慶應義塾

1: Modeling sporadic ALS in iPSC-derived motor neurons identifies a potential therapeutic agent

今月のサイエンス - 2018年10月

Nature Medicine

20 August 2018, doi: 10.1038/s41591-018-0140-5.

Koki Fujimori, Mitsuru Ishikawa, Asako Otomo, Naoki Atsuta, Ryoichi Nakamura, Tetsuya Akiyama, Shinji Hadano, Masashi Aoki, Hideyuki Saya, Gen Sobue & Hideyuki Okano

筆頭著者(藤森)と責任著者(岡野)

藤森康希くんを始めとする私たちの研究グループは、iPS細胞技術を用いたALSの病態解明と創薬研究を行い、RNA結合蛋白質をコードするFUS遺伝子あるいはTDP43遺伝子変異を伴うnon SOD1型の家族性ALSの患者由来iPS細胞から誘導した運動ニューロンを対象に、1232種の既存薬ライブラリーを用い、いわゆるDrug repositioningにより、ALS関連の表現型を抑制する化合物をスクリーニングし、9つの薬剤を見出しました。ロピニロール塩酸塩(ROPI)は、この中でも9化合物の中で最も治療効果が大きく、D2受容体アゴニストとしてパーキンソン病の治療薬として世界中で広く使用され、本邦でも保険適用となっている薬剤です。一方ROPIによる抗ALS活性は、その一部だけがD2Rを介するものであり、ROS産生の抑制とミトコンドリア活性を高めることによることが示されました。また、孤発性のALS患者さん32症例から誘導したiPS細胞由来運動ニューロンの解析を行い、ROPIはnon SOD1型の家族性ALSのみならず、孤発性ALS症例の約7割にin vitroで運動ニューロンの変性抑制効果がありました。運動ニューロンにおいて、FUSあるいはTDP-43蓄積表現型を呈する群が、ROPIのresponderであり、いずれも蓄積しない群がNon responder群であることが予想されましたが、治療効果をより正確に予測・判定するためには、より多くの確かなバイオマーカーを見出していくことが必要であると考えております。

(生理学教室 岡野栄之 62回)

画像

2: Divergent Routes toward Wnt and R-spondin Niche Independency during Human Gastric Carcinogenesis

CELL

174 (4):856-+; 10.1016/j.cell.2018.07.027 AUG 9 2018

Nanki Kosaku, Toshimitsu Kohta, Takano Ai, Fujii Masayuki,Shimokawa Mariko, Ohta Yuki, Matano Mami, Seino Takashi, NishikoriShingo, Ishikawa Keiko, Kawasaki Kenta, Togasaki Kazuhiro, TakahashiSirirat, Sukawa Yasutaka, Ishida Hiroki, Sugimoto Shinya, KawakuboHirofumi, Kim Jihoon, Kitagawa Yuko, Sekine Shigeki, Koo Bon-Kyoung,Kanai Takanori, Sato Toshiro

左から利光孝太、高野愛、南木康作、責任著者の佐藤俊朗

シークエンス技術の進歩により、がんのゲノム異常の全貌が明らかになりつつあります。しかし、遺伝子変異が如何にしてがんの悪性度に繋がっていくかは不明であり、患者さんの腫瘍の生物学的な性質を調べる技術が待ち望まれてきました。我々の研究室は、一般・消化器外科、腫瘍センター、内視鏡センター、予防医療センターなどの消化器クラスターの先生方の多大な協力のもと、35人の患者さんから胃がんをオルガノイドとして培養することに成功しました。こうした研究によって、新しい胃がんの増殖制御機構を突き止めました。正常な胃の上皮はR-spondinと呼ばれる増殖因子が必要ですが、約4割の胃がん細胞はR-spondinがなくても増殖できることがわかりました。興味深いことに、こうしたR-spondin非依存性の胃がんはE-cadherinとp53の2重変異を有しており、この2重変異を正常の胃上皮に導入することで、R-spondin非依存性増殖を再現できることを実証しました。R-spondin非依存性の胃がんはスキルス胃癌に多く認められ、Wntと呼ばれる増殖因子に高い依存性を示すことから、今後の新しい治療方法の開発が期待されます。

(内科学(消化器)佐藤俊朗 76回、南木康作 86回)

画像