今月のサイエンス - 2022年10月
Cell Metabolism.
2022 Sep 2;S1550-4131(22)00355-2. doi: 10.1016/j.cmet.2022.08.012.
Mihoko Yoshino, Jun Yoshino, Gordon I. Smith, Richard I. Stein, Adam J. Bittel, Daniel C. Bittel, Dominic N. Reeds, David R. Sinacore, W. Todd Cade, Bruce W. Patterson, Kevin Cho, Gary J. Patti, Bettina Mittendorfer, Samuel Klein
ダイエットと運動を主体とした生活療法は、2型糖尿病治療の基盤となりますが、その実行は容易ではありません。本研究では、米国ワシントン大学に勤務する肥満・2型糖尿病患者を対象としてランダム化比較試験を実施し、“職場”における8か月間の強化生活療法が心代謝機能に与える影響およびその作用メカニズムを検証しました。職場で提供する生活療法(ダイエットおよび運動)は高いコンプライアンスを実現するとともに、通常の生活指導と内科的介入に比べ顕著な体重減少(17%)、体組成の改善(筋肉量をしたまま減量)、心肺機能、筋力の増加と共に糖尿病治療効果を発揮しました。さらにその作用メカニズムとして、骨格筋におけるNAMPTを介したNAD+合成系およびサーチュインシグナルの活性化を介したミトコンドリア機能の亢進の関与が考えられました。これらの知見から、職場が提供する生活療法が、肥満および2型糖尿病に極めて有効な治療効果を発揮することが強く示唆されました。この優れた治療効果は患者のやる気が維持され、高いコンプライアンスを保つ環境構築がなされれば職場に限らず得られるものと認識し、こうした活動を是非日本でも展開したいと考えています。
(慶應グローバルリサーチインスティテュート 吉野美保子 79相当)
2: Cell-matrix interface regulates dormancy in human colon cancer stem cells. Nature. 2022 Aug;608(7924):784-794. doi: 10.1038/s41586-022-05043-y.
Nature.
2022 Aug;608(7924):784-794. doi: 10.1038/s41586-022-05043-y.
Ohta Y, Fujii M, Takahashi S, Takano A, Nanki K, Matano M, Hanyu H, Saito M, Shimokawa M, Nishikori S, Hatano Y, Ishii R, Sawada K, Machinaga A, Ikeda W, Imamura T, Sato T.
がん根治の妨げとなっている化学療法耐性と再発には、自己複製能力と腫瘍再形成能力を併せもつがん幹細胞が重要な役割を持つと考えられてきました。しかし、これまでの研究手法ではある時点での組織のスナップショット情報しか得られず、がん幹細胞が実際に化学療法前後でどのような挙動をするかは不明でした。そこで今回我々は、愛媛大学 今村教授のご協力の下JKiC施設内に生体内ライブイメージングシステムを構築し、ヒトがん細胞の1つ1つを生きた状態で観察できる技術を開発しました。そのシステムを用いてがん幹細胞の挙動を詳細に観察したところ、大腸がん幹細胞のうちの一部の細胞は”休眠状態”を維持する事で化学療法後も生存し、その後増殖を再開して腫瘍を再形成する様子を捉えました。さらに、がん幹細胞の休眠と増殖のスイッチを司るメカニズムを追究した結果、COL17A1を介した細胞-基底膜間の接着シグナルが重要な役割を担うことを明らかにしました。休眠がん幹細胞は基底膜に強く接着することで休眠状態を維持していますが、化学療法によってCOL17A1が破壊されるとFAK-YAPシグナルが活性化し、増殖を再開します。 このYAPシグナルが休眠がん幹細胞の増殖再開に必須であることに着目し、次世代型YAPシグナル阻害剤(TEAD阻害剤)によって腫瘍再発を予防できることを、動物モデルで実証しました。 本成果は、化学療法後の腫瘍再発予防という新しい観点での治療法開発につながることが期待されます。
(坂口光洋記念講座オルガノイド医学教室 佐藤俊朗 76回)
その他の掲載論文
1: A combined stem-cell-gene therapy strategy for ALS.
Okano H.
2: Maiden voyage: Induced pluripotent stem cell-based drug screening for amyotrophic lateral sclerosis.
Brain.
2022 Aug 25;awac306. doi: 10.1093/brain/awac306.
Daisuke Ito, Satoru Morimoto, Shinichi Takahashi, Kensuke Okada, Jin Nakahara, Hideyuki Okano