今月のサイエンス - 2019年06月
Nature Neuroscience
Keitaro Yoshida, Michael R. Drew, Masaru Mimura, Kenji F. Tanaka
不安を感じる状況で腹側海馬の活動が上がる。その不安のセンサーとも言える脳領域:腹側海馬が報酬系の中心領域である腹側線条体へ密に投射する。どんな意味があるのだろうか。本研究はそんな疑問から始まった。意欲行動は報酬を得ることを原動力とするので、意欲行動中の腹側海馬の活動を計測することから着手した。蛍光カルシウムプローブと光ファイバー計測系の組み合わせにより、微弱な神経活動信号を記録するシステムを構築し、意欲行動の持続中に腹側海馬の活動が低下することを発見した。オプトジェネティクスを用いた介入実験によって、腹側海馬の活動低下が行動の持続に必須であることを発見した。更に、腹側海馬の活動低下はセロトニン神経活性化によってもたらされることを発見した。不安になると手がつかない、粘り強く行動するために腹側海馬の活動を下げておく必要がある、というのが私達の解釈になる。物事をやりきることと情動制御との関わりを示した初めての仕事になる。
(精神・神経科学 田中謙二 76回)
2: Activity-Dependent Secretion of Synaptic Organizer Cbln1 from Lysosomes in Granule Cell Axons.
Neuron,
2019 Mar 21;10(1):1299. doi: 10.1038/s41467-019-09143-8.
Keiji Ibata, Maya Kono, Sakae Narumi, Junko Motohashi, Wataru Kakegawa, Kazuhisa Kohda, Michisuke Yuzaki
私たちの脳は、約1000億個の神経細胞をつなぐシナプスによって構成されます。遺伝情報に基づいて形成されたシナプスは、神経活動によって生涯にわたり再編されますが、この過程を担う分子機構はよくわかっていません。私たちは以前に、自然免疫系の「補体」と同じファミリーに属するCbln1が小脳でのシナプス形成に必須であることを報告しました。今回、Cbln1が小脳顆粒細胞の軸索中のライソソームに存在し、神経活動に応じてライソソーム酵素とともに分泌されることを発見しました。ライソソーム酵素による細胞外環境の破壊とCbln1によるシナプス形成が協調して働くという「スクラップ&ビルド機構」は新しい概念です。神経活動に応じたシナプス再編過程の解明は、シナプスに病変が存在するうつ病・統合失調症・自閉スペクトラム症などのさまざまなシナプス病の病態を理解し、新しい治療方法を開発するために重要と考えられます。
(生理学 柚﨑通介 64相当)
3: Cardiac Reprogramming Factors Synergistically Activate Genome-wide Cardiogenic Stage-Specific Enhancers.
Cell Stem Cell.
2019 Mar 21;10(1):1299. doi: 10.1038/s41467-019-09143-8.
Hisayuki Hashimoto, Zhaoning Wang, Glynnis A. Garry, Venkat S. Malladi, Giovanni A. Botten, Wenduo Ye, Huanyu Zhou, Marco Osterwalder, Diane E. Dickel, Axel Visel, Ning Liu, Rhonda Bassel-Duby, Eric N. Olson
心臓発生に重要な複数の因子Gata4, Mef2c, Tbx5やHand2, Akt1を強制発現させることにより線維芽細胞を、多能性幹細胞を経ないで心筋様細胞(iCM)に直接リプログラミングできることが報告されてきた。しかしこれらリプログラミング因子の発現は心臓特異的ではないため、なぜこれらの因子を組み合わせる事によりiCMを誘導できるかは不明であった。そのため申請者はChIP-Seq法を用いて、マウス線維芽細胞のゲノム全体におけるリプログラミング因子のDNA結合部位とヒストン修飾H3K27acに基づいたエンハンサー活性を解析した。その結果、興味深いことにリプログラミングと心臓発生という二つの全く異なる生物学的プロセスには遺伝子の転写制御機構(エピゲノムプロファイル)において多くの共通点がある事を見出した。この発見に基づき、今後は逆にリプログラミングを利用して心臓発生を司る新たな転写制御機構を解明する研究への発展が期待される。
(循環器内科 橋本寿之 85回)
その他の掲載論文
1: Cancer Immunoediting by Innate Lymphoid Cells
TRENDS IN IMMUNOLOGY,
2019 May;40(5):415-430. doi: 10.1016/j.it.2019.03.004. Epub 2019 Apr 14.
Wagner M, Koyasu S