今月のサイエンス - 2019年03月
Nature.
2019 Jan;565(7738):246-250. doi: 10.1038/s41586-018-0824-5
Ito M, Komai K, Mise-Omata S, Iizuka-Koga M, Noguchi Y, Kondo T, Sakai R, Matsuo K, Nakayama T, Yoshie O, Nakatsukasa H, Chikuma S, Shichita T, Yoshimura A.
脳梗塞は主な死因、寝たきりの原因になっているが、現在治療法は発症初期のみに限られており、発症後時間が経過した慢性期における有効な新たな治療薬の開発が望まれている。当研究グループでは、これまで脳梗塞発症後数日間の急性期においてマクロファージを中心とした炎症プロセスを明らかにしてきた。一方、発症1週間目以降になると炎症は収束し病態に免疫は関与しないと考えられてきた。しかし当研究グループでは脳梗塞モデルマウスを用いて、脳梗塞発症後の慢性期には制御性T細胞(Treg)が集積し脳内の神経修復過程を制御していることを発見した。Tregは通常は炎症を抑制し免疫応答を制御する重要な細胞であるが、最近組織内にも存在し組織の恒常性維持やリモデリングに寄与することが知られるようになってきている。脳Tregはアンフィレグリンという修復性因子を放出することで、神経細胞を傷害する活性化アストロサイトを抑制し、神経症状を緩和させることがわかった。さらに、この脳Tregは神経系に特徴的なセロトニン受容体を発現しており、セロトニンによって増殖・活性化することも明らかとなった。脳内のセロトニンを増やす抗うつ薬の一種を投与したところ、脳Tregが増加し神経症状が改善することがわかった。脳梗塞患者においても脳Tregを増やす薬剤や処置が脳梗塞の慢性期(リハビリ期)の治療に役立つことが期待される。
(微生物学・免疫学教室 吉村昭彦 60相当、伊藤美菜子)
2: Flow-enhanced vascularization and maturation of kidney organoids in vitro.
Nature Methods,
volume 16, pages255–262 (2019)
Kimberly A. Homan, Navin Gupta, Katharina T. Kroll, David B. Kolesky, Mark Skylar-Scott, Tomoya Miyoshi, Donald Mau, M. Todd Valerius, Thomas Ferrante, Joseph V. Bonventre, Jennifer A. Lewis & Ryuji Morizane
ハーバード大学医学部森實研究室では、これまでヒト多能性幹細胞を用いて腎臓細胞・組織への分化誘導法を精力的に研究してきた。2015年にはNat.Biotechnol.誌に腎前駆細胞、腎オルガノイドの作成とその応用モデルを発表し、これまで困難とされてきた三次元ネフロン構造を各セグメントが生体内と同じ順に組織化されている状態で高効率に誘導できることを示した。しかし、尿を実際に生成できる腎臓組織を作るためには、血管構造を同時に誘導する必要があり、依然として臨床応用に向けては大きな壁となっていた。今回、我々の研究室では、ハーバード大学Wyss Instituteとの共同研究で、3Dプリンタを用いて作成した細胞培養チップを使用し、培養皿上で生体内の環境を模倣することで、血管構造を伴う、より成熟した腎オルガノイドを生成することに成功し尿を作成しうる腎臓組織の作成方法を世界で初めて示した。この研究成果はNature Methods誌に発表され、高い評価を受けている。森實研究室では、この血管構造を有する腎オルガノイドを用いて、腎疾患研究から創薬への応用、ひいては再生医療実現に向け今後も積極的にアプローチを続ける。
(Depatment of Medicine, Harvard Medical School 森實隆司 84回)
その他の掲載論文
1: CAPZA1 determines the risk of gastric carcinogenesis by inhibiting Helicobacter pylori CagA-degraded autophagy
AUTOPHAGY,
15 (2):242-258;10.1080/15548627.2018.1515530 FEB 1 2019
Tsugawa H, Mori H, Matsuzaki J, Sato A, Saito Y, Imoto M, Suematsu M, Suzuki H