飯田 恭
イイダ タカシ
経済学部 教授
経済学研究科 教授
研究概要
近世(15/16世紀〜18/19世紀)のヨーロッパにおいて、エルベ川以東の一帯に「グーツヘルシャフト(農場領主制)」というタイプの封建領主制が広く普及したことはよく知られています。この制度についてはおよそ1世紀半にわたって数多くの研究が積み重ねられてきており、これはヨーロッパ経済史の伝統あるテーマの一つだと言えるでしょう。私はこのテーマについて、ドイツのブランデンブルク地方を対象に研究を続けてきました。 1993年秋にベルリンに留学し、史料(古文書)に基づく本格的な研究を開始しましたが、ブランデンブルク地方のグーツヘルシャフトについては、すでにドイツの学界を中心に数多くの優れた研究が出ていました。そこで私は、貴族領に比べてなお研究の遅れていた君主領の一つを研究対象とし、また当時急速に開発が進んでいた「ミクロ歴史研究」の方法(「家族復元法」を含む)を用いつつ、グーツヘルシャフト下の農村社会の実態をできるだけ細部に至るまで動態的に明らかにしようと努め、何とか新しい知見を得ました。その成果をまとめて2010年にドイツ語の本を出しましたが、その後もさらに同じ所領の研究を続けてきました。それは、この所領の森林に関する史料がほぼ手つかずのまま大量に残っていたからです。これまで基本的に「農業制度」として捉えられてきたグーツヘルシャフトを、「森林」も視野に入れつつより総合的に捉えようとしている点に、自分の研究のもう一つの新しさがあると言えるかも知れません。いずれにせよその成果をまとめて、もう一冊ドイツ語の本を出したいと思っています。 このように、私はこれまで遥か遠いブランデンブルクの農村や森林の歴史という、ドイツ史の専門的なテーマに没入し、主にドイツの学界に向けて仕事をしてきたわけですが、そこで得た知見をいかに日本の学界や社会に還元できるでしょうか。そのきっかけは実は少なからず存在します。そもそもブランデンブルク選帝侯国を源流として興隆したプロイセン王国は、明治期の日本が近代国家建設に当たって一つのモデルとした国でもありました。また、ともに後発資本主義国であったドイツと日本の近代の農村には、旧い封建的性格が長らく共通に残り続けていたと、戦後の経済史学では考えられてきました。では、こうした日独の共通性に関する議論は今日の研究水準に照らしてどこまで妥当性を保持し得るのでしょうか。これまで自分自身で、あるいは日本史研究者との共同研究を通じて、この問題について少しずつ書き溜めてきましたが、日本とドイツの似て非なる歴史経路についての本を、近いうちに日本語でまとめたいと考えています。
専門
ヨーロッパ社会経済史、近世・近代ドイツ農村・林野史、比較経済史