今月のサイエンス - 2017年10月
JOURNAL OF CELL BIOLOGY
Renault-Mihara Francois, Mukaino Masahiko, Shinozaki Munehisa, Kumamaru Hiromi, Kawase Satoshi, Baudoux Matthieu, Ishibashi Toshiki, Kawabata Soya, Nishiyama Yuichiro, Sugai Keiko, Yasutake Kaori, Okada Seiji, Nakamura Masaya, Okano Hideyuki
中枢神経系の障害が起こると、周辺領域の反応性アストロサイトがグリア瘢痕を形成します。このため、反応性アストロサイトはこれまで専ら悪玉と考えられてきましたが、脊髄損傷亜急性期には、組織のダメージや炎症が限局させる事で、残された脊髄機能を温存するという善玉の役割を果たします。我々はこれまでに反応性アストロサイトにおけるSTAT3シグナルが脊髄損傷後の適切なグリア瘢痕形成に必要であることを見出していました(Okada et al., Nat Med, 2006)が、その分子メカニズムは不明でした。今回我々はSTAT3がRhoA低分子型G蛋白質を介して反応性アストロサイトを制御していることをin vitroで明らかにしました。具体的には、アクトミオシン張力、細胞外マトリクスとの接着再編成、そして細胞遊走が制御されていることが判りました。またSTAT3/RhoA経路が、生体内でグリア瘢痕形成に重要な働きをしていることも見出し、STAT3欠失で生じる反応性アストロサイトの動態やグリア瘢痕形成の異常が、PTENの発現を抑制することで正常化することを見出しました。本研究で、新規に見つけたSTAT3下流の分子メカニズムが、正常のアストロサイトの重要なはたらきである、グルタミン酸クリアランスやカリウムイオンの恒常性維持、シナプス伝達物質や可塑性の調整に関与しているかを今後明らかにしたいと思っています。
(生理学教室 岡野栄之 62回)
2: The C1q complement family of synaptic organizers: not just complementary
私たちの脳では、無数の神経細胞がシナプスを介して結合して神経ネットワークを形成しています。近年、アルツハイマー病や統合失調症、自閉症スペクトラム症などの精神・神経疾患や発達障害の多くはシナプス障害に起因する「シナプス病」であると考えられつつあります。したがってシナプスがどのように形成・維持され、あるいは病的過程でどのように失われるのかを解明することは非常に重要な課題です。近年、私たちのグループは世界に先駆けて新しいシナプス形成分子群C1qファミリーを明らかにしました(Nature Neurosci, ‘05; Neuron, ’15; Science ’10, Science ‘16)。C1qファミリーは自然免疫系の補体C1qに似た一連の分子群で、CblnやC1qLなどがさまざまな脳部位でシナプス形成を制御します。アルツハイマー病や統合失調症では補体C1qそのものがシナプス除去過程に関与していることも最近報告されました。本総説ではC1qファミリー分子によるシナプス制御機構についてこれまでの所見をまとめて考察を加えました。C1q ファミリー分子の制御によって新しい精神・神経疾患の治療法に繋がることが期待されます。
(生理学教室 柚﨑通介 64相当)