今月のサイエンス - 2018年11月
Neuron
(2018) 99: 985-998, doi: 10.1016/j.neuron.2018.07.034.
Kakegawa W, Katoh A, Narumi S, Miura E, Motohashi J, Takahashi A, Kohda K, Fukazawa Y, Yuzaki M*, Matsuda S* (*:共同責任著者)
近年、記憶・学習の実体はシナプス伝達を担うAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)数の増減であることが示唆されています。例えば、体をつかって覚える運動記憶には、小脳シナプスにおけるAMPA受容体の神経活動依存的な細胞内取り込み(エンドサイトーシス)とそれに伴ったシナプス伝達効率の長期的低下(長期抑圧, LTD)が重要であると考えられてきました。しかし最近になって、LTDに関わる分子を欠く遺伝子改変マウスが正常に運動学習できる事例が報告され、個体レベルの記憶・学習とシナプスレベルのLTDとの間に因果関係があるのかを再考する必要性が生じつつあります。この根源的な疑問に答えるため、今回私たちは、光でAMPA受容体エンドサイトーシスを可逆的に抑制しうる新しい光遺伝学ツール(PhotonSABER)を開発しました。興味深いことに、このPhotonSABERを小脳に発現させたマウスでは、光非照射下ではLTDおよび運動記憶も正常である一方、光照射下では両者ともに著しく障害されました。このことから、小脳シナプスでのLTDが運動記憶・学習に重要な事象であることを直接的に証明することができました。本成果は、記憶・学習の分子基盤を理解する上で有益な情報を提供しうるものと期待されます。
(生理学教室准教授 掛川 渉 76相当)
2: Tbx6 Induces Nascent Mesoderm from Pluripotent Stem Cells and Temporally Controls Cardiac versus Somite Lineage Diversification.
Cell Stem Cell.
2018 Sep 6;23(3):382-395.e5. doi: 10.1016/j.stem.2018.07.001. Epub 2018 Aug 9.
Sadahiro T, Isomi M, Muraoka N, Kojima H, Haginiwa S, Kurotsu S, Tamura F, Tani H, Tohyama S, Fujita J, Miyoshi H, Kawamura Y, Goshima N, Iwasaki YW, Murano K, Saito K, Oda M, Andersen P, Kwon C, Uosaki H, Nishizono H, Fukuda K, Ieda M
近年、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)から分化させた心筋細胞による再生医療が注目されています。多能性幹細胞から心筋細胞を誘導するには、複数の液性因子を経時的に使用し、心臓の幹細胞である心臓中胚葉細胞を誘導して、心筋に分化させる手法が一般的です。しかし、この手法には1)誘導工程が煩雑、2)誘導効率が不安定、3)液性因子が高価であるという課題があります。また分化誘導の分子機構や心臓中胚葉誘導因子も同定されておりません。我々は、分子機構を解明し誘導因子を同定することで、遺伝子発現のみで多能性幹細胞から選択的に心臓中胚葉細胞の誘導が可能になると考えました。ダイレクトリプログラミングを応用したスクリーニングにより線維芽細胞から心臓中胚葉細胞を直接誘導する遺伝子Tbx6を発見し、Tbx6をマウスES細胞およびヒトiPS細胞に導入することで、液性因子を使用せずに心臓中胚葉細胞を誘導することに成功しました。さらにTbx6の発現期間を調整することで、同じく中胚葉から分化する骨格筋や軟骨細胞も誘導が可能であることを見出しました。以上より我々はTbx6が多能性幹細胞からの心臓や中胚葉分化を制御する重要な因子であることを発見し、さらにその分子機序を明らかにしました。本研究はCell Stem Cellの表紙に掲載されました(図2)。
(筑波大学循環器内科授 家田真樹 74回、筑波大学循環器内科病院講師 貞廣威太郎 86回)
その他の掲載論文
1: Innate lymphoid cells in organ fibrosis.
Cytokine Growth Factor Rev.
2018 Aug;42:27-36. doi: 10.1016/j.cytogfr.2018.07.002.
Mikami Y, Takada Y, Hagihara Y, Kanai T