中村 雅也
ナカムラ マサヤ
医学部 整形外科学教室 教授
研究概要
「再生」とは生体の失われた細胞・組織が、 幹細胞の増殖・分化や分化した細胞の分化転換によって補われることと定義されます。現在、発生過程を一部再現させることにより臓器再生を目指そうという新しい学問潮流が生まれつつあり、まさにこれに立脚した治療哲学である「再生医学」が21世紀の医学の進むべき一つの方向であると期待されています。これまで不可能と考えられてきた脊髄再生も、近年の幹細胞学を中心とした再生医学の進歩により夢物語ではなくなりつつあります。私たちは、脊髄再生医療を実現するために、1)肝細胞増殖因子(HGF)、2)神経幹細胞移植、3)軸索伸展阻害因子の克服、4)新たな脊髄画像評価法の確立などの研究を行ってきました。 1)肝細胞増殖因子:ラットとサル急性期脊髄損傷に対するHGFの有効性を報告し、その後も安全性の検証を重ね、平成26年7月から治験を開始しました。 2)神経幹細胞移植:人工多能性幹細胞(iPS細胞)から誘導した神経幹細胞(iPS-NSC)をマウス・サル損傷脊髄に移植し、運動機能の回復が促進することを報告しました。今後の課題は、安全なiPS細胞株の選別、最終産物であるiPS-NSCの安全性基準の確立、GMP準拠したiPS-NSCの製造であり、これらの課題の克服に向けて基礎研究を継続しています。 3)軸索伸展阻害因子の克服:慢性期脊髄損傷に対する再生医療の実現には、損傷部に存在する軸索伸展阻害因子の克服が必須です。これまで、Semaphorin3A阻害剤やコンドロイチナーゼABC等を用いて、その有効性を報告してきました。今後は、これらの薬剤に加えて、iPS-NSC移植とリハビリを併用して、慢性期脊髄損傷に対する新たな治療法の確立を目指します。 4)新たな脊髄画像評価法の確立:新たなMRI撮像法である拡散テンソル投射路撮影による脊髄内投射路の可視化、q-space撮影による髄鞘の可視化、functional MRIによる神経障害性疼痛の可視化など、臨床研究および治験で必要な画像評価法を構築してきました。 これらの橋渡し研究の着実な進歩により、脊髄再生医療の実現に向けて一歩ずつ前進しています。今後、日本が世界に発信できる脊髄の再生医療を実現するためにも、さらなる研究を行い安全性と有効性を担保したうえで、臨床研究に進めていくことが何よりも重要と考えています。
専門
脊椎脊髄外科、脊髄疾患の外科的治療、神経科学(脊髄再生、栄養因子neuroimaging)
論文指導資格
医学研究科における論文指導資格
修士/博士