慶應義塾

1:Functional variants in a TTTG microsatellite on 15q26.1 cause familial non-autoimmune thyroid abnormalities.

今月のサイエンス - 2024年06月

Nature Genetics.

2024 May;56(5):869-876. doi: 10.1038/s41588-024-01735-5.

Narumi S, Nagasaki K, Kiriya M, Uehara E, Akiba K, Tanase-Nakao K, Shimura K, Abe K, Sugisawa C, Ishii T, Miyako K, Hasegawa Y, Maruo Y, Muroya K, Watanabe N, Nishihara E, Ito Y, Kogai T, Kameyama K, Nakabayashi K, Hata K, Fukami M, Shima H, Kikuchi A, Takayama J, Tamiya G, Hasegawa T.

左から鳴海覚志(筆頭著者・責任著者)、長谷川奉延(共同著者)

ゲノムDNAはタンパク質の構造情報が書きこまれたコード領域とそうでない非コード領域に大別されます。非コード領域はヒトゲノムの98%以上を占めますが、このうちのどの部分が遺伝性疾患に関わるかは大部分未解明です。実際、保険収載された遺伝学的検査ではコード領域のみを調べています。本研究では、15番染色体の非コード領域の塩基レベル変化が常染色体顕性遺伝性の先天性甲状腺機能低下症を起こすことを発見しました。東北メディカル・メガバンク機構の38KJPNにおける頻度(1/12,000)から、日本だけで約10,000人の患者が存在すると想定されます。これは非コード領域異常によるメンデル遺伝病として最も高頻度なものです。非コード領域の解析には全ゲノム解析を行う必要がありますが、非コード領域があまりにも広大であるため、そのまま解析してもレアなDNA配列変化と疾患発症との因果関係を証明することが、統計学的に困難です。本研究ではこの課題を克服するため、連鎖解析と全ゲノム解析を組み合わせるアプローチを採用しました(図)。同様のアプローチを原因不明の遺伝性疾患に応用することで、非コード領域の機能の解明が進むことを期待しています。

(小児科 鳴海覚志 80回)

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2: Regeneration of Nonhuman Primate Hearts With Human Induced Pluripotent Stem Cell–Derived Cardiac Spheroids

Circulation.

26 Apr 2024.doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.123.0648762024

Hideki Kobayashi#, Shugo Tohyama#,*, Hajime Ichimura, Noburo Ohashi, Shuji Chino, Yusuke Soma, Hidenori Tani, Yuki Tanaka, Xiao Yang, Naoko Shiba, Shin Kadota, Kotaro Haga, Taijun Moriwaki, Yuika Morita-Umei, Tomohiko C. Umei, Otoya Sekine, Yoshikazu Kishino, Hideaki Kanazawa, Hiroyuki Kawagishi, Mitsuhiko Yamada, Kazumasa Narita, Takafumi, Naito, Tatsuichiro Seto, Koichiro Kuwahara, Yuji Shiba* and Keiichi Fukuda.

左から小林秀樹(筆頭著者)、柴祐司(責任著者)、福田恵一(最終著者)、遠山周吾(筆頭責任著者)

ヒトiPS細胞は心臓再生医療における有望な細胞源ですが、分化した心筋細胞を移植した際には、心筋以外の細胞や心室筋以外の自動能の高い心筋細胞の混入等により、心室性不整脈が発生することが臨床応用における大きな課題でした。今回、我々は、まず臨床用のヒトiPS細胞から独自に開発した臨床グレードの培養液を用いて、高純度の心室筋細胞を製造し、心筋組織球を作製しました。次に、臨床応用を想定して、心筋組織球を4時間離れた信州へ搬送し、心筋梗塞を発症したサルの心臓にその心筋組織球を移植しましたところ、移植した心筋細胞が長期に渡って生着・成熟し、サルの心機能を回復させることに成功しました。さらに、生着グラフトは同程度であるにも関わらず、従来の報告と比較して移植後に発生する心室性不整脈の副作用が格段に少ないことを明らかにしました。心筋細胞の製造法を工夫することで、移植後の不整脈の発生を抑えられることを初めて示した成果であり、この知見を元に、企業と連携して心不全患者への移植(現時点で4例実施)を進めています。ヒトiPS細胞を用いた心筋組織球移植治療法の今後の発展が期待されます。なお、本研究は信州大学再生医科学教室(柴研究室)との共同研究により実施されました。

(藤田医科大学東京 先端医療研究センター 遠山周吾 85回)

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