今月のサイエンス - 2021年03月
Gastroenterology
November 2020, DOI: 10.1053/j.gastro.2020.10.047
Kazuhiro Togasaki, Shinya Sugimoto, Yuki Ohta, Kosaku Nanki, Mami Matano, Sirirat Takahashi, Masayuki Fujii, Takanori Kanai, Toshiro Sato
胃がんの中でも特に悪性度の高いスキルス胃がんは、しばしば「印環細胞がん」と「低分化腺がん」の2つの成分から構成されますが、なぜこのような複数の種類の細胞からなる組織像を呈するのか、そのメカニズムはわかっていませんでした。本研究では、スキルス胃がん患者の細胞をオルガノイド培養技術により体外で培養し、培養液中のWntとR-spondinの有無により低分化腺がんから印環細胞がんへと形態変化すること、それが線維芽細胞からの距離に応じて異種移植組織でも再現されることを実証しました。さらに、遺伝子編集技術を用い、正常な胃細胞にスキルス胃がんに特徴的なE-カドヘリン遺伝子異常を加え、培地を調整することで印環細胞がんを再現することに成功しました。遺伝子変異と腫瘍周囲の環境に応じてどのように印環細胞がんが形成されるかが初めて明らかになり、今後特定の細胞を標的とする胃がん根治を目指した治療の新しい突破口となることが期待されます。
(坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)佐藤俊朗 76回、戸ヶ崎和博 93回)
2: Role of CC chemokine receptor 9 in the progression of murine and human non-alcoholic steatohepatitis
Journal of Hepatology.
2021; 74 (3): 511-521. doi: 10.1016/j.jhep.2020.09.033.
Rei Morikawa, Nobuhiro Nakamoto, Takeru Amiya, Po-Sung Chu, Yuzo Koda, Toshiaki Teratani, Takahiro Suzuki, Yutaka Kurebayashi, Akihisa Ueno, Nobuhito Taniki, Kentaro Miyamoto, Akihiro Yamaguchi, Shunsuke Shiba, Tadashi Katayama, Kosuke Yoshida, Yoshiaki Takada, Rino Ishihara, Hirotoshi Ebinuma, Michiie Sakamoto, Takanori Kanai
ライフスタイルの変化により非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の患者数は増加傾向にあり、一部の症例は肝硬変や肝細胞癌に至ります。NASH病態進展の詳細な機序は解明されておらず、有効な治療薬も少ないのが現状です。近年、病態への免疫機構の関与が報告されており、新たな治療標的として期待されています。本研究において、ケモカイン受容体CCR9とそのリガンドであるCCL25が肝線維化やNASHを背景とした肝発癌に直接関与していることを初めて明らかにしました。65名のNASH患者検体およびモデルマウスの解析の結果、肝臓のマクロファージ、および星細胞にCCR9が高発現し、CCR9欠損により肝線維化、および発癌が抑制されることを見出しました。さらにCCR9拮抗薬の投与により脂肪肝からNASHへの進展が抑制されることが明らかとなり、新たな治療応用の可能性を提案しました(図)。今後本研究の発展により、NASHの新たなバイオマーカーや新規治療の開発につながることが期待されます。
(内科学(消化器)中本伸宏 77回)