慶應義塾

1: CRMP2-binding compound, edonerpic maleate, accelerates motor function recovery from brain damage.

今月のサイエンス - 2018年05月

Science.

2018 Apr 6;360(6384):50-57. doi: 10.1126/science.aao2300.

Abe H, Jitsuki S, Nakajima W, Murata Y, Jitsuki-Takahashi A, Katsuno Y, Tada H, Sano A, Suyama K, Mochizuki N, Komori T, Masuyama H, Okuda T, Goshima Y, Higo N, Takahashi T.

著者(髙橋)

脳卒中はしばしば重篤な麻痺を引き起こし、患者さんの生活の質を大きく低下させます。脳卒中後の回復期における運動機能の回復を目的とした治療は、地道なトレーニングによるリハビリテーションが主体となっていますが、その効果は限定的であり、より効果的な治療法が望まれています。この運動機能回復のメカニズムには、リハビリテーション等の外部からの刺激に応答した脳の変化(脳の可塑性)が関与していることが知られています。 生体における記憶学習といった可塑的変化に伴ってシナプス応答の増強が見られるとき、神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のひとつであるAMPA受容体がシナプスの膜上で増加することが明らかにされています。本研究では、富士フイルムグループの富山化学工業株式会社との、産業技術総合研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究により、脳卒中後のリハビリテーション効果を大きく促進する新薬の候補化合物(edonerpic maleate)を特定しました。我々は本化合物がAMPA受容体シナプス移行を促進し、脳損傷後の運動機能回復をトレーニング依存的に劇的に促進することを、げっ歯類、カニクイザルを用いて明らかにしました(図)。現在臨床治験の準備を進めており、脳卒中医療の革新につながるものと期待されます。

(横浜市立大学生理学教授 高橋琢哉教授 74回)

図:カニクイザル脳出血モデルにおいてedonerpic maleateはリハビリテーション依存的に指の精密な運動機能を回復させる

2: NAD(+) Intermediates: The Biology and Therapeutic Potential of NMN and NR

CELL METABOLISM,

27 (3):513-528; 10.1016/j.cmet.2017.11.002 MAR 6 2018

Yoshino Jun, Baur Joseph A., Imai Shin-ichiro

吉野(左)と今井(右)

110年以上の歴史を誇るNAD+ 生物学研究は、現在、 二つのNAD+合成中間体、nicotinamide riboside (NR)とnicotinamide mononucleotide (NMN)の作用を中心的命題として研究が展開されていると言っても過言ではありません。最近の研究成果により、ヒトを含めた広範な種において、老化とともに全身でNAD+量が低下し、それが老化および老化関連疾患の病態生理に深く関与することがコンセンサスとなっています。そして、驚くべきことに、実験動物モデルを用いた系において、NR、NMN が、糖尿病、アルツハイマー病などの種々の老化関連疾患に対して顕著な治療効果を発揮することが続々と報告されています(図1)。本総説では、NR、NMNの 多種多彩な効用を総括するとともに、両者の生体内の薬物動態の差異、さらに全身性のNAD+合成制御機構の生理学的意義を考察しています。現在 、これらNAD+合成中間体の臨床応用への動きが世界的な規模で加速しており、本邦においても、医学部内科学教室の伊藤裕教授を中心として、ヒトにおけるNMN の安全性、効能が検討されております。本総説が、これらの臨床研究を計画・遂行する上で一助となり、同時に、NAD+生物学研究の次なるブレークスルーをもたらすことを切に願っています。

(ワシントン大学 吉野 純 79回、今井眞一郎 68回)

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