慶應義塾

片づけの極意

登場者プロフィール

  • 萩原 富三郎(はぎわら とみさぶろう)

    その他 : 株式会社良品計画商品開発アドバイザー(業務委託)商学部 卒業

    1977年慶應義塾大学商学部卒業。無印良品の生活雑貨等の商品開発に従事。2009年より品揃開発担当マネージャーを定年まで担当。

    萩原 富三郎(はぎわら とみさぶろう)

    その他 : 株式会社良品計画商品開発アドバイザー(業務委託)商学部 卒業

    1977年慶應義塾大学商学部卒業。無印良品の生活雑貨等の商品開発に従事。2009年より品揃開発担当マネージャーを定年まで担当。

  • 小関 祐加(こせき ゆか)

    その他 : かたづけmom主宰その他 : 片付けアドバイザー。文学部 卒業

    1986年慶應義塾大学文学部卒業。2007年の起業以来600軒以上を訪問、アドバイス。全国各地のPTA・自治体・企業で各世代を対象に講演活動を展開。

    小関 祐加(こせき ゆか)

    その他 : かたづけmom主宰その他 : 片付けアドバイザー。文学部 卒業

    1986年慶應義塾大学文学部卒業。2007年の起業以来600軒以上を訪問、アドバイス。全国各地のPTA・自治体・企業で各世代を対象に講演活動を展開。

  • 橋本 絵美(はしもと えみ)

    その他 : はしもとFPコンサルティングオフィス代表商学部 卒業

    2006年慶應義塾大学商学部卒業。事業財務や家計のプランニングとお片づけプランナーとして自宅やオフィスの環境改善を提案。

    橋本 絵美(はしもと えみ)

    その他 : はしもとFPコンサルティングオフィス代表商学部 卒業

    2006年慶應義塾大学商学部卒業。事業財務や家計のプランニングとお片づけプランナーとして自宅やオフィスの環境改善を提案。

2023/11/24

整理整頓を仕事にすること

萩原

私は無印良品(以下、無印)を運営する良品計画で品揃え開発を担当してきました。商学部を卒業後、西友に入社し、30歳で店舗担当から本部の商品開発担当に異動となりました。そこでプライベートブランドをつくることになり、無印良品の開発にも関わるようになりました。

その後、良品計画が誕生するタイミングで出向となり、転籍して良品計画の社員となりました。無印の立ち上がりを経験し、定年まで衣料品以外の開発に関わってきました。

小関

無印の製品は収納用品の定番です。その製品づくりに長年関わってこられたのですね。

萩原

そうです。70歳となった今は生活雑貨部の後進指導に当たっています。お2人のように片づけのアドバイスをする立場ではありませんが、様々な生活雑貨の開発に関わりました。

小関

私は文学部心理学専攻を卒業後、企業勤務を経て、結婚と同時に退職しました。男女雇用機会均等法の1期生で、まだ結婚を機に仕事を辞める女性が多い時代でした。片づけはもともと好きで、家にいる時間が増えたことを機に、収納をあれこれ考えることがますます楽しくなりました。専業主婦を経て数年後には子育てしながらできる仕事を始めました。

片付けアドバイザーになるきっかけは15年ほど前、ママ友から相談を受けたことです。私の片づけ好きを知り「汚くて恥ずかしいのだけど、私の家を見てもらえない?」と。いつもきちんとした印象の方でしたが、当時小学校高学年だった息子さんの反抗期にもひどく悩んでおられました。伺ってみると、3DKのお宅で色々なモノに囲まれて暮らしていました。ご自分の赤ん坊の頃の服もとってあり、ほぼ床が見えない状態だったのです。

橋本

モノをとても大切にする方だったのですね。

小関

そうです。そこで3日かけて、お子さんたちが学校に行っている間に2人で片づけをしました。すると、初日は不機嫌そうに帰ってきた息子さんが、2日目に「うちの床はこんな色だったんだね」と久しぶりに笑顔を見せた。3日目には「僕の机に何を飾ったらいいかな」と笑顔でママに尋ね、下の娘さんも「私も皆みたいに友達を家に呼べる」と喜んでくれたのです。わずか3日でお子さんの表情や家族関係が変わったのを見てこれは仕事にしなければと考えました。当時は食育ブームでしたが、家の環境のほうが大切だと確信したのです。

橋本

私はもともと子どもが10人欲しかったので、商学部を卒業して早くに結婚しました。自分が子どもを産み育てながら外で働くのは現実的ではないと思い、家でお金をもらえる仕事は何だろうと考えたのです。商学部に入ったのも起業したい気持ちがあったからで、自分が得意なお金を貯めて増やすことと片づけること、この2つを生かした“片づけとお金の整理整頓”なら世の中の役に立てると考えました。

小関

“片づけとお金の整理整頓”、分かりやすくて良いですね。

橋本

私もきっかけはママ友でした。最初に相談に乗った時は無償のつもりでしたが、現金で御礼をいただき、お金をもらえるほどの仕事をしたのだと自信になりました。

6人の子どもを育てながら仕事ができるのも、家が片づいていることが大きいです。ファイナンシャル・プランナーの仕事は個別相談の他にコラムの連載やセミナー講師をしています。コラムを見てくださった方から取材や相談のお申込みをいただくなど“わらしべ長者的”に仕事が広がっています。

お金に困っている人は片づけに困っている人でもあることが多いのです。お金の相談に来た人が片づけの相談もし、片づけの相談に来た人がお金の相談もする。この両方で今、仕事が回っています。

小関

実際にお宅に伺うのですか?

橋本

片づけの相談は伺います。お金の相談はわが家に来てもらい、自宅をご覧いただくと、そこから片づけの依頼に繫がることもあります。

萩原

お子さんが6人もいると片づけは大変でしょう。一番小さい子はいくつですか?

橋本

3歳です。散らかし屋さんがいっぱいいるので、わが家では片づく仕組みをつくりました。子どもは散らかすのが仕事なのでそれ自体は悪いことではありません。良くないのはその後に片づけられないこと。「片づけて」と言ってちゃんと片づけられればオッケーです。10分後にお客さんが来るよと言えば、せーので皆片づけてくれます。

汎用性の高い収納は使う人次第

橋本

無印では、子ども向けの製品は決して多くありませんよね。

萩原

そうですね。お母さん向けの製品は多いのですが、おもちゃのように使う場面が限定される製品は積極的には展開していません。

小関

他社の製品では子ども向けの色鮮やかな収納雑貨もあります。子ども目線でデザインされているのだと思いますが、収納は鮮やかな赤・青・黄色などである必要はありません。無印のようにシンプルな色のほうが部屋はすっきり見えます。

橋本

無印の収納は子どもの成長に合わせて用途を変えられ、ずっと使えます。子どもから大人まで、色々な用途に合うのが有り難いです。

萩原

私たちにとって、道具を収めるモノはすべて「収納」です。「〇〇用」としてしまうと、その数だけ製品をつくらなくてはなりませんが、汎用性の高いかたちなら使う人次第で変えられます。

色はどうしても好みが出るので、最初は透明にしていました。今販売しているライトグレーの製品は最近のモノです。透明は中身がひと目で分かって良いという声もありましたが、結果的に色を付けたほうが売れました。透明は“うるさい”そうです。

橋本

中身が見えるからですね。

萩原

そうです。オフィスで使う方も多く、目に付く所をすっきり見せたいという声があり、再生素材を使うこともあって色を付けました。カラーバリエーションを増やさず、「コンクリートのようなトーン」のライトグレーに統一しています。

小関

無印の収納ケースは色味が良く私もお勧めします。前面が斜めにカットされているファイルボックスは定番ですね。これは来客時等に前後を入れ替えると中身が見えずに済むので重宝します。

萩原

あのファイルボックスは台所で使う方も多いようです。

橋本

そうですね。フライパン等を収納するのにも便利。

萩原

そういう方からは、“はかま”(前面の仕切り部分)を取ってほしいというリクエストもあります。はかまは強度を保つためのものでもあるのですが。

小関

確かに棚の中に入れて使う場合は、はかまがあると書類が出し入れしにくくなります。でも棚の上にのせて使う場合は、はかまがある方が見栄えが良いです。

橋本

両方ほしいです(笑)。

“あると便利”はなくてもいい

萩原

無印にはもともと製品のタイプを増やしすぎないという前提があります。箸立てやペン立て、歯ブラシ立ては1種類で良い。肝心なのは、お客さんがそこから様々な用途を想像できるかどうかです。専用はつくらないようにしています。

橋本

わが家でも同じ製品を色々な用途で使い分けています。

小関

汎用性の高い製品を使える人は片づけができる人ですよね。片づかない人は専用のモノでなければと思い込み、その結果、モノが増えてしまう。シンプルなモノを使い回すことも片づけの極意です。

萩原

世の中にこれだけモノが溢れているのは、皆が自分の暮らしをどのようにデザインしていくかをあまり考えていないからかもしれません。

小関

私はプランターを別の用途に使うなど、元の使い方とは違う使い方をすることも多いですが、片づけが苦手な方は専用のモノを選ぶ傾向があります。コロナ禍以降にオンラインでもアドバイスを始め、外国のお宅を拝見する機会が増えました。日本は家の広さに対してモノが多いと感じます。また「家」に対する意識も違い、とくにヨーロッパでは古いモノ、今あるモノを上手に使っている印象があります。

橋本

私も日本人はモノを持ちすぎていると感じます。そして、“あると便利”なモノばかり。でも、それは大体汎用性の低い“〇〇専用”なのです。その結果、片づかないことが多く、私はいつも「“あると便利”はなくても困りませんよ」と言っています(笑)。

小関

リンゴ用の皮剥き、ニンニク用の皮剥き……そういうモノがキッチンに溢れているお宅は多いです。

橋本

どれも〇〇専用ですね。食材の数だけ道具を揃えるのかしらと思います。

萩原

一方で、そういう無駄遣いをした人だからこそ気付くこともあります。子どもの頃から無印が好きなお母さんの下で育った人でも、経験しないと分からないこともある。20歳前後くらいまでは無駄遣いしても良いと思うのです。その結果何かに気付き、モノを持たない気持ち良さが分かることもあるでしょう。

小関

講演では、子ども部屋などの個室は片づいていなくても良いとお話ししています。子どもも思春期になれば部屋でストレスを発散したい場合があるので。重要なのはリビングダイニングがそこそこ片づいていること。良くないのは、親が片づけていないのに片づけなさいと子どもを叱ることです。

橋本

片づけの目的は片づけることではなく快適に暮らすことなので、本人が色付きの収納が良いというならそれで良いでしょうし、その結果、快適ならば良いと思います。

ですが、やはり片づいていたほうが家事はしやすいし、子どもも遊びやすい。まず片づいている状態があった上で散らかるのは良いと思います。個人的な意見ですが、基本はやはり整っているほうが良い。

家庭科の授業にも片づけを!

萩原

良品計画では以前、朝出勤したらテーブルを雑巾がけするルーティンを採り入れていました。机の上にモノがないとすぐに終わるので、結果的に、机に何も置かずに帰る習慣ができました。文具などは引き出しに仕舞って何もない状態で帰る。そして翌日、ササッと雑巾がけをしたら、必要なモノを机に出して仕事を始める。これを強制的に始めました。すると、次第にわざわざ片づける感じがなくなっていったのです。

小関

すばらしい。それが当たり前になっていったのですね。

萩原

最初は皆面倒くさがっていましたが、ある時期からこれは良いとなり、自発的にやるようになりました。ある程度はルール化してもよいのかもしれません。

橋本

訓練ですよね。私は、家庭科の授業では是非片づけの基本を教えてもらいたいと思っています。夫婦共働きで男女問わず家事をしなければいけない時代です。片づけは学校では教えてくれないので自己流でやらなければならない。でも家事と同様、毎日やることなのでこれをきちんと学校で教えてほしいのです。

小関

私もそう思います。

橋本

仕事でも生活でも、片づけは必要ですし、片づけができれば仕事も家事も勉強も捗るはずです。

小関

そうですよね。雑巾がけも会社のルールならやれるのに、家でお母さんが言ってもあまり効き目がない。学校で教われば意識が変わるかもしれません。

橋本

できれば体系立てて教えてほしいのです。今までの片づけは感覚的で、物を循環させる意識もありませんでした。“もったいない”は日本の文化と言われているのに、色々なモノが商品化され、皆が買い込む。買い込んだモノを放出できず、部屋に溢れていきます。処分するところまでの仕組みを教えてもらえると、皆がもっと暮らしやすくなるのにと思います。

小関

私は講演の際に必ずその地域のゴミ分別表を用意します。それを皆さんと一緒に確認し、こんなに簡単に捨てられます、「資源」の日に出すモノはゴミにならないのですと言うと驚かれます。古着は中古衣料や軍手、フェルト等に再利用されると知ると、それなら出そうかなと納得してもらえます。循環の仕組みを知ると、モノを手放すハードルも下がるようです。

橋本

私も、不要なモノはなるべく早く手放せば、誰かの役に立ちますとお伝えしています。自分が不便と感じるなら、我慢して使い続けるよりも、使ってみたい人が他にもきっといるので早く手放しましょうと。

小関

高かったからもったいないと言うけれど、そのまま劣化させるほうがよほどもったいない。フリマアプリやリサイクルショップを利用するのも良いと思います。

橋本

それを学校で教えてくれても良いですよね。スーパーのポリ袋が有料化されたり、ストローが紙ストローになったりしていますが、それよりも皆が無駄なものを買わずに済んだり、買ってしまってもすぐに循環できる仕組みを知ってほしい。

小関

同感です。実は、私はSDGsという言葉がピンときていません。

橋本

私もそうです。

小関

SDGsと言えば皆が良いと思うかというとそうではないように思う。難しい問題ですが。

橋本

ポリ袋やストロー以外のところで、もっとできることがあるよと言いたいですね。

子どもの片づけはハードルを下げて

小関

片づけができない人ほど片づけ本をたくさん読むので情報は持っています。でも、そのせいで自分にはできないほど高度な片づけを子どもにやらせている場合もあります。

以前伺ったお宅では、お母様ご自身が片づけが苦手でキッチンが散らかっているにもかかわらず、中学生の息子の机を何とかしてほしいと言われました。早速息子さんの机を拝見するとモノが山積み。片づけていくと一番下から卓上用の小さホウキとちりとりが出てきたのです。

橋本

それは何のために?

小関

なんと消しゴムのカスを掃除するためにお母様が用意したそうです。でも、そんなことはゴミ箱を持って片手でサッと掃けば良いし、こぼれたら掃除機をかければ済む。片づけができない人ほど専用の道具をそろえ、面倒な片づけ方を子どもにさせるのだと実感しました。

橋本

道具をたくさん持ちたがる人は多いですよね。

小関

片づけが得意な人もまた、子どもに難しい整頓をさせがちです。例えば、小さな引き出しで分類を細かくし、さらに中に仕切りをする。でも結局、子どもは分類しきれずにモノが出しっぱなしになってしまう。本来引き出しの中はざっくりしていて良いのです。お子さんの片づけのハードルは下げてあげてほしい。

橋本

片づけの相談に来る方は、「夫が…」「子どもが…」と言いますが、原因はご本人にあったりするんですよね。ご家族を気にかける前に、まずはご自分のキッチンから考えてほしいです。いつか使うかもと溜め込んだコンビニのスプーンやフォークを減らすとか。

小関

まずはもらわないことですね。

橋本

モノはあるほど良いという考えを捨ててほしいです。

萩原

わが家の上の息子は20代ですが、欲がなくモノを持たないのです。親としては何が楽しくて生きているんだろうと思わなくもない(笑)。

橋本

おそらく求めているのがモノではないのでしょうね(笑)。

萩原

そう感じます。高度経済成長期はお金がなくてもやりたいことを優先していました。欲張りと言えば欲張りですが、皆そうだったのです。モノに溢れている今は皆穏やかに暮らしたいという雰囲気がある。クルマもシェアで良いと言い、一軒家を持つ発想もない。

橋本

私はそのタイプです。モノは利用できれば良く、必要な時にありさえすれば所有しなくても良い。

萩原

それで不自由しなければね。一方でモノが増えすぎて困っている人が多い時代でもありますね。つい買ってしまったけれど、数回使ったら仕舞い込んでしまう商品も多い。

小関

ネットで簡単に買えることも大きいですね。欲しいと思って注文したのに、届く頃には忘れている(笑)。未開封の段ボールが積まれているお宅は意外と多いです。

モノと収納がぴったり合うこと

橋本

生活に必要な道具は十分揃っているのに、少しだけ改良したモノがどんどん出ていて、それをまた購買意欲をくすぐるように見せるのがクセモノです。

小関

私は逆に、無印のように定番商品を提供し続けていただけるほうが嬉しい。使い古したモノを買い直したい時にとても助かります。

橋本

そう、それが有り難いのです。子どもが増えた時に同じモノを揃えられたのはとても助かりました。

小関

他の量販店では同じモノを買い足しに行っても手に入らないこともしょっちゅうです。とくに収納用品は微妙に形が変わり、持っているモノと重ねられなかったりします。

萩原

同じ製品を供給し続けるのは、無印良品立ち上げ時のテーマでもありました。10年前と同じモノが手に入るメーカーが少なく、お客さんのほうにも、良いモノを長く使い続けられないという不満があったのです。

橋本

性能面で言うと、無印の製品はデッドスペースがないのです。100均のファイルボックスは上部が広い設計になっており、それは上に重ねてたくさん陳列できるようにするためのデザインなのですが、そのせいで下部に無駄なスペースが生まれる。結果的に使いづらいのです。

小関

無印の製品は寸法を変えずに改良されている点も有り難いです。

萩原

それは開発の担当者が代わってもデザインが変わらないための秘訣でもあります。ある時にルールを決めてそのようにしたのですが、立ち上げ段階ではそこまで考えていたわけではありませんでした。

無印の製品は最初、ユーザーの不満を解消する目的で、色柄をやめるくらいの考え方でした。予算も限られており、メーカーが持っている既存の型を生かして製品をつくっていたのです。そのうち、スチールユニットシェルフという名称の収納家具をつくることになり、収納するモノも不具合がないように連動させたほうが良いということでサイズを統一しました。その結果、定番として受け入れられるようになりました。

橋本

すべての製品がきちんと収まり、とても美しく見えます。

萩原

でも、収納用品はつくった分だけ売れてしまうのが困るところです。ボックスのハーフサイズをつくると、これもウケがいい。でもキリがないのです。引き出しも2等分、4等分できると便利ですが、では、何等分までつくればいいのか(笑)。

橋本

とは言え、モノと収納がピタッと合うのは気持ちが良いものです。

ポジティブな家事のために

小関

2010年を過ぎた頃から、依頼をいただく方の7割以上が共働きになりました。片づけができる人は忙しくても片づけられます。一方、片づけが苦手な方は忙しさを理由に崩れていく傾向があります。

私はお子さんのいる家庭では「ワークライフバランス」を、子どもの生活を中心に考えてほしいと願っています。あるお宅で、高校生のお子さんが夕方帰宅しても、またすぐに出かけ、街をふらついているらしいというお話を伺いました。実際お宅を拝見すると、3つある個室はすべて納戸状態。高校生のお子さんには個室がなく、小さな弟たちと母親と同じ部屋で寝ていました。しかし、ご両親はこのお子さんが家にいたくない原因にまったく気づいていませんでした。

親御さんには、住まいが子どもにとって居心地の良い環境かどうかを今一度確認していただきたい。そして「仕事をしていても、子どもの生活を守るためにはどんな工夫が必要か」を考えてほしいと思います。

橋本

同感です。仕事も大事ですが、私は家事も同じくらい大事だと思っています。今は言いにくい時代ではありますが、やはり女性が果たさなければならない役割はあるんです。

小関

そうですね。幼稚園の講演で必ずお話しするのは、「働かないことに負い目を感じないでほしい」ということです。親として家でできることにはとても大きな意味があります。

橋本

そうなんです。稼ぐことも大切ですが、子どもたちと気持ち良く過ごせる片づけや家事を大切にしてほしいと思います。

小関

女性の社会進出には賛成ですが、両親が働くことによって、子どもにしわ寄せが及ばないように気をつけてほしい。地域で子どもを見守ることは大切ですが、やはり子どものことを一番分かっているのは親御さんであってほしいのです。そのためには、夫婦が余裕を持って働ける環境や、慌てず復帰できる育休環境が必要。そしてママ同士でシェアできる仕事があればいいなと思います。

橋本

でも結局、ママたちに負担がかかるのですよね。それを負担と捉えず、積極的に自分の役割だと感じてほしい。家事や子育てをどうして私が、ではなく、“私の仕事”だと思ってほしいです。

小関

そうですね。私は「ワンオペ育児」という言葉に抵抗があります。

萩原

今、共働きの子育てで困るのは、保育園で急に熱が出て迎えに行かなくてはならない時でしょう。結局、ママのほうが犠牲になることが多く、家庭不和の元にもなりますよね。男が積極的に専業主夫を選べれば変わるのかもしれませんが。

小関

私はかつて、子どものことを一番分かっているのは私だという自負や優越感がありました。

橋本

今はそれを否定する社会になってしまっていますよね。

小関

子どもが小さいうちは、と敢えて専業主婦を選んでも、昨今の風潮に居心地の悪さを感じてしまうのは、とても残念。働くママ・専業ママのどちらにも温かい世の中になってなってほしいです。

“使うかも”は使わないモノ

橋本

私は、片づかない根本原因は不要なモノをいつまでもとっておくことだとよく言っています。“断捨離では自分軸で考えなさい”と言われますよね。他人が便利でも、自分には不便ならそれは要らないものです。使う/使わない/今使う/今使わない、これを判断できれば片づけはできます。そして、判断できる教育をしてほしい。学校では今そうしたことを教えません。だから、繰り返しになりますが、片づけを家庭科に採り入れてほしいのです。

家庭科では経済活動も習うので、色々なモノの売買を知る中で買うことだけでなく、要らなくなるモノもあることや、モノは処分して良いということを教えてあげたい。

萩原

今日買ったモノをいつまで残すのかといった使用期限をあらかじめ決めるのも、良いかもしれません。消耗品はともかく耐久財の場合、それがどの期間で役に立つかを考えてから買う。期間が短ければシェアもありでしょう。むやみに買うことも少なくなるのではと思います。

橋本

私はいつも「…かも」と思ったら手放してくださいと言っています。「使うかも」は一旦処分しましょうと。

萩原

わが家には以前、パン焼き器がありました。ブームに乗って買ってしまったのです。またいつか使うかもと思いしばらく置いておきましたが、結局、処分しました。

橋本

家電も今はシェアできるサービスが増えています。わが家でもサブスクのサービスでルンバを試し、使いやすかったので買いました。

小関

シェアは買う前に仕舞う場所を決めておける利点もありますね。

橋本

そうなんです。家電はとくにコンセントの位置で決まるので事前に試せるのはとても大きいです。

収納はモノの取りやすさが第一

小関

最近はコミュニケーションがとれていない家庭が増えていると感じます。忙しくて時間がないのかもしれませんが、対話の時間が増えれば部屋も片づくのかなと思います。

橋本

逆説的ですが、片づけができるとそういう時間も取れると思うのです。わが家ではよくボードゲームで遊びますが、家の中が片づいていなかったらこういう遊びもできないなあと感じます。テーブルが片づいていれば子どもと一緒に料理もできる。片づけは質の良い生活のためにもやはり大切です。

小関

私は子どもや家族の困った習慣を変えるために、色々な作戦を立てましょうという話もします。例えば、家に帰ってきて靴下を脱ぎ散らかされる場合は、玄関にカゴを置き「ここに靴下を入れてから上がること」と貼り紙をするのも有効です。

橋本

散らかしっぱなしになる場合は、置きっぱなしにするその場所を収納場所にしてしまうのが良いと私も思います。

萩原

収納と言えば、以前、無印の店舗で倉庫スペースが狭いので広げてほしいという陳情がありました。それに対し、よしわかったと言って、社長が逆に面積を減らしてしまいました。それはつまり倉庫を売り場にし、在庫はすべて出そうという発想なのです。倉庫があることが多くの在庫を抱えさせていたのですね。

橋本

私も収納は必ずしも多いほうが良いとは思いません。収納にこだわるのは日本人の特徴ではないかと思いますが、ウォークインクローゼットって大抵使いにくいですよね。

小関

同感です。アクセスしにくい収納にはモノを戻さない傾向があるので、ワンアクションで出し入れできることが大切です。

女性が強い家庭は風通しが良い?

萩原

長い間、収納用品の開発に関わってきましたが、片づける行為についてはあまり考えたことがありませんでした。でも朝起きて夜寝ての繰り返しの中で、ある時、寝る前にきれいにしておけば翌朝に散らかった状態で起きることはないと気づいたのです。

当たり前と言えば当たり前ですが、台所の洗い物がシンクに残っていたことがあり、その日は気持ち良い朝ではありませんでした。それ以来、洗い物は夜に片づけることにしました。

小関

1日が一からスタートできますものね。前日の片づけから始まる朝は気持ち良くないと私も思います。

萩原

前の日にやっておけばすぐ済むのに、次の日にやるとなぜか時間がかかる。そのうちに何となく僕が洗い物当番になりました。食べ終わってすぐに洗えば、洗剤もあまり使わずに済むし、習慣になるとそれほど苦じゃないのですね。

橋本

私も忙しい人ほど1日完結でやりましょうと言います。その日に出したモノは数分で片づくはずなので、できれば夕飯前と寝る前に一度はテーブルや床のモノをなくしてみませんかと提案しています。

萩原

私は台所周りで過ごす時間が一番多く、乱雑になりやすいのも台所なのでそこだけでも気持ち良くしておきたいのです。

小関

萩原さんのお宅は片づいているのだと思います。偏見かもしれませんが、散らかっている原因の多くは男性にあるので(笑)。

萩原

そうなの? でも、皆1人だとやりますよね。2人いることで、両方がやらないということもあると思うのです。僕の場合はわざわざ当番を決めるのも嫌だし、気が付いた人がやれば良いのですが、そうではないこともある。妻が家事をしている時に、忙しいから新聞取ってきてと言われたり。

小関

でも、それはコミュニケーションがとれている証拠だと思いますよ。やはり女性に力のある家のほうがうまく回っている感じがします。男性が主導権を握っている家庭はどこか緊張感があって淀んでいる感じがする。女性が強いほうが風通しは良いと思います。

萩原

そうかもしれません(笑)。

家での分類は大雑把に

萩原

片づけの問題は子どもに起因することも多いのではないですか?子どもがいることでモノは増えると思うのです。もし子どもがいなくて2人きりなら、あまり気にしないような気もしますが。

橋本

いえ、1人でも片づけられない人は多いですよ。私は所定の位置に戻すことが片づけの基本だと思いますが、その位置が定まっていない単身者も多い。そういう人は置きっぱなしの場所が所定の位置になっているのです。

小関

そういう方が圧倒的に多い。

橋本

子どもは散らかすのが仕事と言いましたが、それは本能的なもので、仕舞うのは動物の本能ではないと思うのです。ですが、教えれば元の場所に戻せる。子どもたちは幼稚園や学校だとできています。

家でできないのは、おそらく親御さんが所定の位置を決められていないから。それを教えることができれば子どもも仕舞えるはずなのです。

小関

私もそれが大前提だと思います。幼稚園や保育園では「おままごと(食べ物)」や「おままごと(鍋類)」と細かく分類されていても、ルールや周りの目があるので片づけられるのですが、家ではもっと大雑把で良い。家は皆一番楽をしたい場所なのでむしろ大雑把に「おままごと」という容れ物で良いのです。分類を細かくしすぎるとかえって散らかってしまいます。

橋本

私も家での分類は「おもちゃ」等でいいと思います。

小関

それは大人も同じ。たまに色々な場所から乾電池が見つかるお宅があります。これは電池の置き場所が電球や文房具等、色々な場所に分散しているからです。電気っぽいモノ、文具っぽいモノ、どちらでも良いので大雑把な分類で戻しやすくすることが肝心です。

橋本

自分で決めた分類を忘れてしまうこともあるでしょうね。

小関

あるお宅で驚いたのは、タオルの棚に水玉柄、ストライプ柄、無地とラベリングしてあったことです。もちろん中身はぐちゃぐちゃ。ラベルを剥がして「タオル」でまとめましょうと提案しました。

台所でも小麦粉や〇〇粉と、透明の容器にラベリングする方がいます。確かに美しいのですが、1カ月後には料理の途中で足りなくなり、買い置きの袋を開けることになります。そのまま入れ替えるタイミングを逸して破綻するよりも、置き場所を決めて袋のまま収納する方がおすすめです。

橋本

簡単に仕舞える状態にするのは快適に暮らす上で大切ですね。片づけはあくまでそのための手段。とくに子どもがいっぱいいると簡単に仕舞えることは至上命題になります。わが家では洗濯物の片づけは子どもが担当なのですが、子どもの服とタオルは畳まずにポイポイと引き出しに入れています。子どもは洋服を出す時に結局かき回して探すので畳む必要がない。簡単であることは本当に大切です。

片づけられる人になるには

橋本

片づけは1回では終わらないものだと知ることも大切です。よく、これで終わりですと言う専門家がいますが、実際は使ったら仕舞うの繰り返しなので、それをやり続けるということをまず分かっておく必要がある。仕舞うことを負担なく続けるためには、要る/要らないの判断を最初にやっておくと良いと思います。この判断ができると、片づけられるようになるはず。

小関

そして片づけやすい環境をつくることが大切です。それをプロに手伝ってもらうのも手ですね。

橋本

そうですね。一度頼んでみると、こうすればいいのかと分かる。

萩原

無印でも整理収納のセミナーを開催しています。自社のインテリアアドバイザーがそうした取組みをしています。例えば、だらしないお父さんというのはよくいると思うのですが、そういう場合も家庭で何とかするより、第三者に言ってもらったほうが解決しやすいようです。

小関

それは一理ありますね。

萩原

身内が言うと、煙たがられますが、他人に言われると円満に直せると思います。

小関

これはどうしてここにあるのですか?と訊くと、ハッとする方もいます。指摘されることでこれまでの使いにくさに気づき、対策を考えることに繋がります。

橋本

片づけは難しいものだと認識しておいていただくのも良いかもしれません。時々落ち込む人がいますが、やはりなかなか難しい。モノは多いし、収納グッズも様々。難しいということ、続いていくものということ、この2点を認識していただくのが大切かなと思います。

(2023年9月12日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。