慶應義塾

1: Shared GABA transmission pathology in dopamine agonist- and antagonist-induced dyskinesia

今月のサイエンス - 2023年11月

Cell Rep Med.

2023 Oct 17;4(10):101208. doi: 10.1016

Yoshifumi Abe, Sho Yagishita, Hiromi Sano, Yuki Sugiura, Masanori Dantsuji, Toru Suzuki, Ayako Mochizuki, Daisuke Yoshimaru, Junichi Hata, Mami Matsumoto, Shu Taira, Hiroyoshi Takeuchi, Hideyuki Okano, Nobuhiko Ohno, Makoto Suematsu, Tomio Inoue, Atsushi Nambu, Masahiko Watanabe, Kenji F Tanaka

左から 阿部(筆頭著者) 田中(責任著者) 竹内(共同著者)

体のクネクネ、口のモゴモゴをジスキネジアという。ドパミンが増えるかもしれない疾患(統合失調症)に、ドパミン阻害薬を投与してもジスキネジア(遅発性ジスキネジア)になるし、ドパミンが減る疾患(パーキンソン病)に、ドパミン作動薬を投与してもジスキネジア(L-DOPA誘発性ジスキネジア)になる。この全く異なる条件で生じる病態の共通病理は何か。異常な運動とリンクする異常な脳構造があるはずだという発想のもと、それぞれの病態モデルマウスの脳を解剖学的に調べたところ、線条体投射神経終末が肥大していることが共通病理であった。神経終末の肥大は、小胞GABAトランスポーター(VGAT)と呼ばれる分子の増加で説明できること、その増加により線条体神経からのGABA放出が増え、ジスキネジアになることがわかった。線条体神経のD2受容体シグナルの阻害に加えて、細胞外ドパミン濃度のアップダウンが繰り返されることが組み合わさると線条体VGAT発現が増えることも分かった。遅発性ジスキネジアの治療薬バルベナジンは細胞外ドパミン濃度の上昇を抑えることで治療効果を発揮することも明らかにした。かたちの異常を深掘りして真理に至る例である。

(先端医科学研究所脳科学研究部門教授 田中謙二 76回、講師 阿部欣史、精神・神経科学教室准教授 竹内啓善)

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2: Spatial heterogeneity of bone marrow endothelial cells unveils a distinct subtype in the epiphysis

Nat Cell Biol.

2023 Oct;25(10):1415-1425. doi: 10.1038

Takahito Iga, Hiroshi Kobayashi, Dai Kusumoto, Tsukasa Sanosaka, Nobuyuki Fujita, Ikue Tai-Nagara, Tomofumi Ando, Tomoko Takahashi, Koichi Matsuo, Katsuto Hozumi, Kosei Ito, Masatsugu Ema, Takeshi Miyamoto, Morio Matsumoto, Masaya Nakamura, Hideyuki Okano, Shinsuke Shibata, Jun Kohyama, Kevin K. Kim, Keiyo Takubo & Yoshiaki Kubota

責任著者の久保田(左)、筆頭著者の伊賀(右)

骨はからだを支え、内部の脳や臓器を守る役割だけではなく、骨の内部(骨髄)には血液幹細胞が存在し、日々赤血球や白血球などの血球を産生し、全身に送りとどけます。この骨格としての役割と、血液産生の役割の両方に重要なのが骨髄の血管です。しかし、他のやわらかい組織とは違い、組織を細かく観察するために骨の「切片を切る」という作業が、その硬さゆえに難しく、他の臓器の血管に比べ、骨髄の血管に関する理解はあまり進んでいませんでした。本研究は、従来の組織切片の作成法の改良、シングルセル解析、新規遺伝子改変マウスの作成により、骨の端(骨端部)にこれまで見つかっていなかった骨髄血管のサブタイプが存在し、骨の発生、血液産生に重要なことを見出しました。もともと骨端部は大腿骨頸部骨折や大腿骨頭壊死など、ヒトの疾患で重要な部位であるにもかかわらず、従来、マウスの骨や骨髄を解析するときには、便宜上ハサミで切断し捨てられてきた部分であり、殆ど解析されてきませんでした。将来的には、このユニークな血管サブタイプの発見により上記疾患の理解が進むことが期待されます。

(解剖学教室 久保田義顕 79回、整形外科 伊賀隆史 91回)

(A)大腿骨の血管の全体像。矢頭がこれまで切り捨てられてきた骨端部。/(B)骨端部の拡大図。血管周囲に骨の元になる細胞(骨芽細胞前駆細胞)が多数存在する。/(C)Type S血管の模式図。他の血管と異なり、樹枝状の形態を呈する。