慶應義塾

本州最北端石灰岩洞窟における挑戦的旧石器時代研究

登場者プロフィール

  • 渡辺 丈彦

    文学部 民族学考古学専攻 教授

    渡辺 丈彦

    文学部 民族学考古学専攻 教授

2023/10/16

世界的に高い水準にある日本の旧石器時代研究ですか、じつは日本最初の旧石器時代遺跡「岩宿遺跡」の発見当時から一つの大きな問題点を抱えています。それは遺跡でみつかる遺物の種類が後の時代に比べてとても少ないことです。最大の理由は、列島の地表の多くが火山灰起源の土に覆われていることにあります。火山灰は酸性なので、本来あったはずの骨や木などの有機質遺物が失われ、概ね石を材料とした石器のみしか残らないのです。世界的には、石以外の素材の各種道具(骨角器等)、旧石器時代人が入手した食料(動・植物)、旧石器時代人そのもの(遺骨)なども含めて総合的な研究を行うのが一般的なので、日本の旧石器時代研究は大きなハンディキャップを負っているといえます。

しかし、この厳しい状況を覆す遺跡がないわけではありません。その一つがアルカリ質の強い石灰岩が酸性土壌を中和する石灰岩の洞窟です。その洞窟を発見すること自体容易なことではありませんが、多様な遺跡出土資料に基き総合的に旧石器文化像を明らかにすることは、避けては通れない世界的な研究の流れです。この問題を解決するため、慶應義塾大学民族学考古学研究室は、1990年代後半から石灰岩地帯における洞窟の探査とその発掘という挑戦的な研究を続けています。

この取り組みは、岩手県北上山地の石灰岩洞窟から始まり、現在は本州島最北東端下北半島の尻労安部洞窟の発掘調査を手掛けています。幸いにして、尻労安部洞窟での挑戦は大きな成果をあげ、2008年には地表下4mの位置から旧石器が見つかり、翌年以降にはノウサギ、ヘラジカ、ヒグマなどの動物骨も続々とみつかりました。日本の旧石器時代遺跡は約1万か所ありますが、石器と動物骨が同時に出土した例は僅か5例にすぎません。この発見は、日本列島旧石器時代人の狩猟対象獣の種類を明らかにしたのみならず、その狩猟方法を具体的に考える上での大きな足跡を残しました。

※所属・職名等は取材時のものです。