慶應義塾

世界を認識する心の仕組みとそれに由来する人間の誤り

執筆者プロフィール

  • 田谷 修一郎

    法学部 法学部 準教授(心理学)

    田谷 修一郎

    法学部 法学部 準教授(心理学)

私の専門は心理学です。特に人が世界を認識する仕組みと、そこに由来する人間の誤りについて興味を持っています。  

感覚器官の性質や行動範囲の限界等のため、私達の得ることができる世界の情報はとても狭く限られています。それに対し私達は欠けた情報を補って世界を認識する仕組みを備えています。例えば世界は高さと幅と奥行きからなる三次元空間ですが、目に映る世界は奥行きの欠けた二次元像です。私達はこの欠けた次元を補い、世界を三次元空間として認識することができます。しかしそうして次元をひとつ繰り上げて知覚され意識に上る物の形や大きさは、元の二次元像とはズレたものとなることが珍しくありません。このことは様々な錯視(目の錯覚)の原因のひとつと考えられています。  

欠けた情報を補う心の働きが世界の誤った認識をもたらす例は錯視に限りません。例えば、私達は自分のよく目にするものほどたくさんあると単純に思い込む強いクセを持ちます。ためしに、日本国内のコンビニエンスストアと歯科医院、美容室を、数の多い順に並べてみてください。授業でこの質問をすると、ほとんどの学生はコンビニを先頭に並べるのですが、統計を見てみると、美容室が圧倒的に多く、次いで歯科医院、最も少ないのはコンビニです。この話をすると皆とても驚きますが、そもそも店舗数の統計情報を持っている人はまずいないので、正しく答えられないのは当たり前ともいえます。むしろ興味深いのは、なぜか皆店舗数の認識にそれなりの自信を持っている(だからこそ、それが誤りであることに驚く)ということです。このことは、いかに私達が限られた情報から「世界とはおおよそこのようなものだ」という強い、そしてときに誤った信念を形作るかを示しています。多様な情報に容易にアクセス可能となった結果その取捨選択の必要に迫られる昨今、私達が世界を認識する仕組みとその誤りを知ることの重要性は高まっていると考えます。