慶應義塾

1: KRAS変異大腸癌における 潜在的治療標的としてのリボソーム生合成/ 2: 関節リウマチ治療目標達成後の薬剤減量に新たな知見 —TNF阻害薬間隔延長とMTX減量のランダム化比較試験(SORAIRO試験)

今月のサイエンス - 2026年04月

1: KRAS変異大腸癌における 潜在的治療標的としてのリボソーム生合成

Tanaka Y, Sakahara M, Yamanaka H, Natsume Y, Kusama D, Kumegawa K, Yoshikawa H, Abe Y, Okabayashi K, Matui S, Kitagawa Y, Koshikawa N, Osumi H, Shinozaki E, Nagayama S, Adachi J, Maruyama R, Yao R.

左から八尾良司(責任著者)、野川優衣(筆頭著者)

KRASシグナルを標的とした分子標的治療は患者の予後を大きく改善してきましたが、大腸癌においては十分な治療効果を達成するには至っていません。多剤併用療法による臨床研究でも治療効果の改善は認めたものの、一定数有効性を認めない症例があり、二次元培養細胞では観察できないメカニズムにより化学療法抵抗性を獲得している可能性があると考えました。そこで我々は細胞の不均一性の変化を確認することのできる大腸癌患者由来のオルガノイドを用いて化学療法抵抗性の獲得機序を調べました。すると、KRAS変異を有する大腸癌細胞の一部が、KRASシグナル阻害によりリボソーム生合成が亢進した細胞状態へと移行することが明らかとなり、さらにこれらの細胞はRNAポリメラーゼIの阻害に対して感受性を示しました。この結果より、KRAS阻害によって誘導されるリボソーム生合成の亢進が、この細胞状態の維持に不可欠であり、新たな治療標的となり得ると考えました。本研究は、KRAS阻害に対する薬剤耐性の新規メカニズムを明らかにし、新たな治療戦略の開発に寄与することが期待されます。                                                                                            

(一般・消化器外科 野川(旧姓:田中)優衣)

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2: 関節リウマチ治療目標達成後の薬剤減量に新たな知見 —TNF阻害薬間隔延長とMTX減量のランダム化比較試験(SORAIRO試験)

Annals of the Rheumatic Diseases.   

2026 Apr.6;85(4):609-619. doi: 10.1016/j.ard.2026.02.004.

Yuki Imai, Michihito Kono, Tomonori Ishii, Toshihisa Kojima, Shintaro Hirata, Yoshiya Tanaka, Eiichi Tanaka, Koichiro Ohmura, Shunsuke Okamoto, Rumiko Matsumoto, Yuri Sato, Takashi Yamamura, Tsutomu Takeuchi, Yuko Kaneko

左から今井(筆頭著者)、金子教授(責任著者)

関節リウマチ診療において、寛解・低疾患活動性達成後の薬剤調整は、感染症や有害事象リスク、医療コスト、服薬負担の観点から重要なテーマです。本研究は、TNF阻害薬であるオゾラリズマブとアンカードラッグであるメトトレキサートの併用で病勢が安定した58施設149名の患者を治療継続群、オゾラリズマブ投与間隔延長群、メトトレキサート減量群にランダム化し、疾患活動性の推移を直接比較しました。主要評価項目である48週時の低疾患活動性維持率では、薬剤減量群はいずれも治療継続群に対する非劣性を満たしませんでした。しかしながら、ベースラインでの寛解症例に限定すると、寛解維持率は群間でほぼ同等であり、寛解を達成した患者では薬剤の減量が現実的な選択肢となる可能性が示されました。再燃例の多くは元の治療強度へ戻すことで再び病勢コントロールが得られ、身体機能やX線上の骨破壊進行にも大きな差はみられませんでした。これらの結果は、関節リウマチ患者さん全てに薬剤減量が適するわけではないものの、寛解に至っている患者さんでは薬剤減量が検討できる可能性を示し、治療目標達成後の薬剤最適化戦略に重要な示唆を与えるものです。

(リウマチ膠原病内科 今井悠気、金子祐子)

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