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#23

『やらないで失敗するより、やって失敗した方がいい』—医学部と体育会、二つの夢を追う塾生

#Feature#Person#Challenge
公開日:2026.11.05
学校生活において学業との両立への不安から、体育会や部活動への入部を迷ったり、断念したりする学生は少なくない。そんな中、医学部に所属しながら、体育会野球部(※1)で毎年、明治神宮での東京六大学野球リーグ戦出場を目指して活動している塾生がいる。医学部3年の長又隆智選手だ。学部特有の多忙なカリキュラムの中で入部を選んだ理由。限られた時間の使い方、野球と向き合う思い。「学業か、体育会か」という二者択一ではなく、両方に本気で向き合う学生生活のあり方に迫る。

プロフィール

長又 隆智(ながまた りゅうと)

在学生

慶應義塾大学医学部3年。体育会野球部所属。ポジションは内野手。 小学校受験で桐蔭学園小に入学。その後、中高一貫の桐蔭学園中等教育学校で学んだ。幼稚園年中から軟式野球を始め、中学は内野手としてプレー。高校では軟式野球をやり切った。野球にのめり込む一方、医師を志すように。目標である神宮球場での東京六大学野球リーグ戦出場と、医師への夢の両立が可能な慶應義塾を選択。

※1: 体育会野球部

明治25年創設。文武両道の人材を各方面に輩出、伝統と誇りを背負い礼節も重視される。

野球と医師という二つの夢

インタビュー中の様子。
R.N (Editor) :

まず、野球を始めたきっかけを教えてください。

長又 :

小さい頃から家でテレビをつけると、巨人ファンの親の影響でずっと巨人戦を見ていて。それで野球って面白いなと思ったのがきっかけです。年中クラスの時に初めて野球チームに入部し、そこから小中高とずっと続けてきました。

R.N (Editor) :

野球を続けながら医学部を目指すというのは、簡単な決断ではなかったと思います。医学部を目指そうと思ったきっかけは何ですか。

長又 :

桐蔭学園にいたのですが、中学から外部受験をすると決めた時点で、もし失敗しても内部進学には戻れないという状況でした。『医師になる夢を叶えるため、医学部に行きたい』とちゃんと意識したのは中3の秋、11月頃です。

医師になりたいと思ったきっかけは、幼い頃の原体験にあった。

長又 :

小学5年生の時、アレルギーでアナフィラキシーショックを起こして救急車で運ばれたことがあって。パニックになっていた自分の感情を、お医者さんが冷静にコントロールしてくれました。それが医師を志した原点です。

R.N (Editor) :

勉強と野球、どちらも続けようと思えた原動力は何だったのでしょうか。

長又 :

よく親に『やらないで失敗するより、やって失敗した方がいい』と言われて育ったので、まず一回やってみようと。『どっちかを取る』のではなく『どっちもやってやろう』という考え方でした。

長又さん愛用のバットやグローブ。そして日頃から練習する、慶應義塾大学下田野球グラウンド。
R.N (Editor) :

体育会野球部への入部を決めた決定的な理由は何ですか。迷った時期もあったのでしょうか。

長又 :

一応、医学部生を中心に活動する野球部も見に行きました。ただ、 以前から『体育会で野球をやりたい』という気持ちの方が強くて。神宮球場で、六大学野球をやりたいという思いが決め手でした。

医学部生活と体育会をどう両立しているのか

R.N (Editor) :

1日のスケジュールはどんな感じなのでしょうか。

長又 :

授業がない日は、8時半の全体集合前から行って練習し、昼を挟んで室内でバッティング、ウェイトをして帰る感じです。終わるのは大体14時から15時です。授業がある日は、午前か午後どちらかに練習を入れ、もう一方の時間に授業に出るという形にしています。

R.N (Editor) :

テスト期間はどのように時間を確保していますか。実習との両立についても教えてください。

長又 :

移動中はずっと勉強にあてています。必須の授業や実習には当然すべて出席した上で、それ以外の時間は極力練習にあてており、完全に休むのは試験当日だけです。なるべく練習を休みたくないので、それ以外の時間で何とか勉強したいという感覚です。

白衣に身を包む長又君

医学部特有の実習や授業日程の中で、練習時間を確保するための工夫も欠かせない

長又 :

1年生は日吉キャンパスで他学部とほぼ同じですが、2年生から信濃町に移り、1年から2年の春休みにまず実習が入っていました。テストの時期や夏休みの時期が、少しずつ他学部とずれて、リーグ戦の期間と重なることもあります。

R.N (Editor) :

最も大変だった時期はいつですか。また、挫折しそうになったことはありますか。

長又 :

実習の期間がチームの練習期間と重なってしまった1年から2年に上がる春休みです。平日は全部実習になり、シーズンに向けたスタートダッシュを切るタイミングで、自分だけ練習にまったく出られなかった。それが一番きつかったです。きついと思う瞬間はもちろんありますが、リーグ戦に出るという目標ははっきりしています。医学部である以上、練習に出られない時期があることも最初から分かっていたので。心が折れるというよりは、覚悟の範囲内という感じです。

医学部生にはつきものの膨大な量の教科書や資料は、全てiPadに取り込み、まとめて持ち歩いているそう。

六大学野球優勝の景色と、野球部だから得られたもの

R.N (Editor) :

入部前と現在で、自分の変化を感じる部分はありますか。

長又 :

自分で考えるようになったことです。高校まではずっと指導者の言うことを聞くばかりでした。大学に入ってからは、監督やコーチはいますが、バッティングの動画を撮って見返すなど、自主的に練習を組み立てる時間が格段に増えました。

R.N (Editor) :

野球部に入って一番良かったと思う瞬間はどんな時ですか。

長又 :

今年の春のリーグ戦、早慶戦で六大学野球優勝が決まった瞬間は、応援する立場としてもすごく嬉しかったですし、同時に『自分もあそこに立ちたい』と強く思いました。

長又君。下田グラウンドにて。
R.N (Editor) :

野球部でなければ学べなかったことは何でしょうか。

長又 :

人とのつながりの大切さだと思います。特に50人近くいる同期の存在は大きくて、色々な個性を持つ人たちと接する中で、自分にはない視点や刺激をもらえます。

「文武両道」とは何か

R.N (Editor) :

長又さんにとって「文武両道」とはどういう言葉でしょうか。

長又 :

一般的に文武両道とは、「勉強か運動のどちらか一方を極めながら、もう一方も社会に出る上で困らない程度にできている状態」を指す言葉なのではないかと思います。

ただ、私自身は医学部に在籍しながら野球部で活動している立場として、その考えでは不十分だと感じています。医師を目指す以上、学業は決して妥協できるものではありませんし、野球についても中途半端な姿勢ではなく、どちらにも人一倍努力して向き合うことが大切だと考えています。

R.N (Editor) :

文武両道を目指すうえで、スポーツと勉強にはどのような共通点や違いがあると思いますか。

長又 :

共通点は、日々の積み重ねが第一であるということです。少し間が空くと、勉強では学んだことを忘れてしまいますし、スポーツでもプレーの感覚が鈍ってしまうことがあるので、継続することが大事というところは共通していると思います。

一方で違いとしては、スポーツのほうが自分で考えなければいけない場面が多いことです。勉強はある程度答えが決まっているものを解く側面が大きいですが、スポーツには絶対的な正解がありません。例えばバッティングのフォーム一つをとっても、人によって最適な形が異なります。決まった答えがないからこそ、自分に合ったものを試行錯誤しながら見つけていく必要があり、その分、自ら考える機会が多いと感じます。

バットを振る長又君
R.N (Editor) :

最後に、勉強と部活の両立を目指す受験生に向けてメッセージをお願いします。

長又 :

本気で続けたいスポーツがあって、その競技に懸ける意思があるなら、きついと思っても、一回やってみると意外と何とかなるものだと思います。結果を出したいという強い気持ちがあれば、十分両立できるはずです。


※本記事は2026年時点の情報に基づき作成されたものです。

取材・撮影

K.I

理工学部機械工学科。趣味は誰かの長所を見つけること。価値観や世界観を聞くことが趣味です。

H.K

法学部政治学科。広告コミュニケーションに関心があります。コーヒーが大好きで、日々新たなコーヒーを開拓しています。

R.N

文学部社会学専攻。メディアが発信する情報が、人々の認知や判断、行動にどのような影響を与えるのかに関心があります。趣味は野球観戦で、球場で初対面の人とも一体となって応援する空気が好きです。