今月のサイエンス - 2016年05月
J Allergy Clin Immunol
2016 Feb 29; pii: S0091-6749(16)00111-1
Hiroshi Fujishima, Naoko Okada, Kenji Matsumoto, Kazumi Fukagawa, Ayako Igarashi, Akio Matsuda, Junya Ono, Shoichiro Ohta, Hideki Mukai, Mamoru Yoshikawa, and Kenji Izuhara
眼アレルギー疾患の診断は時に苦慮する場合がある。その理由として、確実な診断を得るバイオマーカーなどが存在しなかったことが考えられる。近年、局所の“微小環境”がアレルギーの増悪に重要であることが示唆されている。この微小環境を構成する重要なタンパク質のひとつに細胞外マトリックスがある。これらが、細胞の増殖・分化や炎症を制御するシグナルを細胞内に伝達していることがわかり、細胞機能制御因子としての役割が注目されるようになってきた。これらは “マトリセルラータンパク質”と呼ばれ、様々な病態に関与していることが明らかにされている。ペリオスチンはFasciclinファミリーに属するマトリセルラータンパク質の一つである。これまでに様々なアレルギー性炎症疾患や線維化を伴う疾患で、血中ペリオスチン濃度が上昇することが明らかにされている。今回我々は、アレルギー性結膜炎患者の涙液に着目した。その結果、涙液中のペリオスチンが高濃度で存在し、かつIL-13よりも著明な変化があった。また、アレルギー性結膜炎の症状や疾患の重症度と非常に関連性が高いことが明らかになった。非侵襲性に採取可能な涙液でのペリオスチン濃度測定は、新たなバイオマーカーとしてアレルギー性結膜炎の診断治療に有用性が高いことが示された。
(鶴見大学歯学部眼科教授 藤島浩 眼64相当)
2: Glutamine Oxidation Is Indispensable for Survival of Human Pluripotent Stem Cells.
Cell Metabolism
Shugo Tohyama, Jun Fujita, Takako Hishiki, Tomomi Matsuura, Fumiyuki Hattori, Rei Ohno, Hideaki Kanazawa, Tomohisa Seki, Kazuaki Nakajima, Yoshikazu Kishino, Marina Okada, Akinori Hirano, Takuya Kuroda, Satoshi Yasuda, Yoji Sato, Shinsuke Yuasa, Motoaki Sano, Makoto Suematsu, Keiichi Fukuda
ヒト多能性幹細胞(ES細胞やiPS細胞)は再生医療における魅力的な細胞源であるが、分化後に腫瘍化の原因となる未分化幹細胞が混入することが大きな問題になっている。そこで我々はこれまでにヒト多能性幹細胞の生存における代謝の役割に着目してきた。今回我々は、ヒト多能性幹細胞の生存においてグルタミンがグルコースと協調して重要な役割を担っていることを明らかにした。ヒト多能性幹細胞をグルコースおよびグルタミンを除去した条件で培養した場合、グルコースのみを除去した場合に比べ、ATPが短時間で著明に低下し速やかに死滅した。またメタボローム解析により、ヒト多能性幹細胞はピルビン酸ではなくグルタミンを効率よく利用し、ATPを合成することを見出した。その要因としてヒト多能性幹細胞においてアコニターゼ2 (ACO2) およびイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2/3 (IDH2/3) の発現が著しく低く、ATPクエン酸リアーゼ (ACLY) の発現が高いことが考えられた(図参照)。一方、心筋細胞は同条件においても乳酸を添加することで生存可能であった。本研究成果により、FACS (セルソーター)などを用いることなく、安価かつ簡便に未分化幹細胞を完全に除去した臨床水準の心筋細胞を作製することが可能となり、今後の再生医療の実現化に貢献することが期待される。
(循環器内科 遠山周吾 85回)