登場者プロフィール
杉山 豊(すぎやま ゆたか)
その他 : 博報堂DYメディアパートナーズ経済学部 卒業博報堂のシニア・クリエイティブディレクターを経て博報堂DYメディアパートナーズでエンタメビジネスを開発。1987年慶應義塾大学経済学部卒業。“杉山すぴ豊” 名でアメコミ映画コラムをメディアで展開。「東京コミコン」も担当。
杉山 豊(すぎやま ゆたか)
その他 : 博報堂DYメディアパートナーズ経済学部 卒業博報堂のシニア・クリエイティブディレクターを経て博報堂DYメディアパートナーズでエンタメビジネスを開発。1987年慶應義塾大学経済学部卒業。“杉山すぴ豊” 名でアメコミ映画コラムをメディアで展開。「東京コミコン」も担当。
菅家 万里江(かんけ まりえ)
その他 : 渋谷教育学園渋谷中学高等学校英語科教諭文学部 卒業文学研究科 卒業2010年慶應義塾大学文学部英米文学専攻卒業、12年同大学院文学研究科英米文学専攻修了。在学中、アメリカのコミックアーティストArt Spiegelmanやアメリカのコミックスの歴史等を研究。
菅家 万里江(かんけ まりえ)
その他 : 渋谷教育学園渋谷中学高等学校英語科教諭文学部 卒業文学研究科 卒業2010年慶應義塾大学文学部英米文学専攻卒業、12年同大学院文学研究科英米文学専攻修了。在学中、アメリカのコミックアーティストArt Spiegelmanやアメリカのコミックスの歴史等を研究。
園田 智昭(そのだ ともあき)
商学部 教授その他 : 公認会計士1986年慶應義塾大学経済学部卒業。91年同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は管理会計論。映画(主にアメコミ系)と演劇の鑑賞が趣味。
園田 智昭(そのだ ともあき)
商学部 教授その他 : 公認会計士1986年慶應義塾大学経済学部卒業。91年同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は管理会計論。映画(主にアメコミ系)と演劇の鑑賞が趣味。
2018/11/26
スパイダーマンへの共感
僕は大学生のときに、慶應大学特撮映画研究会という非常にマニアックなサークルに入っていたんです。円谷プロ派と東映変身派が多い中、僕は洋物モンスターやヒーローが好きだった。とてもマイナーな文化だったのに、母校でまさかアメコミを語る日が来るとは(笑)。
私はアメコミ系の映画が流行ってきた頃に育ったという感じです。最初に見たのは、中学生のときの『X‐MEN』(2000年)。そこから「バットマン」の『ダークナイト トリロジー(3部作)』(クリストファー・ノーラン監督、2005年〜)を見て、これは深い、ただのヒーロー物ではないとはまりました。
また夫がアメリカ人なんですが、目茶目茶詳しくて(笑)。何を見ても「原作ではこうだった」みたいなことを言うので、マーベルもDCも欠かさず見ているという感じです。
また、大学院時代、修士論文でアメリカのコミックアーティスト、アート・スピーゲルマンについて書いていましたのでコミックも少しは読んでいます。
アメコミの映画を好きは好きなんですが、そんなに深く知っているわけでもないんです。ですから、今回、アメコミ原作の翻訳を3冊買って予習をしてきました(笑)。
高いんですよね、1冊3千円ぐらいする。もともとアメリカでは1冊がもっと薄いのですが、日本だとまとめて売られるので。
翻訳が増えたのは最近ですね。まだそれほどは売れないので単価が高いですね。
でもオールカラーでぜいたくですよね。
僕が子どもの頃、日本のテレビで外国のドラマや映画、アニメが放送されることは結構多かったんです。有名なアダム・ウエストが出ていた『バットマン』(1966年)はそうやって見ました。
中学のときに『スパイダーマン』の翻訳を初めて読んで、すごく自分に合うと思ったんです。当時、日本の漫画ってスポ根かヤンキー漫画かラブコメしかなかったから(笑)。会社に入ってから、ソニーさんが映画会社を買い取ることになり、当社が宣伝をすることになった。そのときのソニー・ピクチャーズの超大作が『スパイダーマン』(2002年)でした。
トビー・マグワイアの。
ところがスパイダーマンをあまり知っている人が社内にいなかったので、僕が急遽キャンペーンを担当することになったのです。実は中村獅童くんにスパイダーマンの格好をさせたのは僕です(笑)。
なぜ『スパイダーマン』が一番お好きなんですか。
基本的にあの主人公って何をやっても裏目に出る人生なんですね。そこが、なんとなく自分と似てるなと(笑)。恋人とのデートとバイト、町の人を守ることの3つが重なって、「どうしたらいいんだろう」と悩むヒーローって日本にいない。そこが共感できました。
スパイダーマンって、コンプレックスがすごくある一方、自分はスーパーヒーローだという自尊心も持っている。中学生って、自尊心とコンプレックスの間を生きているような生き物だから、それで「はまった」のですね。中学生のときにはまったものというのは、大体、一生好きなんです(笑)。
偉大過ぎない感じがいいですよね。
子どもの頃『宇宙忍者ゴームズ』という短いアニメが日本で放送されていたんです。『ファンタスティック・フォー』って、『宇宙忍者ゴームズ』と同じですよね。
やっていましたね。あの時間枠はいろいろあったんですよ。『宇宙怪人ゴースト』とか。
だからずっと『ファンタスティック・フォー』のことを『宇宙忍者ゴームズ』だと思っていた。
また、池上遼一が描いた『スパイダーマン』の漫画がありました。あれも第1話だけですが、床屋で読みましたね。
日本版の『スパイダーマン』があったと、夫がすごく興奮して言っていたんですけど。
日本の『スパイダーマン』って、まず池上遼一版の漫画があって、その後70年代末に東映とマーベルがアライアンスを組んで、特撮の『スパイダーマン』ができて東京12チャンネル(現テレビ東京)で放映される。世に『東映スパイダーマン』と言うのですけど、ご主人、お詳しいですね(笑)。
日本人が実際にスパイダーマンの役をやるんですよね。
そうです。人気ありましたよ。スパイダーマンが巨大ロボットに乗っていたりとかすごい設定でした。
バットマンの魅力
フェイ・ダナウェイが魔女役で出ている『スーパーガール』(1984年)やジャック・ニコルソンがジョーカー役の『バットマン』(ティム・バートン監督、1989年)などは映画館で見ています。
グッズも好きで結構買っています。一見するとリアルなフィギュアにしか見えないバットマンのシャンプーをイギリスで買ったこともあります。
私も『バットマン』は好きで、ティム・バートン版『バットマン』も好きですが、やっぱり単なるヒーローだし、単なるヴィラン(悪役)だなという感じがちょっとして。
クリストファー・ノーランの『バットマン』になったときに、人間性がすごく深まったように感じたんですね。セリフの1つ1つがすごく胸に刺さる。ハービー・デントが「ホワイトナイト」と言われる一方、バットマンはデントの罪をかぶって「ダークナイト」として生きていくという、コンフリクトを抱えたヒーロー像にすごく惹かれました。
ハロウィンのときにティム・バートンのバットマンと『ダークナイト』のコスプレをする人がいたんですけど、ティム・バートンのバットマンの格好って、後ろを振り向けないんです。体ごと振り向かないと相手を倒せないんですよ。
確かに(笑)。
だけど、写真に撮るとティム・バートンのバットマンのほうが絵としてかっこいい。ある種のファンタジーなんですね。
それに対してクリストファー・ノーランはリアルに撮っている。また、彼はイギリス人だから、ちょっとアメリカ文化を馬鹿にしているところもあって、そこも味だと思うんです。
いまのバットマンはどうですか、DCユニバースの。
ベン・アフレックがバットマンを演じる『ジャスティス・リーグ』(2017年)ですね。私は好きですけどね。「きみのスーパーパワーはなに?」ってフラッシュに聞かれて、「Iʼm rich.」と答えるあたりとか。
いいですよね。
ああいうちょっとコミカルなところもありつつ、リーダーとして頑張らなきゃと、他のスーパーパワーを持っている人たちと一緒に強大なスーパーマンに立ち向かう姿は共感できますね。
アメコミ映画のリアリティ
『ジャスティス・リーグ』も『アベンジャーズ』(2012年)も、最初にヒーローたちが集まると、皆仲が悪くてなかなかまとまらない。うちの会社も社内横断プロジェクトをやると、大体あんな感じなんですよ(笑)。それをまとめていくバットマンの大変さはよく分かります。
そこが『アベンジャーズ』のおもしろさでもあったかなと。5人が集まったはいいけれど、議論をしているうちにハルクが暴れだしたり。
そうそう(笑)。
皆で集まって大きな物事に取り組もうとするときの私たちの姿とあまり変わらない。
『アベンジャーズ』も『ジャスティス・リーグ』も、宇宙人が英語をしゃべっている段階でリアリティはないんですけど、ヒーローたちが出会うところなどには妙なリアリティがありますよね。
そうですね。あまり評判はよくないのですが、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)も私は結構好きです。
僕は、すごく好きですよ。
僕も好きです。評判よくなかったんですか。
なんかアイアンマンがあまりかっこよくないとか、「キャプテン・アメリカ」が影が薄いとか言われて。
原作コミックはもう少しポリティカルな話なのに、映画のほうはエモーショナルな話に振っているから、原作が好きな人は不満だったのかもしれないですね。
原作コミックは、「超人登録法」(Superhuman Registration)というのが愛国者法とか、銃規制のメタファーになっているんですが、映画はそのあたりはどうでもよくなっているんです。
アメコミブームの到来
僕みたいにアメコミがずっと好きだと、今のブームがよく分からないんですよ。昔はアメコミ好きなんて、一都道府県に1人ぐらいと言われていたから(笑)。
日本では『アベンジャーズ』からじゃないでしょうかね。『アイアンマン』(2008年)もそこそこヒットしましたけど。
サム・ライミ版の『スパイダーマン』(2002年から)で結構広まった感じがします。テレビでもこのシリーズは再放送されていて。
でも『ハルク』(2003年)とか、『グリーン・ランタン』(2011年)はあまりヒットしなかったですよね。杉山さんは『グリーン・ランタン』は好きだと書かれていましたが。
『グリーン・ランタン』はDCの中では非常に分かりやすい。
夫が『グリーン・ランタン』すごく好きなんです。
いいご主人じゃないですか! 『グリーン・ランタン』は愛すべき映画です。僕が唯一、英語で空で言えるのが、「グリーン・ランタンの誓い」ですからね(笑)。
主役のライアン・レイノルズは、後に『デッドプール』(2016年)をやりますね。
『デッドプール』は好きです。『2』(2018年)は特に(笑)。
でも「MARVEL」のTシャツを着た女の子をこんなに街で見かけたり、「東京コミコン」なんてイベントが開催されたり、夢みたい。
今の子は「MARVEL」のバックパックとかも持っているんです。本人に聞くと、特別にマーベルが好きというわけではないけど、なんかかっこいいという感じですね。
おしゃれなアイテムになったと。
はい。だからTシャツにスパイダーマンとか、キャプテン・アメリカのシールドが書いてあるのが、H&Mとか、ファストファッション系の店で売っているんです。そういうものを身につけているけどオタクじゃない。
分かって着ているのですか。
一応知っているんですけど、詳しく聞くと、『アベンジャーズ』も「たくさんの人がいっぱい出ている」ぐらいにしか思っていなかったりする(笑)。
でも、一つの文化が広がっていく過程では、それはいいことですね。
マーベルとDC
アメコミ映画のストーリーは、日本のヒーロー物の映画より、はるかによくできていますね。
そこが今まで誤解されてきた部分で、タイツを着たマッチョの単純な話だと思っていたら、意外に深いということに気づき始めた。
単純な勧善懲悪じゃないと。
逆に最近のマーベル作品群は、いろいろなところで結びついているじゃないですか。全部見ていれば、「ここがつながっている」というおもしろさがあるのですが、そうでないと、「え、なんでいきなりこうなるの」みたいな。
先週、『アントマン&ワスプ』(2018年)を見てきたのですが、最後に消えちゃうじゃないですか。あれはマーベルのシリーズの前作とつながっていますよね。隣にいた女の子が、「なんで」って彼氏に聞いても、彼氏も見ていないから分からない。
でも、そこが分からなくても基本的には、悪いやつをやっつける話なので(笑)。確かにマーベルのあのビジネスはすごいと思いますけどね。
今、マーベルのほうが人気がありますよね。
以前はDCでしたけど、マーベルはキャラクターが多いですし。
DCのスーパーマンとかバットマンのほうが「ザ・ヒーロー」という感じがしますけど、最近マーベルの映画が多くなってきたので。
DCはちょっと映像が暗めじゃありませんか?
DCは特に『バットマン』の世界観に引きずられているところはあると思うのですね。
もともとコミックはDCのほうが先で、第2次世界大戦前に出るのです。バットマンは犯罪と戦い、スーパーマンはナチと戦ったりする。アメリカ的な正義やモラルというものを自分たちが守るというのがDCの路線です。DCって、Detective Comicsの略で、要は「刑事物」ということだから犯罪と戦うんです。
マーベルというのは、出てきたのがベトナム戦争の頃なので、カウンターカルチャーなんですね。だから、スーパーヒーロー物をちょっと違う視点で見ている。
今回原作コミックスを読んでみて、もっと子どもっぽいかと思ったら、結構複雑で難しいですよね。読者の年齢層はどのくらいなんですか。
いわゆるヤングアダルトではないかと思いますね。大雑把に言うと、アメリカのコミックは、もともと「子どもが読む」という前提だったので、一般書店で売るとき、性的なことと暴力的なことは極力排除したのです。
ところが描くほうからすると、性と暴力を描かないと話が進まない。それで一時期、コミック専門店などで買うような、きわめてオタクなカルチャーになっていくんですね。
だけど、一方でアニメとか子ども向けの商品展開も途中からやるようになる。だから、アメリカ人で『バットマン』をコミックで読んでいる人はほとんどいないと思います。
性的な描写や暴力的な描写に対してコミックス・コードができたのは、1950年代のことです。ある精神科医が、コミックスの表現を何でも自由に子どもに見せるのかと、規制を呼び掛けたんですね。そこで、一般書店やスタンドで販売するコミックスは、コミックス倫理規定委員会が検閲したものでないといけなくなったのです。
それが、だんだんと倫理規定委員会を通さずにコミック専門店に卸すようなものが出てきて、販売系統が違ってきてしまったのですね。だから、皆が知っているような明るいヒーローのコミックスと、ダークなコミックスとに分かれていったのかと思います。2011年にコミックス・コードは廃止されましたけれど。
スーパーヒーローは変身しない⁉
日本のコミックスだと、例えば『コブラ』(寺沢武一)みたいなものはアメコミの影響が見られると思うのですが、日本のメインストリームってこういう感じではないですよね。
日本の漫画のほうがウエットかなという気がします。すぐ泣き出したり、「皆で頑張ろう」と主張したり。アメコミの場合は主張はバラバラでもいいわけじゃないですか。
アメリカン・コミックは一部のものを除くと、出版社が権利を持っているのです。だから、1つのキャラクターのアーティストをどんどん変えていくのですね。
正義のために戦うという点は基本的に変わらなくても、時代によって思い描く正義の定義が違う。例えば第2次世界大戦だったらナチスを倒すことだし、70年代だったらドラッグ・ディーラーを倒すとか、いろいろな製作者側の正義感が反映されるのです。アメコミの場合、例えば映画のクリエーターによる『アイアンマン』の正義の解釈は、コミックと違っていても別にいい。
日本では、一人の作家が描くから、例えば『サイボーグ009』は、ずっと石ノ森章太郎さんの正義感なんです。私小説的なんですね。だからウエットなんです。
日本のアニメって、皆、変身シーンがあるじゃないですか。
しかも見得を切りますよね(笑)。歌舞伎的なんですかね。
『セーラームーン』とか、子ども心に変身する時間が長いなと思っていたんです(笑)。
一方、スーパーマンは下にタイツを着て、上は普通の服を着ている。だから、あくまでも同じ人間なんですよね。変身というよりは、マスクを取るイメージに近いのかなと思いますね。日本は虹色のパワーで、ジャーンみたいな。
初期の仮面ライダーは改造人間ですからね(笑)。
アメコミは何か立場を変えるだけのための変身ですよね。スーツを着ていられないからスーパーマンの格好になる。超人としてのスペックは変わらない。
スーパーマンは移民のメタファー、要するに理想の移民なんですね。昔の『スーパーマン』のテレビシリーズは、「スーパーマンです。彼はクラーク・ケントと名乗って正体を隠している」という設定でした。つまり、スーパーマンのアイデンティティのほうが正しくて、クラーク・ケントが仮の姿なんですよ。
まあ、クラーク・ケントのほうが本当のアイデンティティで、正義を守るためにスーパーマンという仮の姿をするようになった、というコミックもあるのですが。ただブルース・ウェインとバットマンでは、バットマンが本当の姿なのです。でも、アイアンマンは逆なのですね。
そこがDCとマーベルの差で「まずヒーローである」と考えるのがDCで、マーベルは「まず人間である」と考えている。
「ヴィラン」の魅力
『スクリーン』の記事で杉山さんが、アメコミの実写映画は一流の俳優が演じるのがいいんだ、と書いていらっしゃいましたね。
そうですね。78年の『スーパーマン』に、マーロン・ブランドとジーン・ハックマンが出演する。一流の役者を出演させたところが偉かったと思いますね。
その人が演じる価値があるんだということを刷り込まれますよね。ロバート・ダウニー・ジュニアが『アイアンマン』をやっていたから、「『アイアンマン』っておもしろいのかな」と思ったし。ヒュー・ジャックマンがウルヴァリンをやったり(『X‐MEN』)。
悪役も結構有名な人がやったりしますね。ロバート・レッドフォードも『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』(2014年)に出ていますね。
アメコミは悪役がポイントなので。ジャック・ニコルソンのジョーカーからすごい役者が多いかなと思います。
「ヴィラン」という言葉って、つい最近まで知らなかったのですが、昔から使うのですか。
アメコミが流行るようになって、悪役のことを「ヴィラン」というようになったんですが、最近定着してきましたね。
一般的に使う言葉なんですか。
どうだろう。僕はアメコミで知りました。その前は「バッドガイ」という言い方をしていましたね。
ヴィランが、ただ単に悪いことをするだけだと、おもしろさは半減すると思うんです。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)は、宇宙の人口を半分にすることで均衡を保とうとサノスは考えるわけですが、なぜ説得力があるかというと、今、実際地球には70億人の人がいて、今後どうやって持続していくのかという課題があるからこそです。『ダークナイト』のジョーカーもすごく説得力がある。
昔みたいに、「とにかく世界を征服するんだ」ではなく、それなりの動機がありますね。
特撮研にいたから分かるのですが、ヒーロー物を作るときに何が難しいかというと、なぜヒーローがわざわざ正義のために戦うのかという動機づけなんです。これだけの力があったら、好きなことをやればいいじゃないかと(笑)。
確かにそうですよね。
悪もまたしかりで、例えば悪の征服者が「愚かな人類を殺して地球を征服するんだ」と言うとき、人類が全部死んでしまったら、誰があなたを優秀だと言うんだと(笑)。
だから、結構、正義と悪がなぜ戦うのかという部分はしっかり書きますよね。
あと正義と悪が入れ替わったりしますよね。
悪と善のグレーゾーンって、意外と人間の社会の中に必要なものかもしれない。その ような世の中でどうやって善に近づくか。
その葛藤が人間らしく、また興味深いので、ヴィランとヒーローの間を行き来するキャラクターに惹きつけられるのかなと思います。
世界を駆けるアメコミ
世界でヒットしている映画のベストテンに『アベンジャーズ』が3本入っていて、あとは『ブラックパンサー』(2018年)が入っている。だから、『ハリー・ポッター』とか『スター・ウォーズ』並に世界的に皆、アメコミ映画が好きですね。
日本では、思ったよりもヒットしないという話を聞いたことがありますが本当なんですか。
どうなんでしょうね。世界の中でもこれだけ漫画とアニメが強い国はないので、『セーラームーン』があるところで『ワンダーウーマン』(2017年)がどうか、というところはあるかもしれないですね。
中国は最近になってハリウッド映画をやるようになって、結構人気があります。韓国はすごい好きです。『ブラックパンサー』のロケ地は韓国だったじゃないですか。
『ブラックパンサー』はおもしろかったですね。
いい映画でしたね。
アフリカにワカンダという王国があって、ヴァイブラニウムという、キャプテン・アメリカのシールドとかを作っている金属を大量に持ち、超最先端の技術も持っている。
今、アフリカに対する見方が変わりつつありますよね。今までは支援の対象だったのが、フィンテックなどでは一番進んでいる場所になりつつある。
そういった現実世界と照らし合わせてみたとき、「実はアフリカってこれだけのポテンシャルを持っているんだ」というメッセージが『ブラックパンサー』の中に隠れていて、それが斬新でした。
たぶんマーベルで『ブラックパンサー』が、一番当たった映画になっているはずです。あれだけ黒人キャストの映画だからどうかと思ったら、逆にそこがよかったですよね。
「小僧なヒーロー」
『スパイダーマン』って「小僧なヒーロー」というイメージがあるから、役者を代えていかざるを得ないんですね。
高校生ですからね。
前の『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)のアンドリュー・ガーフィールドって嵐の二宮君と同い年ぐらいなんです。その前の『スパイダーマン』シリーズ(2002年〜)のトビー・マグワイアに至っては伊藤英明君と同い年で、さすがにあの2人にもう高校生は無理です(笑)。
『アメイジング・スパイダーマン』って、なんかウエットな感じがしませんか。主人公がくよくよ悩んで。こちらは爽快感を求めているのに何を悩んでいるのかと。
トビー・マグワイアのスパイダーマンって典型的ないじめられっ子で、のび太君みたいな子なんだけど、アンドリューって、今風の若者の悩みですよね。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグみたいな子が悩んでいることにフォーカスしているスパイダーマンらしい。だからちょっと七面倒くさい。
リアルすぎてしまって。
最近のトム・ホランドのスパイダーマン(『スパイダーマン・ホームカミング』、2017年)のミレニアル感はよかったですね。アイアンマンにミッションに呼ばれて、キャプテン・アメリカのシールドを取ったりするのを携帯でずっと撮っている。「イエーイ!」みたいな感じ。ああいう軽さは私はすごく好きで、新しいキャラクターだなと思いました。
コミックに一番近いのかなと思いましたけど。
近いですね。トム・ホランド版って、ほかにヒーローがいる世界で、小僧なヒーローがなんとかしなきゃ、という焦りがあるわけです。『ジャスティス・リーグ』のフラッシュも結構おどおどしていてよかったですね。
そうですね。私はもっと女性に出てきてほしいなといつも思っているんです。『シビル・ウォー』のときも8割方男性みたいな感じがする。今度の『キャプテン・マーベル』(2019年公開予定)が女性ですが、あとはマーベルもブラック・ウィドウとスカーレット・ウィッチぐらいしか女性がいない。もっと強くてかっこいい女性キャラが出てきてくれたら嬉しいなと思います。
方向性としてはだんだん人種の面でもダイバーシティ的になっていっているとは思うのですが。
地球を守るか、地元を守るか
アメリカって国が若いから、ヤマトタケルとか、アーサー王伝説みたいな民族的な英雄物語がないんですね。だから、そういうものを潜在的に欲しがる。
スーパーマンは、世界初のスーパーヒーローですが、いかにもアメリカ人らしく、いきなり最強のヒーローを作ってしまった。すると後から出てくるヒーローは何をやっても敵わないので、スーパーマンに対して普通の人間のバットマンが生まれ、男に対して女のワンダーウーマンがいる。スーパーマンからスペックダウンするか、対照的な軸でヒーローを作っていった。
それは確かにありますね。
僕が好きなのは、コミックで、バットマンがスーパーマンに「地球の平和を守るということと、この町を浄化するということは意味が違うんだよ」と説教するところ。「おまえの正義を持ってくるんじゃない」と。それはそうだなと思いましたね。
最近のヒーローのコンフリクトとして、外から来る敵から地球を守った結果、地元の人に嫌われるパターンが結構多いですよね。
結局、バットマンとスーパーマンが対立するのも、スーパーマンがゾッド将軍と戦っている間に、ウェイン・エンタープライズというバットマンのビルを壊してしまって、従業員が死んでしまうからですね(『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』、2016年)。
『シビル・ウォー』でも、ソコヴィアというところで戦いが起きて、家族が死んでしまい、アイアンマンが直接その遺族にクレームを言われ、すごく悩むんです。
そういうところは結構リアルですよね。『ウルトラマン』で、町中で巨大怪獣と戦って、怪獣は倒すけれども町を壊していいのかと。今のアメコミ映画はそこをちゃんと考えている。
僕はコミックの中でのキャプテン・アメリカの「正義に政治が絡んだら、ろくなことにならない」と言うセリフが好きなのです。もし政治が、ある宗教国家を悪だと決めたら、俺たちは戦わなければいけないのか、そうじゃないだろうと。正義というのは個人の良心に委ねるべきだと。キャプテン・アメリカは、規制よりも自由を重んじるんです。
アイアンマンのトニー・スタークは、どちらかというと秩序を守るほうが大事だから、法に従いましょうという考えです。あれは、よく読むと、どちらがいい、悪いという話ではないですよね。
等身大のスーパーヒーロー
『アントマン』(2015年)は上手くできていますね。最初は小さくなるだけだから、つまらないんじゃないかと思ったんですけど。
たいしたものですね。小さくなるだけで、よくあれだけおもしろく作れるなと。
小さくなれるなら大きくなれるという発想もおもしろくて。
そういえば、大きくなるスーパーヒーローって、アントマンがなるジャイアントマン以外ほぼいないですよね。日本だったらウルトラマンとか多いのですけど。怪獣も出てこないし。
ちょっと反則的な感じがするんでしょうか。
スーパーヒーローに対して、もう一つ「クライムファイター」という言い方もします。やはりアメリカのヒーローって、犯罪者と戦うヒーローが多い。
仮面ライダーは銀行強盗にライダーキックをしないけれど、スパイダーマンはヴィランだけでなく、ひったくりとも戦う。逆に、日本はそれだけ治安がいいからかもしれない。
あと、日本の特撮物と違って、必殺技をあまり強調しないですね。単純に殴ったり蹴ったりするだけで。
人間の力を信じているところがアメコミにはありますね。バットマンも試行錯誤して、いろいろなガジェットを作っていくし、スパイダーマンもコスチュームを改良していく。
スーパーパワーを得たらヒーローになれるのではなくて、スーパーパワーを持つ存在に近づくために一生懸命努力する。いきなり「スーパーパンチ!」ではなく、人間っぽい方法で敵を倒していきますね。
ケネディの有名な演説の一節、「アメリカが何かをしてくれることを考えるんじゃなくて、アメリカに何ができるかを考えるべきだ」という精神がアメコミにはあるという説があります。
それから超能力のことをギフト(gift)と呼んで、そういうものを持った人は国家のために頑張りなさいというのがお約束です。
ノブレス・オブリージュみたいなものですね。
『007』だって、公務員なのに、なぜ公務員の給料で世界を守るのかと。ゴルゴ13ならフリーだから分かるのですが(笑)。
日本にはそういう国に奉仕するキャラはほとんどいないですね。アメリカではPledge of Allegianceといって旗に向かって毎朝、朝礼で「国に対して奉仕することを誓います」と小さい頃から言わされる。
国に対して自分が奉仕することに対する憧れみたいなものが強い気がします。
ダイバーシティに向かうアメコミ
今後アメコミ映画って、どういう方向に行くんでしょうか。
『アベンジャーズ』とか『スーサイド・スクワッド』(2016年)ぐらいから、20代が好きになっているんです。この人たちがこれからもこのジャンルを見ていくなら、結構マーケットはあると思いますね。DCはだんだん明るい方向に行きそうですし、マーベルと拮抗してくると嬉しいなと思います。
マーベルは笑える映画が最近増えてきたと思うのです。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)とか『デッドプール』もそうです。
ヒーローなんだけど、コミックリリーフ的なものも増えてくるのではないかと思います。
そのへんは上手いですよね。日本のヒーロー物の映画には、そういうのは少ないかもしれないですね。
私はアメコミは、スーパーヒーローでもすべてを手に入れられないところがおもしろいと思っているんです。『バットマン』でも、レイチェルは死んでしまう。本当に好きな人は手に入れられないという葛藤は、私たちミレニアル世代と共感するところがあります。
僕にとってアメコミの良さって、自分みたいな奴がいてもいいんだと思える世界ってことなんです。
どんな人間にも必ずいいところがあって、出番がちゃんとある。『アベンジャーズ』で、どう考えてもマイティ・ソーだけいればいいのに、ホークアイはホークアイで、いなきゃ困るという場面がある。
『X‐MEN』でプロフェッサーXが出たときに、車いすのヒーローというのはすごく斬新でした。『デアデビル』(2003年)も盲目ですね。身体障害者なのにヒーローというのは、実はものすごい勇気を与えていたことなのかもしれないですね。
その視点は気づきませんでしたが、そうですね。
アメコミは昔からダイバーシティに向かっているのですね。
これからの作品にも期待していきたいですね。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。