慶應義塾

1:Neonatal Linear IgA Bullous Dermatosis Mediated by Breast Milk-Borne Maternal IgA.

今月のサイエンス - 2021年08月

JAMA Dermatol.

2021 Jul 4. doi: 0.00/jamadermatol.2021.2392.

Shohei Egami, Chihiro Suzuki, Yuichi Kurihara, Jun Yamagami, Akiharu Kubo, Takeru Funakoshi, Wataru Nishie, Kazuya Matsumura, Takahiro Matsushima, Miho Kawaida, Michiie Sakamoto, Masayuki Amagai

左から、天谷雅行(責任著者)、江上将平(筆頭著者)、山上淳(指導医)

新生児線状IgA水疱性皮膚症は表皮真皮境界部に反応するIgAを介して水疱・びらんを引き起こす稀な疾患で、皮膚のみならず粘膜気道にも病変が好発し致死的な病態を引き起こす。新生児の自己免疫性皮膚疾患では母体の血中にある自己抗体が胎盤を介して胎児に移行し病気を引き起こす例が多い中、線状IgA水疱性皮膚症では過去の報告でも母体血中に病的抗体が存在せず、その由来は不明であった。本研究では、間接蛍光抗体法で患児の母親の母乳の中に表皮真皮境界部に結合するIgAが存在することを証明した。また、病変周囲皮膚のJ鎖に対する免疫染色により、患児皮膚に沈着しているIgAが、母乳内に特異的に存在する分泌型(血清に含まれるIgAとは異なる)であることを見出し、母乳を介して患児に病原性IgAが移行していることを証明した。新生児IgA水疱性皮膚症においては、速やかに母乳栄養を中止することで患児の重症化を防ぎ、救命に繋がりうることが示唆された。

(皮膚科学教室 江上将平 89回)

図:自然受動免疫は母体抗体を胎盤(臍帯)あるいは初乳を介して胎児へ移行する時に認められる。無症状の母の血中を循環しているIgAは病原性がないが、母乳内に含まれているIgAは病原性があり、授乳を介して取り込んだ患児に症状を起こした。(論文より改変して引用)

2: Violet light suppresses lens-induced myopia via neuropsin (OPN5) in mice.

Proc Natl Acad Sci U S A.

2021 Jun 1;118(22):e2018840118. doi: 10.1073/pnas.2018840118.

Xiaoyan Jiang, Machelle T Pardue, Kiwako Mori, Shin-Ichi Ikeda, Hidemasa Torii, Shane D'Souza, Richard A Lang, Toshihide Kurihara, Kazuo Tsubota

左から栗原俊英(責任著者)、姜效炎(筆頭著者)、坪田一男(責任著者)

ここ数十年において、全世界で近視の有病率が飛躍的に増加しており、すでに人類の3分の1が近視だと言われています。近視の多くは軸性近視に分類され、その病態の本質は目の前後の長さ(眼軸長)が伸びることです。このような眼球の変形により、網膜剥離や黄斑病変などの失明に繋がる合併症が引き起こされる可能性があります。近年、屋外環境光に豊富に含まれるバイオレット光(360nm~400nm、可視光中の短波長領域)の近視抑制効果が明らかとなり、屋外活動の減少に起因するバイオレット光不足が近視有病率の急激な上昇の一因となっていることが推測されています。本研究はバイオレット光がマウス網膜内層の網膜神経節細胞に発現する網膜局所の概日リズムや眼内の血管発生、深部体温の調節などに関与する光受容体OPN5(ニューロプシン)で受光されることにより、脈絡膜厚を維持することで近視進行を抑制する仕組みを解明しました。この知見はバイオレット光の近視進行抑制効果の分子機序が明らかになっただけでなく、近年新たに発見された非視覚型光受容体OPN5の機能解明にも繋がり、今後近視進行抑制の標的として有用な介入方法の開発の一助になることが期待されます。

(眼科学教室 栗原俊英 80相当)

図:OPN5 を介したバイオレット光による近視進行(眼軸長伸長)抑制。 (A)屈折異常がない場合、焦点は網膜面に結像する。(B)眼軸長伸長に伴い、近視が進行し、焦点が網膜より前方で結像する。近視眼では脈絡膜が菲薄化する。(C)一部の網膜神経節細胞が発現する OPN5 がバイオレット光を受光することで、脈絡膜厚が維持され、眼軸長伸長(近視進行)が抑制される。