはアジア圏でしょうか。

ブノワ

そうですね。今は台湾や香港、あとは韓国で人気のようです。

ちょうど今、立命館大学の博士課程に、中国のクレーンゲームについて研究をしている中国出身の方がいます。彼女が言うには、中国ではビデオゲームは暴力的な内容などを理由に制限される一方、ぬいぐるみをキャッチするだけのクレーンゲームは、社会的には問題ないと、営業されているようです。

川﨑

中国ではある程度の回数プレイすれば景品をもらえる、という形にしているそうですね。そうすることでギャンブルと同じようには見られないようにしている。

中山

また、オセアニアでも流行しているようです。去年の9月に、オーストラリアのメルボルンで学会があった時に、ざっと見て歩いた限りでは、中国、韓国系の人たちが運営するゲームセンターが24時間営業でやっていて、しかも無人のクレーンゲームセンターがいくつもありました。

ブノワ

筐体は日本のものと同じなのですか?

川﨑

いえ、現地ではいわゆる台湾式と呼ばれている、掴んだ景品を放り投げるタイプが主体になっていました。日本だけではなく、アジア圏の影響を受けているクレーンゲームコーナーが増えているようでした。

多様化する筐体

井上

今、話題に上がった「台湾キャッチャー」というのは、業界の流行りなんです。日本のクレーンゲームによく見られるシステムとは異なり、掴んだ景品を突然放り投げるため、狙った場所に落とすのが難しいのですが、うまくぶつけられれば、景品を一気に取ることができる。そういった点からも人気が高いです。

ブノワ

最近は遊ぶ時に、どのタイプかを選ぶこともできますね。

井上

昔は今ほど筐体の種類がなかったですし、システムもアナログでしたよね。

最近はフック台というタイプもあり、これも人気が高いです。景品の上に輪っかが付いていて、アームではなくS字型のフックをそれに引っかけて取るのですが、運の要素がなく、本当に実力勝負なんです。だから景品を取るために、それ相応の技術が必要になります。

川﨑

他のタイプと違い、台の上に載せるだけなので、どんな景品でも載せられるのも魅力的ですね。

毎年11月にやっているゲームセンターの展示ショー、アミューズメントマシンショーに行くと、クレーンゲームは、毎年新しいゲーム機がどんどん出てきています。しかも遊び方が異なるようなものが山ほど出てきているので、本当に色々と飽きさせない工夫をメーカーもやろうとしているのだなと思いますね。

店員とのコミュニケーション

ブノワ

クレーンゲームの特徴として、もう1つ重要なのが店員の存在です。実はクレーンゲームではお客さんが店員に対し、「取り方を見せてください」と頼むことができます。また、欲しい景品があった時に、取りやすい位置へ移動するよう、お願いすることができるのです。

川﨑

ここは本当に他のゲーム機と違うところです。ビデオゲームにせよ、メダルゲームにせよ、店員が店にいますが、それは筐体をメンテナンスし、お客さんに快適に遊んでもらうためです。クレーンゲームのように、景品を取るために店員が力を貸してくれる、といったことは他のゲームではない。

井上

今はSNSが発達しているため、景品が取りにくい、店員が景品の補充に来ないといったクレームは、色々な所に流されてしまう。だから店員の存在は本当に重要です。

ブノワ

ゲームセンターのクレーンゲームと、他の施設にあるクレーンゲームは、同じようで違います。最近はローソンがタイトーと契約して、タイトーのクレーンゲームがコンビニに入ってきています。筐体のメンテナンスや補充は全部タイトーのスタッフがやっているのですが、それ以外のことについてはローソンのスタッフがやらないといけない。

そのため、「確率機」という、遊ぶことでアームのパワーが強くなり、景品が取れやすくなる筐体を導入しています。このタイプだと複雑な操作が必要ないため、コンビニの店員でも対応しやすいからです。

井上

ただ、確率機の場合、観察していると景品の取れるタイミングがわかってしまうため、面白味がないですよね。

ブノワ

そうですね。その点、多様な筐体があるのはゲームセンターの強みですよね。お客さんにも、ゲームセンターとそれ以外の施設では得られる経験が全然違うと思います。

例えば、私がフィールドワークで訪れる池袋のゲームセンターでは、女性のお客さんが多いのですが、彼女たちは自分のバッグに飾るための同じ景品をいくつも取ろうとします。そのために店員に対して「すみません、これ取りにくいので、取りやすい位置に移動させてくれませんか」と、積極的に交渉するんですよね。こうした交渉はコンビニなどではできない、ゲームセンターだからこそ得られる経験だと思います。

井上

オペレーション側からすると、筐体のメンテナンスや、お客さんとコミュニケーションができる店員を育成することはすごく大変なんです。今後はちゃんとした教育システムを作り、店員を育成することが鍵になってくると思います。

日本におけるメディアミックス

井上

日本でクレーンゲームが興隆したのは、景品にできるアニメや漫画のキャラクターが豊富にあったことも大きかったのでしょうか。

ブノワ

大きく2つの要因があったと思います。1つはクレーンゲームがメディア技術の組み合わせとして非常に優れているということです。アーケードゲームの要素はもちろん、先ほど言ったショーウインドーや自動販売機の要素も含まれている。こうした様々な技術の集合体であるということが、多くの人たちを魅了したのではないかと思います。

もう1つは、特にマーク・スタインバーグが言う日本の都市的メディアミックスです。日本では、漫画やアニメのキャラクターが作品内に留まらず、都市の様々な空間にまで拡散し、メディアの相乗効果が発生しやすいシステムが整っている。

そして90年代の始まりに、セガがアンパンマンのぬいぐるみを、バンプレストがウルトラマンのぬいぐるみを景品にし始めます。そこでクレーンゲームがメディアミックス化される、つまりメディアの相乗効果、システムに入るようになった。そこから流行るようになったというのが大きな理由の1つです。

川﨑

おそらく、当時バンダイなどがおもちゃで売上を出していたSD(スーパーデフォルメ)やミニタイプのキャラクターの存在は大きかったと思います。あのような2頭身のフォルムであればぬいぐるみとして作りやすい。SDが隆盛したタイミング、1980年代後半から90年代前半ぐらいまでの時期の子ども市場と、クレーンゲームの売上を照合して分析するのは、かなり重要ではないかと思います。

ブノワ

そのとおりです。きちんとメディアミックス化できたのは、今では当たり前に思えますが、当時のセガやバンプレストにとっては全然当たり前ではありません。版権元にとっては、クレーンゲームの安いぬいぐるみは、クオリティの面で不安があった。

ただ、セガはその前に、アンパンマンのぬいぐるみをおもちゃとして開発した歴史があったので信頼関係があったんです。バンプレストにしても、親会社であるバンダイが70年代にウルトラマンの商品を開発していたという歴史があったので、許可が下りたのだと思います。

誰でも遊べる手軽さ

井上

現場にいる立場からすると、やはり努力すれば楽しめるという点も大きいと思います。ビデオゲーム機は何度遊んでもそんなにうまくならない人もいる。でもクレーンゲームは、何度かやればうまくなるし、それこそ子どもでも、大人でも、誰でも景品を取ることができる。

あとは、最後に景品を得られるという点も魅力的です。例えばディズニーランドはアミューズメント施設として優れていますが、実は使ったお金に対して、持ち帰れるものはさほど多くない。その点、クレーンゲームは最終的に景品という報酬がある。それが、多くの人々に受けたのではないかと思います。

川﨑

そのあたりは他のゲームも影響を受けていますね。「ムシキング」や「三国志大戦」のように、トレーディングカードをもらえるようなものもここ20年で増えてきています。このあたりはクレーンゲームの影響も大きいのではないかと思います。

ブノワ

また、20世紀の初めに出たスロットマシンなども当てはまりますが、ある種のフィードバックループがあることも大きいと思います。

遊ぶごとにその都度結果が変わわり、もう1回やりたくなるというフィードバックループは、実はクレーンゲームにも強くあるんです。1回動かせば、わずかでも景品は違う位置に移動する。これは行けるのかなとなって、何回かやりたくなるという機能は大きいと思いますね。

川﨑

プレイヤー同士のコミュニケーションも取りやすいですよね。他のゲームと比べても、かなり広い筐体になっているため、周囲で見ている人たちからも遊んでいる様子が見やすい。

しかも景品を取れなかったとしても、家族連れならお父さんが「じゃあ、やってみるか」というようにプレイヤーの入れ替えができる。プレイヤーの入れ替えをビデオゲームでやるのは大変ですが、クレーンゲームだと結果がそのまま残るので、かなりやりやすい。

井上

あとは、不景気でもちゃんと売上が出るのは強いですよね。

ブノワ

それはすごく大きいです。1930年代、世界恐慌の経済危機の中でも、同じことが言われていて、クレーンゲームは危機に強いからよいビジネスだと言われました。

日本では90年代に流行りましたが、当時はバブル崩壊で、クレーンゲームは危機に強いからやろうと。だから流行る条件の1つとしては、危機が必要なのかと思います。

井上

こういう時代なので色々とお金もかかる。家族でディズニーランドに行けば10万円近くかかってしまう。でもクレーンゲームだと家族で遊んでも、1人1000~2000円で十分遊べますし、ましてや戦利品があるわけなので、不景気にはすごく強い。

ブノワ

ショーウインドー的な性質を持ち合わせているため、ウインドーショッピング的な楽しみ方もできますね。

以前、ゲームセンターで、お客さんがどのクレーンゲームを遊ぶのかを記録してみたんです。すると、多くの人は遊ばず、どんな景品があるのかを見ているだけでした。百貨店のショーウインドーと同じように、ウインドーショッピングを楽しんでいる感覚だと思います。

井上

最近は巨大ショッピングモールの中にゲームセンターがよくありますよね。5~6階といった上層階にあることが多い。

川﨑

元を辿れば、百貨店などにあった屋上遊園地ですよね。ただ、1973年の熊本の大洋デパートの火災の影響で、屋上の半分の面積を避難区域として確保しなければならなくなった。結果として屋上のゲームコーナーが建物の中に入っていくようになり、だんだんと、今の形になっていったのだと思います。

クレーンゲームの今後

井上

今後、時代に合わせてクレーンゲームはどんどん進化していくでしょうね。

川﨑

そうですね。最近見た中ですと、興味深かったのは生成AIの活用についてです。

去年、ジャパンアミューズメントエキスポで日本工学院の展示があったのですが、そこではAIが店員の役割をする、という取り組みが発表されていました。筐体の中にAIキャラクターが表示された画面があって、お客さんに店員のように受け答えしてくれるんです。また、備えつけられたカメラで筐体の様子を把握しつつ、アームで景品の位置を変えたり、景品がなくなると、補充したりしてくれます。

ブノワ

それが実現したら、お店にとっても大きな助けになりますね。

川﨑

ただ、AIはどれだけ人間味を持つことができるのかと。コミュニケーションというよりも、機械に調整されているような気分になってしまうかもしれません。

もう1つは、私は元々アーケードビデオゲームや他のゲーム機も好きなので、可能であれば今後そういったものともうまく組み合わせることができれば、より一層面白くなるのではないかと思います。

井上

現場に行って話を聞くと、めざましい発展があります。今後は景品のオリジナル化もどんどん進むと思います。例えばレトルトカレーにしても、スーパーマーケットで買えるようなものが景品として入っていたら、取ろうとは思わないですよね。ゲームセンターに置いてある筐体はそうした努力をしないと、お客さんが来なくなってしまうと思います。アミューズメント施設ならではの組織力や企画力を生かした景品が、これから出てきてくれると嬉しいです。

川﨑

ゲームセンターならではの景品が、どんどん増えていくと面白いですよね。

井上

以前、大学院メディアデザイン研究科の岸博幸先生と一緒に講演をさせていただいたことがあるのですが、その時、岸先生は「クレーンゲームは日本のサブカルチャーだ、漫画やアニメと一緒だ」とおっしゃっていたんです。

先ほどのお話にあったように、海外では色々な規制があって難しい。そのため、日本のクレーンゲームを積極的にアピールすれば、世界中から日本に人を呼ぶ1つの吸引動機になると思います。

ブノワ

実は今、クレーンゲームの景品のフィギュアは、中古として様々なルートで販売されています。そのため、海外の人からはクレーンゲームのフィギュアは、すでに日本のサブカルチャーの1つとして認知されています。

ただ、現状の問題の1つとして、今、ゲームセンターは風営法の規制対象となっているため、外国人が働くことができない、という点があります。そのため、海外からの観光客への対応が難しい面もあります。

井上

外国人が働けるようになれば、人材の問題の解決にも繋がるかもしれませんね。

川﨑

ゲームセンターが規制対象とされた1980年代当時とは異なり、現在の若い政治家の方々は学生時代にゲームセンターに行った経験があり、またその実態もよく知っている。そのため、今後ゲームセンターが風営法の規制対象外となることもあり得ると思います。

井上

色々と難しいとは思いますが、ゲームセンターが風営法の規制対象から外れて、クレーンゲームも今までと同じように遊べるといいですね。今は、インバウンドのお客さんも多いですから、その方々に気持ちよく遊んでいただくためにも、外国人のスタッフが常駐できるようになると、現場としても有り難いです。

ブノワ

外国人にとってクレーンゲームは、言語を学習しなくてもやり方はわかるし、他のゲームに比べてやりやすい。そうした意味でも、何とか現状の形のまま、続けられるとよいと思います。

井上

あと、クレーンゲームが主体となったゲームセンターは、都市部が多いので、今後はもっと地方で出てくるとよいと思います。地方は人口減少で、ショッピングセンターなどがすごい勢いでつぶれていますが、そうした時に集客の1つのマシンとして、クレーンゲーム主体のゲームセンターは有効だと思います。他の施設と比べても、設備費もそれほどかからないので、今後は地域活性化の拠点の1つになっていくのではないかと思います。

川﨑

それはクレーンゲームに限らず、ゲーム業界全体としてやっていってほしいですね。現在、クレーンゲームが盛り上がってきている一方で、ビデオゲームやメダルゲームの筐体は減ってしまっていますが、まだまだ進化の余地はあると思うのです。

井上

クレーンゲームに地域ごとに特性がある景品を入れるなど、色々なものを変えていくと面白いかもしれませんね。今後、どんな新しい形態のクレーンゲームが出てくるのか、非常に楽しみです。

(2026年3月18日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。