今月のサイエンス - 2020年11月
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine.
2020 October 14; doi: 10.1126/science.abb4853.
Takahiro Hiraide, Toshiaki Teratani, Shizuka Uemura, Yusuke Yoshimatsu, Makoto Naganuma, Yoshiki Shinya, Mizuki Momoi, Eiji Kobayashi, Yoji Hakamata, Keiichi Fukuda, Takanori Kana, and Masaharu Kataoka
漢方薬である青黛は、潰瘍性大腸炎での炎症を抑制する作用があるが、青黛を過剰に摂取した潰瘍性大腸炎患者において、肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension: PAH)を副作用として合併した症例が報告された。本論文では、循環器内科と消化器内科の研究チームが連携し、青黛摂取ラットモデルにおいてPAHを示唆する右室肥大や肺血管形態異常等の臨床的再現性を確認した。更に、青黛には芳香族炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon Receptor: AhR)のリガンドが含まれているため、著者らはPAHの発症にAhRシグナルが関連している可能性に着目した。青黛を投与しPAHを発症したラットではAhRシグナルが亢進しており、AhRアンタゴニストを追加投与することでPAHが軽症になったことを確認した。本研究は、臨床で認めた副作用に基づくリバーストランスレーショナル研究として、副作用のメカニズムを解明したのみでなく、AhRシグナルを介する肺動脈性肺高血圧症の発症分子機序を同定し、AhRリガンドを用いた新規PAHモデル動物の作成法を提唱したという点で、非常に価値の高い研究である。
(内科学教室循環器内科 福田恵一 62回)
2: The liver–brain–gut neural arc maintains the Treg cell niche in the gut.
Nature.
2020 Sep;585(7826):591-596. doi: 10.1038/s41586-020-2425-3
Toshiaki Teratani, Yohei Mikami, Nobuhiro Nakamoto, Takahiro Suzuki, Yosuke Harada, Koji Okabayashi, Yuya Hagihara, Nobuhito Taniki, Keita Kohno, Shinsuke Shibata, Kentaro Miyamoto, Harumichi Ishigame, Po-Sung Chu, Tomohisa Sujino, Wataru Suda, Masahira Hattori, Minoru Matsui, Takaharu Okada, Hideyuki Okano, Masayuki Inoue, Toshihiko Yada, Yuko Kitagawa, Akihiko Yoshimura, Mamoru Tanida, Makoto Tsuda, Yusaku Iwasaki, Takanori Kanai
腸管は、制御性T細胞(Treg細胞)をはじめ、腸内細菌や食事などの外界からの刺激に対する宿主の過剰な免疫応答を抑制する機構が存在し、この腸管免疫制御機構の破綻により、炎症性腸疾患(IBD)が発症すると考えられます。これまで、IBDにうつ病や過敏性腸症候群などが合併することから、IBDの発症に自律神経系の関与は臨床的に想定されるものの、詳細なメカニズムは完全には理解されていませんでした。本研究により、腸管Treg細胞の分化・維持に極めて重要とされる抗原提示細胞(APC)が腸管粘膜固有層の神経の近傍に存在し、神経伝達物質受容体であるムスカリン型アセチルコリン受容体を介して神経刺激を受容し、腸管Treg細胞の分化・誘導することを明らかにしました。さらに、マウスの肝臓から脳幹への左迷走神経を遮断すると、腸管Treg量が著しく減少し、その結果、マウスモデルにおける腸炎の病態が増悪することから、「腸→肝臓→脳→腸相関による迷走神経反射」が腸管Treg量を調整し、恒常性を維持していることが示されました。これらの知見が、今後、IBD、がん、消化管感染症などのさまざまな病気の病態機序の解明や新規治療法の開発に繋がるものとして期待されます。
(消化器内科 三上洋平 85回)
その他の掲載論文
1: Spatial inference without a cognitive map: the role of higher-order path integration.
Biological Reviews.
2020 16 September; doi: 10.1111/brv.12645
Bouchekioua Y, Blaisdell AP, Kosaki Y, Tsutsui-Kimura I, Craddock P, Mimura M, Watanabe S.
2: Metabolic rivalry: circadian homeostasis and tumorigenesis.
Nat Rev Cancer.
Kenichiro Kinouchi & Paolo Sassone-Corsi