今月のサイエンス - 2022年07月
Nature Communications,
Nature Communications, 2022, vol. 13, issue 1, 1-13
Hidenori Moriyama, Jin Endo, Masaharu Kataoka, Yuta Shimanaka, Nozomu Kono, Yuki Sugiura, Shinichi Goto, Hiroki Kitakata, Takahiro Hiraide, Naohiro Yoshida, Sarasa Isobe, Tsunehisa Yamamoto, Kohsuke Shirakawa, Atsushi Anzai, Yoshinori Katsumata, Makoto Suematsu, Kenjiro Kosaki, Keiichi Fukuda, Hiroyuki Arai & Motoaki Sano
肺高血圧症は肺血管抵抗の上昇によって右心不全を来す疾患で、いまだ病態メカニズムが解明されていない難病です。著者らは、肺血管周囲に集積する炎症細胞と生理活性脂質に注目し、病態メカニズムの解明を行いました。その結果、炎症細胞の一つである肥満細胞で、魚油に含まれるオメガ3脂肪酸の代謝物(エポキシ化オメガ3脂肪酸)が産生され、肺血管の異常な線維化を抑えることが分かりました。さらに、このエポキシ化オメガ3脂肪酸の産生酵素であるPAF-AH2が、肺高血圧症と深く関連することを動物実験や肺高血圧症患者のゲノム情報(全エクソーム解析)から明らかにし、この脂質の補充投与が肺高血圧を改善させる治療手段となり得ることを示しました。本研究成果は新たなメカニズムの解明とともに、疾患の根本にアプローチする新規治療の創出につながると考えられます。また、将来的には遺伝子情報に基づいた個別化医療への応用も期待されます。
(循環器内科 守山英則 90回)
2: Segmentectomy versus lobectomy in small-sized peripheral non-small-cell lung cancer (JCOG0802/WJOG4607L) : a multicentre, open-label, phase 3, randomised, controlled, non-inferiority trial.
Lancet.
Saji H, Okada M, Tsuboi M, Nakajima R, Suzuki K, Aokage K, Aoki T, Okami J, Yoshino I, Ito H, Okumura N, Yamaguchi M, Ikeda N, Wakabayashi M, Nakamura K, Fukuda H, Nakamura S, Mitsudomi T, Watanabe SI, Asamura H.
本コーナーで紹介される基礎医学領域の論文と異なり、この研究は最近では珍しい純粋外科学の術式間での比較試験についての多施設共同研究の成果です。Ⅰ期非小細胞肺癌に対する現在の標準治療は肺葉切除による根治手術ですが、径2cm以下のリンパ節転移のない小型肺癌に対しては、より狭い領域の切除(区域切除)でも同等の根治性が得られ、かつ肺機能が温存されるのではないかという予測に則り、肺葉切除と区域切除の間で無作為化比較試験が計画されました。筆者はこのJCOGの臨床試験にPIとして関与いたしました。この臨床試験は、“非劣性試験”であり、術後呼吸機能と予後の両面から区域切除の優位性を確定させるものです。結果の解釈は難しく、術後呼吸機能では区域切除の優位性は示されなかったものの、区域切除群の予後が肺葉切除群よりも有意に良好であったという予想外の結果から、結論としては区域切除を新たな標準治療とすべしというものとなりました。議論の多いところです。純粋外科の大規模比較試験は、本邦呼吸器外科では初めての成果であり、国際的にも注目度の高いものとなりました。
(外科学(呼吸器) 淺村尚生 62回)
その他の掲載論文
1: T Cell Responses to the Microbiota.
Annual Review of Immunology.
Ivanov, II, Tuganbaev T, Skelly AN, Honda K.