慶應義塾

1: Salt causes aging-associated hypertension via vascular Wnt5a under Klotho deficiency.

今月のサイエンス - 2020年09月

J Clin Invest

2020 Aug 3; 30(8):4152–4166. DOI: org/10.1172/JCI134431

Wakako Kawarazaki, Risuke Mizuno, Mitsuhiro Nishimoto, Nobuhiro Ayuzawa, Daigoro Hirohama, Kohei Ueda, Fumiko Kawakami-Mori, Shigeyoshi Oba, Takeshi Marumo, Toshiro Fujita.

筆頭著者の河原崎和歌子(左)、研究代表者の藤田敏郎(右)

高齢者は高血圧になりやすいことが分かっていましたが、その原因や機序は不明でした。本学医学部客員教授の藤田敏郎(東大名誉教授)らの研究グループは、高齢者高血圧の発症メカニズムを解明しました。研究グループは、加齢と共に、血中の抗加齢因子Klotho蛋白が減少し、そのため高食塩を摂取するとKlothoにより抑制されていた血管の収縮経路(Wnt5a-RhoA non-canonical pathway)が活性化して、血圧が上昇する一連の過程を高齢のマウスを用いて証明しました。また、それを裏付けるため、Klotho蛋白を補充して予め血中レベルを若いマウスと同程度まで回復させておくと、食塩を投与しても血圧が上昇しないことを示しました。本研究は高齢者高血圧の新たな治療法としてKlotho補充やWnt阻害薬の可能性を提案しています。また、高血圧の発症予防として減塩の重要性を説いています。

(医学部客員教授、東京大学名誉教授 藤田敏郎 51回)

表1 手術部位感染に対する有効性の比較

2: Risk of cardiovascular events and death associated with initiation of SGLT2 inhibitors compared with DPP-4 inhibitors: an analysis from the CVD-REAL 2 multinational cohort study.

The Lancet Diabetes & Endocrinology,

01 Jul 2020, 8(7):606-615, DOI: 10.1016/s2213-8587(20)30130-3

Kohsaka S, Lam CSP, Kim DJ, Cavender MA, Norhammar A, Jørgensen ME, Birkeland KI, Holl RW, Franch-Nadal J, Tangri N, Shaw JE, Ilomäki J, Karasik A, Goh SY, Chiang CE, Thuresson M, Chen H, Wittbrodt E, Bodegård J, CVD-REAL 2 Investigators and Study Group

筆頭著者・責任著者の香坂(左)、 Last Author の Kosibord 教授(米国 Mid-American Heart Insitute:右)

本論文を取り上げていただき、誠にありがとうございます。糖尿病の治療は永らく血糖値やHbA1cを下げることがゴールとされ、その「遺産効果」が長期的な心筋梗塞・脳梗塞等の心血管系合併症の予防、延いては健康寿命の延伸をもたらすと考えられてきました。しかし、2016年に公表されたSGLT2阻害薬の大規模RCT(EMPA-REG試験)の結果は世界を驚かせました。導入から非常に早い時期で(2-3年)循環器系合併症、特に心不全系のイベントを抑えるということが示されたからです。このことは歓迎すべき内容だったのですが、長年の糖尿病治療の常識には反することであり、広く「果たして本当なのか?」というところが議論を呼びました(RCTの結果が地域や患者層によっては再現できない、ということは循環器領域ではよく経験されます)。本論文ではそうした議論を受け、SGLT2開始群と、同時期に認可されたDPP4阻害薬開始群との比較を、アジア諸国を中心とした13か国の38万例規模の患者データで比較検証させていただきました。その検証にあたっては、各国データの整合性を取り、アウトカムの定義を揃え、さらにそこにState-of-Artの統計的処理を施すことが必要でしたが、結果として広範囲の患者層でRCTの結果が再現可能ということを示すことができました。ビッグデータの「使い方」に関しては世界的に注目が集まっていますが、本研究については、世界的なRQ(リサーチ クエスチョン)に対する「国際共同」での取り組みが評価されたものと思っております。

(循環器内科 香坂 俊 76回)

画像

3: Associations of cardiovascular biomarkers and plasma albumin with exceptional survival to the highest ages.

Nature Communications

2020; 11(3820). https://doi.org/10.1038/s41467-020-17636-0

Takumi Hirata, Yasumichi Arai, Shinsuke Yuasa, Yukiko Abe, Michiyo Takayama, Takashi Sasaki, Akira Kunitomi, Hiroki Inagaki, Motoyoshi Endo, Jun Morinaga, Kimio Yoshimura, Tetsuo Adachi, Yuichi Oike, Toru Takebayashi, Hideyuki Okano & Nobuyoshi Hirose

左上:平田匠、右上:新井康通、左下:岡野栄之、右下:広瀬信義

世界的な長寿化を背景に百寿者の人口は急増していますが、110歳を超えるスーパーセンチナリアン(SC)は極めて希少であり、限界寿命に迫る特別な集団と考えられます。本論文では、36名のSCを含む1,427名の長寿者(85歳以上)を10年以上にわたり追跡し、9つのバイオマーカーと余命の関連を検証しました。その結果、心不全の指標であるNT-proBNPを含む5つの血中分子(図)が長寿者の余命と関連しました。NT-proBNPは、特に105歳以降の余命と強く関連し、この分子の血中濃度が低いほど110歳以上まで到達する確率が高いことを発見しました。また、アルブミン(栄養、肝機能)は全年代を通じて余命と関連しました。NT-proBNPは加齢とともに増加し、腎機能とも相関することから、心腎循環システムの老化が遅いことがSCの生物学的な特徴であると推定しました。将来的には、高齢者心血管病の予防や新しい治療法の開発研究につながることが期待されます。

(生理学/百寿総合研究センター 岡野栄之 62回、百寿総合研究センター 新井康通 70回)

超長寿者の余命に関連する5つのバイオマーカー

その他の掲載論文

1: Correlations between tear fluid and aqueous humor cytokine levels in bullous keratopathy.

Ocul Surf.

2020 Jul 28;S1542-0124(20)30107-5. doi: 10.1016/j.jtos.2020.06.010

Daisuke Tomida, Yukari Yagi-Yaguchi, Kazunari Higa, Yoshiyuki Satake, Jun Shimazaki, Takefumi Yamaguchi