今月のサイエンス - 2022年03月
J Clin Invest.
2022 Feb 1;e153626. doi: 10.1172/JCI153626.
Tomofumi Ando, Ikue Tai-Nagara, Yuki Sugiura, Dai Kusumoto, Koji Okabayashi, Yasuaki Kido, Kohji Sato, Hideyuki Saya, Sutip Navankasattusas, Dean Y. Li, Makoto Suematsu, Yuko Kitagawa, Elena Seiradake, Satoru Yamagishi, Yoshiaki Kubota
がんの進行、転移には、血管ががん内部へ成長することが必要とされます。そのため、血管の成長をとめる薬剤(VEGF阻害剤など)が広く臨床の現場では用いられていますが、転移に関しては抑える効果が不十分であることが指摘されてきました。本研究では、神経ガイダンス因子として知られるFLRT2がヒト大腸がん、特に進行がんの血管で強く発現し、その発現量は予後と逆相関していることを見出しました。次に血管特異的にFLRT2遺伝子を欠損したマウスにがん細胞を移植したところ、隙間の多い血管(がん転移の出入り口となる)が著減し、肺や肝臓への転移が減少することを見出しました。さらには、この血管の変化(隙間の多い血管が減少)によりがん深部まで血流を運ぶことができるようになり、免疫チェックポイント阻害剤の効果が増強されることもわかりました。本研究成果は、がん転移を効率的に抑える画期的な分子標的薬の開発につながることが期待されます。筆頭著者の安藤くんは顔もキャラも濃いですが、研究の腕前はキレ味抜群すっきり系、外科帰室後もさらなる活躍が期待されます。
(解剖学教室 久保田義顕 79回、安藤知史 90回)
2: Fast and Durable Intraoperative Near-infrared Imaging of Ovarian Cancer Using Ultrabright Squaraine Fluorophores.
Angew Chem Int Ed Engl.
Fukuda T, Yokomizo S, Casa S, Monaco H, Manganiello S, Wang H, Lv X, Ulumben AD, Yang C, Kang MW, Inoue K, Fukushi M, Sumi T, Wang C, Kang H, Bao K, Henary M, Kashiwagi S, Choi HS.
卵巣がんは治療開始時点で腹腔内の播種があることが多いが、1ミリ以下の微小な病巣まできれいに切除できると予後が改善されることが知られている。しかし、手術は現在でも外科医の肉眼に頼っており、術野での微小がん発見は容易ではない。がんをくっきり染める蛍光ガイド手術は、がんの位置を正確に把握し取り残しを減らす技術として近年注目を集めている。今回われわれは、近赤外領域に蛍光を持つスクアライン色素の化学構造や電荷に修飾を加えることで、高輝度で安定した卵巣がん指向性のある蛍光色素を開発した。この色素は静脈注射後、有機カチオントランスポーターを介しがん細胞内へ迅速に取り込まれ、リソソームに集積し、マウス卵巣がん播種モデルでは投与24時間後までの長時間にわたり微小がんを高精細に検出できた。今後、ロボット手術の増加などから、手術補助技術は重要性を増してくると予想される。共同責任著者の柏木(76回)はマサチューセッツ総合病院での研究歴が20年になる。蛍光分子の設計・合成をする同病院、ジョージア州立大の化学グループとの共同研究を通して、がんや正常組織特異的な新規蛍光物質の開発を手がけている。
(産婦人科学教室 柏木 哲 76回)
3: iPSC-based disease modeling and drug discovery in cardinal neurodegenerative disorders.
Cell Stem Cell.
2022 Feb 3;29(2):189-208. doi: 10.1016
Hideyuki Okano, Satoru Morimoto
本総説では、筋萎縮性側索硬化症、ALSパーキンソン病、アルツハイマー病などの主要な神経変性疾患に対して、これらの疾患の発見から病態の解説、遺伝学的な解析所見、iPS細胞を用いた病態解析・創薬・臨床試験について述べただけではなく、孤発性神経変性疾患の層別化を目指したpolygenic risk scoreや、深層学習を用いたエンハンサーのpathogenetic SNPの予測、iPS細胞技術とゲノム編集技術を駆使したその検証などを含む、神経変性疾患研究の新しい方向性について議論しました。
(生理学教室 岡野栄之 62回)