今月のサイエンス - 2025年06月
1:代謝機能を保持した肝細胞オルガノイドの効率的培養法の開発
Igarashi R, Oda M, Okada R, Yano T, Takahashi S, Pastuhov S, Matano M, Masuda N, Togasaki K, Ohta Y, Sato S, Hishiki T, Suematsu M, Itoh M, Fujii M, Sato T.
肝臓は高い再生能を有しますが、成人肝細胞の体外増殖は限定的でした。また増殖過程では胆管化生が生じ、数日で肝細胞の形質を消失するため、試験管内での機能の再現は困難でした。今回我々は、オンコスタチンMによるSTAT3の活性化が成人肝細胞の百万倍以上の増殖を誘導し、さらに胆管化生を抑制し、肝細胞のidentityを維持した状態で増殖可能であることを見出しました。「肝細胞オルガノイド(HHO)」は、ホルモン投与および絶食処理によって肝臓のzonationを含む機能的な細胞状態を再現できます。薬剤代謝や蛋白合成、糖新生、尿素産生、胆汁酸分泌などの肝細胞の多様な機能を試験管内での評価する方法を確立し、生体内に匹敵する機能を3ヶ月以上に渡り維持することを実証しました。分化型HHOは構造としても生体内に近似した毛細胆管を形成します。乳幼児肝細胞由来のHHOは肝障害モデルマウスに生着・増殖しました。試験管内疾患モデルとして、脂肪性肝疾患の治療薬の効果判定やゲノム編集によるOTC欠損症や G6PC欠損症の病態を再現できました。多彩な機能を有したHHOは創薬や疾患研究などの基礎研究のみならず、薬剤代謝毒性試験や再生医療への臨床応用が期待されます。
(医化学教室 佐藤俊朗、五十嵐亮)
2:尿細管DNA損傷から始まる腎・免疫・代謝クロストークの探求 -慢性腎臓病と老化の新たな接点を明らかに-
Nishimura ES, Hishikawa A, Nakamichi R, Akashio R, Chikuma S, Hashiguchi A, Yoshimoto N, Hama EY, Maruki T, Itoh W, Yamaguchi S, Yoshino J, Itoh H, Hayashi K.
慢性腎臓病患者数は人口の高齢化を背景に世界的に増加傾向にあり、心血管疾患のみならず全死亡リスクの上昇をもたらすことで問題となっています。本研究では、腎障害進展の共通経路に関与する近位尿細管上皮細胞障害に注目しました。私達のグループは以前に、近位尿細管上皮細胞における二本鎖DNA損傷の程度は腎予後と関連することを報告しましたが、本研究では、近位尿細管上皮細胞のDNA損傷が、DNAメチル化変化を介した炎症性単球・マクロファージの活性化を介して、体重減少、脂肪重量の減少、肝臓や心臓への異所性脂肪沈着、耐糖能異常など、代謝老化に類似した全身の代謝変容を引き起こすことを示しました。本研究の結果は、昨今注目されている心腎代謝連関の病態理解に新しい側面を提示し、腎近位尿細管上皮細胞DNA損傷を評価することにより、全身代謝老化の進行を見積もり、心血管合併症をはじめとした他臓器障害の予測につながる可能性の提示とともに、末梢血DNAメチル化をターゲットとした腎臓病進行および合併症発症に対する新たな予防・治療戦略の開発に資する可能性を期待しています。
(腎臓内分泌代謝内科 林香)
その他の掲載論文
1: The trajectory of sedative adverse events caused by antipsychotics: a meta-analysis of individual participant data from randomised, placebo-controlled, clinical trials in acute phase schizophrenia.
Lancet Psychiatry.
Nomura N, Siafis S, Schneider-Thoma J, Brandt L, Park J, Efthimiou O, Priller J, Davis JM, Takeuchi H, Leucht S.
2: Macrotrabecular hepatocellular carcinoma: Unique immunovascular characteristics.
Hepatology.
Kurebayashi Y, Sakamoto M.