今月のサイエンス - 2020年08月
Lancet Infectious Dis.,
2020 Jn 15: S1473-3099(20)30225-5. DOI: 10.1016/S1473-3099(20)30225-5
Hideaki Obara*, Masashi Takeuchi*, Hirofumi Kawakubo, Masahiro Shinoda, Koji Okabayashi, Koki Hayashi, Yasuhito Sekimoto, Yusuke Maeda, Takayuki Kondo, Yasunori Sato, Yuko Kitagawa
手術部位感染は、手術操作が直接加わった部位にみられる感染で、最も頻度の高い術後合併症の1つであり、あらゆる手術に起こり得ます。術後の創感染、縫合不全による腹腔内膿瘍などが含まれ、術後死亡の原因となり、医療費の増大にも繋がります。手術部位感染に対する最も基本的かつ重要な対策は、手術直前に行う切開部位の外皮消毒 です。今回の600例を対象とした医師主導の前向き無作為化比較試験により、日本で開発された新規の外皮用消毒薬であるオラネキシジン消毒薬が、従来から国内で汎用されているヨウ素系消毒薬と比較し、手術部位感染率を半減させることが明らかとなりました。手術部位の外皮用消毒薬をオラネジンに変更するのみという、極めて簡便な方法で手術部位感染が最小限に抑制される可能性が示唆されました。この研究成果は消化器外科領域のみならず、あらゆる領域の手術や医療処置に応用可能で、医療現場で多くの患者さんに役立つことが期待されます。
(一般・消化器外科 尾原秀明 72回、竹内優志 91回)
2: Excess tau PET ligand retention in elderly patients with major depressive disorder.
Molecular Psychiatry,
2020-07-01 , DOI: 10.1038/s41380-020-0766-9
Sho Moriguchi, Keisuke Takahata, Hitoshi Shimada, Manabu Kubota, Soichiro Kitamura, Yasuyuki Kimura, Kenji Tagai, Ryosuke Tarumi, Hajime Tabuchi, Jeffrey H. Meyer, Masaru Mimura, Kazunori Kawamura, Ming-Rong Zhang, Shigeo Murayama, Tetsuya Suhara & Makoto Higuchi
本研究では、生体脳でタウを可視化するポジトロン断層撮影技術を用いて、老年期うつ病患者のタウおよびアミロイドβの脳内蓄積量を非侵襲的に測定し、臨床症状との関連について検討しました。その結果、一部の老年期うつ病患者においては大脳皮質におけるタウ蓄積が有意に多く、特に妄想や幻聴といった精神病症状を認める患者では脳内タウ蓄積量が顕著であることがわかりました(図)。次に本研究結果を検証するため、高齢者ブレインバンクプロジェクトの死後脳データにアクセスしたところ、うつ病と診断された症例の一部にタウの蓄積が認められました。これらの成果は、PETにより捉えた生体脳におけるタウ蓄積を指標として、老年期うつ病の客観的な診断が可能になることを示すものであり、さらに認知症の根本治療薬として開発が行われている脳内タウ蓄積を抑制する新規治療薬が老年期うつ病においても有効である可能性が期待されます。
(精神・神経科 森口翔 86回)
3: Human-specific ARHGAP11B increases size and folding of primate neocortex in the fetal marmoset
Science.
2020 Jun 18; 369(6503): 546-550, 2020. doi: 10.1126/science.abb2401.
Michael Heide, Christiane Haffner, Ayako Murayama, Yoko Kurotak , Haruka Shinohara, Hideyuki Okano, Erika Sasaki, Wieland B Huttner
私たち生理学教室の研究グループ(村山綾子特任助教ら)と、マックスプランク研究所のWieland Huttner教授、実験動物中央研究所の佐々木えりか部長の共同研究グループは、ヒトの高次脳機能を支える大脳皮質の拡大の謎の解明に取り組んでいます。この目的のため、私たちが開発した霊長類であるマーモセットの遺伝子改変技術(Sasaki et al. Nature, 2009)を活用したアプローチを行いました。本研究では、チンパンジーにも存在せず、ヒトにしか存在しない遺伝子であるARHGAP11Bを発現するトランスジェニック・マーモセットを作製し、胎生後期の脳を解析したところ、大脳新皮質が拡大・肥厚し、脳回脳溝構造が、本来には存在しない領域に形成されました。これは、進化の過程で新しく出現する神経前駆細胞の一種であるbRG細胞の増加に起因していることが分かりました。また、霊長類の中でもヒトに多く存在する、大脳皮質間結合に関与する大脳皮質の表層ニューロンの数が選択的に増大していました。ARHGAP11Bによってもたらされた大脳新皮質の拡大は、進化の過程で起きたヒトの脳の構造的な変化に関連していると考えられます。
(生理学 岡野栄之 62回)
その他の掲載論文
1: Visualizing and Modulating Mitophagy for Therapeutic Studies of Neurodegeneration.
Cell.
Katayama H, Hama H, Nagasawa K, Kurokawa H, Sugiyama M, Ando R, Funata M, Yoshida N, Homma M, Nishimura T, Takahashi M, Ishida Y, Hioki H, Tsujihata Y, Miyawaki A.
2: Development and Validation of a Deep Neural Network for Accurate Evaluation of Endoscopic Images From Patients With Ulcerative Colitis.
Gastroenterology.
Takenaka K, Ohtsuka K, Fujii T, Negi M, Suzuki K, Shimizu H, Oshima S, Akiyama S, Motobayashi M, Nagahori M, Saito E, Matsuoka K, Watanabe M.