慶應義塾

哲学の実践の探究

登場者プロフィール

  • 荒谷大輔

    文学研究科 哲学・倫理学専攻 倫理学分野

    荒谷大輔

    文学研究科 哲学・倫理学専攻 倫理学分野

2026/04/01

「哲学の実践」という題目を掲げて、研究を進めてきました。哲学とは、世の中の当たり前をゼロベースで考え直す学問と考えています。これまでの歴史的な積み重ねを批判的に検討しながら、その上で新しい考え方を提案するのが哲学の役割だと考えます。その意味で、過去の偉大な哲学者のテクストを読み直すことは、哲学にとって非常に重要なことだといえるでしょう。私も専門としては精神分析家ジャック・ラカンの研究を続けています。ただ反面、そうしたテクスト研究だけに拘泥すると本来の意味で、哲学を実践したことにはならないのではとも思っています。同じ畑の哲学研究者と話していると、しばしば「哲学は(少なくともすぐに)役に立たないことが重要」という態度を取られる方がいらっしゃいます。それは実際、いまの社会の価値基準に追従し批判的なスタンスを取れなくなることへの戒めとして重要な考え方ではあるのですが、私としては現状の社会が抱える構造的な問題を解決するための実践が伴わなければ、哲学が担うべき役割を放棄することになると考えます。そんなで研究者仲間にはあまり評判のよくない、青臭いことをいいながら「それが倫理だ」と哲学の実践を試みてきたのでした。

では実際に、どんなことを「実践」できているのか。2022年から、それまでの研究の蓄積をもとにはじめているのが「贈与経済2.0」というプロジェクトです。これはお金とは異なる価値の循環の中で人々が生活できるような経済システムを作ろうというものです。お金は便利なツールですし、現代社会の制度設計は、資本主義経済の浸透と切っても切り離せません。単純にいって、現代の私たちの生活は資本主義経済の上に成り立っています。しかし、そこには構造的な欠陥もあります。各人が「個人」として「自分の生活」を維持するという目的に視野を狭められることが、システムとして「前提」になっているというのが、それです。このことが、その有用性を超えて様々に重大な問題を引き起こしていると考えられます。私の考えでは気候変動の問題もそのひとつです。そうした問題を改善するため、資本主義経済とは別に、人々の関係性によって経済が回る仕組みを提案し、その社会実装に向けた実証実験をはじめています。実際にいろんな人が集まり、贈与を媒介にした経済を実践していますので、興味のある方は立ち寄ってみてください!