慶應義塾

プルーラリティ・なめらかな社会研究センター(PRANCE)

公開日:2026.06.10
KGRI

研究概要

【研究目的】

先進国では民主主義の機能不全が深刻化している。対立構造の固定化、暴力的言動の顕在化、SNSを通じた認知操作による社会的分断が民主主義の基盤を揺るがしている。本研究は、「なめらかな社会」(鈴木健が提唱した境界や対立を連続的に捉え直す社会構想)および「Plurality」(オードリー・タン氏らが提唱するデジタル技術で多様性と協力を両立させる民主主義の理念)の実現に向けた課題整理と実践的アプローチを確立し、日本における解決策を提示することを目的とする。

【研究内容・研究課題】

デジタル技術を活用した民主主義の強靭化と、市民社会の再接続・コミュニティ再生への貢献を探究する。技術開発コミュニティ「デジタル民主主義2030」と連携し、実践的ツールの開発にも取り組む。以下の3つのサブプロジェクトを設置し研究を推進する。

①熟議民主主義の実践:台湾・欧米の市民参加型熟議プラットフォームや参加型予算の事例調査と日本での実践。市民会議の設計・運営手法の開発。
②ブロードリスニング:AI活用による大規模市民意見の収集・分析手法の研究開発。多様な声の可視化と政策形成への活用。
③インフォメーション・インテグリティ:SNS等による対話阻害要因の分析、外国勢力による介入や悪意ある情報流布を含む偽情報対策、健全な情報環境構築の研究。

2026年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

2025年度に着手した3つのサブプロジェクトの取り組みを、2026年度も継続して推進する。

①熟議民主主義の実践(本格始動):
2025年度に設計した市民の声の収集手法(Polis、倍速アンケート、被害者インタビュー)を2026年度前半に実施する。収集した市民の声を基に熟議プロセスを設計・運営し、市民参加型の合意形成手法の研究を本格化させる。継続の根拠は、2025年度の台湾視察で得た熟議民主主義の実践知見を日本で応用する段階に進んでいること。

②ブロードリスニング(継続・拡充):
2025年度にベータ版をリリースした市民参加型詐欺広告通報プラットフォーム「AntiFraud」の運用を継続し、データの蓄積・分析を進める。収集データを研究のエビデンスとして活用する。また、CAMPFIREクラウドファンディングを通じた市民参加の拡大に取り組む。継続の根拠は、市民からのリアルタイムデータが研究の実証的基盤として不可欠であること。

③インフォメーション・インテグリティ(継続・深化):
有名人なりすまし詐欺広告問題を中心に、SNS上の偽情報対策と健全な情報環境の構築に関する研究を継続する。先行研究が豊富な台湾での取り組みを参考に、国際比較の観点から活動を進める。台湾当局との連携調査を継続し、比較制度研究を深化させる。

■2026年度の新規活動目標と内容、実施の背景

2026年度の新規活動として、以下を計画する。

1. 鈴木健特任教授の着任と研究体制の本格化(2026年6月1日~):
鈴木健氏がKGRI特任教授として着任し、PRANCEの研究活動を本格的に主導する。特に「なめらかな社会」構想に基づく理論研究と、Plurality(多元主義的民主主義)の実践的フレームワーク構築を推進する。

2. 熟議民主主義の実践イベント開催:
収集した市民の声を基に、対面型またはハイブリッド型の熟議イベントを2026年度中に実施し、市民合意形成の実証実験を行う。

3. ブロードリスニングの実践と知見化:
AI技術を活用した大規模市民意見の収集・分析を実施し、多様な市民の声を可視化する手法の確立に取り組む。Polis、倍速アンケート、被害者インタビュー等の複数チャネルを通じてデータを収集し、分析結果を研究知見として体系化する。得られた知見はブロードリスニングの方法論として取りまとめ、他の社会課題への応用可能性を検討する。

2025年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

2025年度は、2026年2月27日のKGRI運営会議での承認を受けてプロジェクトが正式に設置されたため、実質的な活動期間は約1か月間(2026年3月)である。この短期間において、技術開発コミュニティ「デジタル民主主義2030(DD2030)」との連携を基盤とし、以下の活動を集中的に展開した。

①熟議民主主義の実践:
共同代表の鈴木が2026年01月に実施した台湾視察を踏まえ、台湾におけるデジタル民主主義の先進事例を調査した。市民参加型熟議プラットフォームの運用実態や参加型予算の取り組みについて現地関係者から追加ヒアリングを行い、日本における熟議民主主義の実践に向けた知見を蓄積した。具体的には、台湾当局への追加質問リストの作成・送付を通じ、国際連携による比較研究を進めた。

②ブロードリスニング:
市民参加型詐欺広告通報プラットフォーム「AntiFraud」(antifraud.dd2030.org)のベータ版を3月19日にリリースした。データ収集版は3月12日に先行公開し、市民からの詐欺広告通報データの蓄積を開始した。また、CAMPFIREにてクラウドファンディングを開始し、市民参加による社会課題解決の仕組みづくりに着手した。3月19日には都道府県会館にて記者会見を開催し、プレスリリースの配信と詐欺広告問題の社会的認知向上に取り組んだ。市民の声の収集手法(Polis、倍速アンケート、被害者インタビュー)の設計を完了し、2026年度の本格実施に向けた準備を行った。

③インフォメーション・インテグリティ:
前述の台湾視察で得た知見を基に、SNSを通じた偽情報の流布実態の把握と対策研究に着手した。

達成度としては、設置初月にもかかわらず記者会見の実施、市民参加型プロダクトのベータ版リリース、国際比較研究の基盤構築など、計画を上回る進捗を達成した。

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

<公刊論文>

なし(設置初年度・実質活動期間1か月のため)

<学会発表>

なし

<イベント・社会貢献の実績>

・2026年3月19日 記者会見「ストップ詐欺広告」(都道府県会館401号室、東京)

 登壇者:鈴木健(DD2030代表)、駒村圭吾(慶應義塾大学・PRANCE共同代表)

 主要メディアへ案内状送付・取材対応

・2026年3月19日 市民参加型詐欺広告通報プラットフォーム「AntiFraud」ベータ版公開(antifraud.dd2030.org)

・2026年3月19日 CAMPFIREクラウドファンディング開始(https://camp-fire.jp/projects/930941/view)

・2026年3月 オードリー・タン氏(台湾・元デジタル発展部長)からの賛同メッセージ・動画を取得

・2026年3月 公式サイト dd2030.org の構築・公開

■プロジェクト活動を通じて特に成果を挙げた事柄

設置初月において特に成果を挙げた事柄は以下の3点である。

1. 記者会見の実施と社会的認知の獲得:
2026年3月19日、都道府県会館にて「ストップ詐欺広告」記者会見を実施した。鈴木健(DD2030代表)と駒村圭吾(慶應義塾大学教授・PRANCE共同代表)が登壇し、有名人なりすまし詐欺広告の深刻な被害実態と、台湾のデジタル民主主義先進事例に基づく対策の方向性を提示した。主要メディアへの案内と取材対応を行い、社会課題としての認知を広げた。

2. 市民参加型プラットフォームの開発・リリース:
市民参加型詐欺広告通報プラットフォーム「AntiFraud」(antifraud.dd2030.org)をベータ版として公開した。本プラットフォームは、②ブロードリスニング研究の実践的成果であり、市民から直接詐欺広告の情報を収集・分析するインフラとして機能する。同時にCAMPFIREでのクラウドファンディングを開始し、市民参加と資金調達を一体化させたモデルを実現した。

3. 台湾視察を通じた国際比較研究の基盤構築:
2026年1月の台湾視察において、デジタル民主主義・偽情報対策の先進事例を現地調査し、台湾当局関係者との研究連携の基盤を構築した。これを活用し、台湾関係者への追加ヒアリングを行う予定である。継続的な国際共同研究の枠組みを確立したことは、③インフォメーション・インテグリティ研究の土台として特筆に値する。

プロジェクトメンバー

研究代表者

駒村 圭吾

教授(有期)大学共通 ( 三田 )

鈴木 健

特任教授KGRI