慶應義塾

ワークショップ“Bridging Emotions: Affect in Overcoming Social and Political Divides” (「橋渡し感情——政治的社会的分断を乗り越える情動」)報告

公開日:2026.06.11
社会学研究科

 森川剛光教授(文学部所属、大学院社会学研究科委員)とChristian von Scheve訪問教授(ベルリン自由大学所属)の企画により、2026年5月16日に慶應義塾大学三田キャンパスで国際ワークショップ

“Bridging Emotions: Affect in Overcoming Social and Political Divides”が、非公開ハイブリッド形式で開催されました。報告者のうち

Hao Yang、Yuri Keum、Alma Jefticは大学院校舎の会場で対面報告を行い、その他の発表者はオンラインで参加しました。これにより、アメリカ、ドイツ、イタリア、イギリス、イスラエル、スイスなど、複数の地域・国からの参加と、文字どおり国際的な議論が可能となりました。 

 開会の挨拶では、本ワークショップの中心的なテーマとして、感情はいかにして社会的・政治的対立を促進するだけでなく、分断された集団間の橋渡しを可能にするのか、という問題が提示されました。近年の研究では、情動的分極化、集団間の敵意、排除、承認の欠如における怒り、恐怖、ルサンチマン、屈辱、憎悪といった否定的感情のもつ破壊的な力が広く検討されてきました。本ワークショップでは、感情の建設的かつ両義的な役割、すなわち、感情がいかに承認を可能にし、脆弱な共存を支え、説明責任を促し、大幅に相違した意見のもとでも協力が想像可能になるのか、という、これまで必ずしも体系的に検討されてこなかった側面に焦点をむけました。

 各報告は、これらの問いを理論的、実証的、方法論的に多様な観点から扱いました。

Gül Mescioglu Gür(アメリカン大学)のキプロス紛争に関する報告では、「薄い橋渡しの感情」という考えが提示され、信頼、抑制、選択的な記憶、戦略的沈黙が、歴史的対立を解決することなしに、日常的な協力を支えうることが示されました。楊昊(慶應義塾大学大学院)は、19世紀後半の中国におけるナショナリズムの感情的基盤を検討し、中国知識人の言説における誇り、恥、屈辱、尊厳、怒りに焦点を当てました。

Yuri Keum(ネゲヴ・ベン=グリオン大学)は、「感情的テンプレート」という概念を用いて、移民の子どもと市民権の問題を分析し、無垢さ、脆弱性、共感、集合的責任という観念が、対立する集団の成員資格の境界を再形成しうると論じました。Alma Jeftic(ジュネーヴ大学)は、「希望」と道徳的高揚が、社会的距離を縮小し、相互承認を促進するうえで重要な媒介メカニズムであるという、ボスニア・ヘルツェゴビナにおける和解介入に関する知見を提示しました。

 午後のセッションでは、ワークショップの射程がさらに広がりました。Giulia Salzano(フェデリコ2世・ナポリ大学)の「共感」に関する報告は、「共感」が自動的に分断を橋渡しするという単純な想定に疑問を投げかけ、「共感」を社会的に条件づけられ、動的に再構成される性向として捉えました。

Monika Verbalyte(GESIS)とDonatella Bonansinga(サザンプトン大学)は、分極化における政治的「希望」の二重の役割を検討し、「希望」はその政治的対象や制度的文脈に応じて、分極化を弱めることもあれば、強めることもあると示しました。

Philipp Wunderlich(国際精神分析大学)は、ドイツの運動“Grandmas against the Right”(右翼に反対するおばあちゃん)を取り上げ、極右支持者との接触における対話、共感、境界設定、フラストレーション、連帯といった情動的実践を分析しました。

Mark Higgins(ブリストル大学)、Michelle Forrest(バース・スパ大学)、Jon Somerscales

(Pervasive Media)は、音楽と音を用いて、デジタルに断片化された社会における感情的共鳴と人間的つながりを探究する創造的研究プロジェクトを紹介しました。

 総括討論では、いくつかの主要な問いが改めて取り上げられました。感情は、意見の相違を解消しないまま、分断を橋渡しできるのでしょうか。希望、共感、コン同情のような「肯定的」感情は常に統合的なのでしょうか、それとも境界や排除を強化することもあるのでしょうか。感情が社会的紐帯を橋渡しするのか、それとも破壊するのかを決定する制度的、文化的、関係的条件とは何なのでしょうか。本ワークショップは、橋渡しの感情を対立に対する単純な解決策として理解すべきではないことを示しました。むしろ、それらは両義的で、状況に埋め込まれ、関係的な過程であり、不一致を耐えうるものにし、共存を可能にし、社会的境界を再構成へと開くものです。

 本ワークショップは学際的な感情研究に重要な貢献となりました。社会学、政治学、心理学、哲学、平和・紛争研究、芸術研究を結びつけるとともに、グローバルな学術的対話を維持するうえで、ハイブリッド形式の学術交流がもつ意義を示しました。

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