登場者プロフィール
内田 伸哉(うちだ しんや)
その他 : マジシャンその他 : (株)スターミュージック・エンタテインメント取締役CMO理工学部 卒業理工学研究科 卒業塾員(2005理工、07理工修)。慶應義塾大学在学中にプロマジシャンとしてデビュー。代表作は〈iPadマジック〉。TikTokフォロワー数1,000万人突破。
内田 伸哉(うちだ しんや)
その他 : マジシャンその他 : (株)スターミュージック・エンタテインメント取締役CMO理工学部 卒業理工学研究科 卒業塾員(2005理工、07理工修)。慶應義塾大学在学中にプロマジシャンとしてデビュー。代表作は〈iPadマジック〉。TikTokフォロワー数1,000万人突破。
インタビュアー茂木 和徳(もぎ かずのり)
その他 : ビジネスプロデューサー塾員
インタビュアー茂木 和徳(もぎ かずのり)
その他 : ビジネスプロデューサー塾員
2024/08/19
マジックと営業のスキルを磨く
──内田さんと私は慶應義塾高校奇術部の同期ですが、まずは奇術部を選んだ理由をお聞かせいただけますでしょうか。
新入生歓迎会でハトのマジックを見たことです。それまでテレビ番組を見て少しかじったことはありましたが、本格的なマジックを初めて見て、これはすごいと思い入部しました。
──僕たちの代はとくに入部希望者が多い学年でした。
そうですね。1学年上の先輩は1人だけでしたが、僕たちの学年は一気に12人ぐらい入りました。
──大学では奇術愛好会に入り、さらに技術を磨くことになりますが、どのようなことに力を入れていたのでしょうか。
大学の奇術愛好会では、塾高奇術部からの先輩方がすでにマジックで営業活動をしていました。高校生のマジックは多少タネが見えていても愛嬌で拍手をもらえましたが、先輩たちはそれじゃダメだと。彼らはきちんとエンターテインメントとしてお金を稼げるクオリティに仕上げていました。
それを見て、僕たちもプロに負けないレベルでやろうと、マジックと営業のスキルを一生懸命磨きました。それにより相当活動の幅が広がったと思います。プロに習いに行ったり、同じ舞台に立たせてもらったりしましたし、同期に営業熱心な仲間が多かったことも良い刺激になりました。
──中でも内田さんは営業先を積極的に開拓していましたね。
そうですね。それまで年間10件ほどだった公演が100件に増えました。マジックはそれ自体が営業ツールになるところがあるので、その場でやってみると「うちでもお願い」と言われることがありました。営業先が増えるのがとにかく楽しかった記憶があります。
マジックが結んだ交友関係
──当時、マジックのスキルは基本的に先輩から習うものでした。学生時代に印象に残っていることはありますか?
7学年上の先輩、大塚太郎さんの指導が厳しかったことです。太郎さんはプロ顔負けのマジックを見せたいという気持ちが強く、随分鍛えられました。マジックのレベルが上がるだけでなく、いろいろな人に顔をつないでもらえたことも大きかったです。
──内田さんも後輩の育成には力を入れていました。何か意識して取り組んでいたことはありますか?
先輩たちには練習や営業だけでなく、食事をごちそうになることも多かったのですが、そういう時によく「この借りは下に返してくれ」と言われました。それは奇術愛好会の良さでもあるし、慶應が持っている伝統でもあります。僕も後輩とそのように接しました。こうした文化が下へとつながる関係はとても大きいと思います。
ネットもない時代に手品のタネはよほど密な関係にならないと教えてもらえません。情報の機密性が上下間の絆を強くしたところはあるでしょうね。ネットで簡単に情報が手に入るようになった今は、伝統的なコミュニティの人間関係が希薄化しやすいような気はします。
──塾高から理工学部電気情報工学科に進学されましたが、学問とマジックをどのように両立されていたのでしょう。
勉学は最低限に頑張り、それ以外の時間をすべてマジックに注いでいました。大学では池原雅章先生の研究室に在籍し、音声の信号処理の研究をしていました。マジックをやっていたことは先生も先輩や同級生も知っていたので、皆、私の活動を温かく見守ってくれていました。
──在学中には他大学のエンタメ系サークルと合同で「色即是空」と題しエンターテインメントショウを企画しました。どのようなモチベーションがあったのですか。
マジックを続けるうちにエンターテインメント全般が好きになり、自分がやること以外にも興味を持つようになりました。「色即是空」はマジックだけでなく、ジャグリングやパントマイム、チアリーディング、ダブルダッチ等のいろいろなパフォーマンスを披露するイベントでした。
僕自身はこのイベントでは、パフォーマーではなく運営進行に専念しました。慶應から予算をいただいたり、会場として日吉キャンパスの来往舎を借りたり、パフォーマーを連れてきたりしていました。プロデューサー的な立場で関わったのは、表方でも裏方でもエンターテインメントをやることが好きだったからです。
いろいろな大学のサークルに声をかけた結果、500人ほどお客さんが入りました。初めて手がけた総合的な舞台でしたが、パフォーマーにもお客さんにもとても喜んでもらえました。
──各大学のマジック部同士で交流も盛んでしたね。
そうですね。当時12大学で組織された関東大学奇術連盟で大会や発表会もありました。その中で慶應は伝統を守るクラシックなスタイルが売りでした。各大学の上手い人同士で仲良くなり、早稲田や東大、法政の人たちとは今でも交流があります。
代表作〈iPadマジック〉の誕生
──大学卒業後は“サラリーマジシャン”として、映像とトリックを同期させる〈iPadマジック〉を2010年5月にいち早く発表し、話題となりました。現在はYouTubeやTikTokでもマジックを披露しています。デジタルツールを取り入れる魅力について聞かせてください。
学生時代に感じたのは、より多くの人に面白いと思ってもらうことの難しさです。エンタメはメディアやツールを活用しないと広まらない。そう思ったのがiPadを使う一番のきっかけでした。
実はiPadの登場以前に、ブラウン管テレビを使ってマジックをやったことがありました。自分では画期的だと思ったのですが、これがあまり広がらなかったのです。この時、世の中はそれほどマジックに興味がないということに気が付きました。だとすれば、広がる仕組みをこちらからつくらなくてはならない。そう考えていた時に、YouTubeが普及し、iPadが登場しました。
そこでYouTubeで〈iPadマジック〉をやってみようと思い立ち、米国でiPadが発売されたタイミングですぐに入手したのです。日本のiPad発売日までにプログラムを組み立て、このコンテンツを当日、YouTubeにあげました。響きだけでも面白い上に、話題性もあってこれは広がるだろうとmixi等で拡散したところ、瞬く間に広がりました。
──〈iPadマジック〉はとても大きな反響がありました。日本発売日に動画をリリースする実行力もすごいです。
実行力は大事だと思っていました。インターネットの時代は話題のサイクルが早く、iPad発売の翌日にはもう話題にならないくらいニュースの入れ替わりが早い。このコンテンツは当日公開しなければと思い、何とか間に合わせたのです。
そこには社会人になってからのスキルも関係しています。最初に入社した広告代理店の研修で、User Generated Contentという考え方を知りました。ユーザーがコンテンツをつくり、広がっていく仕組みのことです。これを自分もやってみようと思い、マジックのスキルを組み合わせてメディアマジックのようなものをつくってみました。
──内田さんは昔から入念に準備するタイプでした。最近はTikTokに活動の主戦場を移され、フォロワーは1,000万人以上、YouTubeの登録者数も260万人というから驚きです。
最初の〈iPadマジック〉を2010年5月に公開し、2018年11月にiPad Proが発売されたタイミングで、〈iPadマジックPro〉というリニューアルコンテンツをアップしました。ですが、〈iPadマジック〉が当時YouTubeで500万回再生をしたのに、〈Pro〉は3万回足らずだった。
ところが、ツイッター(現X)では400万回再生、TikTokで100万回再生されたのです。これはメディアのノリが変わってきていると感じました。そこからTikTokに軸を移し動画を投稿し続けていった結果、インドネシアと米国を中心に、多くのユーザーに見てもらうことができました。先日フォロワー数が1,000万人を超えました。
──どうしてマジックにそれほどの多くの人が惹きつけられると思いますか?
即席で、かつ言語を介さなくても楽しめるコンテンツであることが大きいと思います。生の舞台でやるマジックと、TikTokでやるマジックでは、ウケるものが違います。とくにTikTokは簡単であること、わかりやすくすぐにマジックが起こること、それに対するリアクションが大きいこと。この3つが大切です。この違いを発見したことで多くのフォロワーがついたと思います。
デジタル時代のマジックのゆくえ
──SNSのマジックは新しいものが次々と出てきています。今後どうなっていくと思いますか。
リアルなマジックも、TikTokのマジックも、新しい形が広がっていくのではないかと思います。昔は口頭伝承だったり本を読んで学んだりしていたことが、今は動画サイトやネット上で知られるようになっています。これにより、今までにない表現がどんどん増えるでしょう。
一方で、新しいものが生まれるスピードが早すぎる感じもします。昔はジャグリングも3つボールから5つボールになるだけで衝撃的でしたが、5から7になり、7から9になるのは、3から5にいくよりも全然早かった。ルービックキューブも、私たちの学生時代は1分切るかどうかでしたが、今は5秒切るかというところまできています。皆、進化のスピードに追い付けなくなっています。
──内田さんはいろいろなところでマジックを披露していますが、SNSや舞台にかかわらず、ポリシーのようなものはありますか?
僕は舞台と観客の関係性を常に考えています。見ている人が楽しいかどうか、面白いと思ってもらえる瞬間を想像できるかどうかを大切にしています。でもそれは、生の舞台とTikTokでは全然違います。
音楽にたとえると、生で聴くオーケストラとYouTubeで見るMVくらい違うものです。生は生で振動を体感できる良さがあり、YouTubeは演出やコメントの面白さがある。それらも含めての音楽だったりするので、舞台ならば舞台の観客が、TikTokだったらTikTokユーザーがどう喜ぶかを意識してコンテンツをつくります。
──その視点は手品以外でもすごく重要だと思います。現在は会社経営に携わる一社会人として手品から学んだスキルはありますか。
一番はコミュニケーション能力です。例えば、マジックの営業に行き、まったくウケなかったとします。だからと言ってお代は要らないですと言っても仕事なので払ってもらえる。
ですが、申し訳ない気持ちにもなるので今度は満足させられるコンテンツに仕上げようとブラッシュアップしますよね。その結果、コミュニケーション能力が高まります。そうして盛り上げるスキルが身に付いていくのです。
マジックで驚かせたり喜ばせたりする相手はお客さんですが、仕事の場合はお得意様やユーザーが相手です。その相手にこちらが提供しているサービスを良いと思ってくれるか考えることは、マジックのコミュニケーション能力にも通じるのです。
実はYouTubeのマジックとTikTokのマジックは違う部分もあります。もっと言うと、ステージでやるマジックとテーブルでやるマジックも違いますし、サロンマジックと呼ばれるステージとテーブルの中間くらいのマジックも、イリュージョンという大きいマジックも、“ウケる”感覚はすべて違います。いろいろな表現の場でそれぞれにウケるものを考えることは、仕事でのコミュニケーションスキルを養うことに大いに役立ちました。
サラリーマジシャンというスタンス
──内田さんには「株式会社スターミュージック・エンタテインメント取締役CMO」というもう1つの顔もあります。どのようなお仕事なのでしょうか。
MCN(Multi Channel Network)と呼ばれる、TikTokやYouTubeのショート動画を扱う広告制作兼インフルエンサー・マーケティングを手掛けています。その活動ももちろんマジックに生きています。今の仕事はクライアントとクリエーターの両方と接する機会があります。
僕は広告代理店に勤めていた経験があるのでクライアントの気持ちもわかりますし、自分もクリエーターなので、クリエーターの気持ちもわかります。企業とクリエーター双方の事情をくみ取りながら、互いの最適点はここだと提案できる希有な存在ではないかなと思います。おそらく広告代理業のマーケターで、フォロワー1,000万超えている人はいないので、そういう意味で説得力のある提案ができる立場にいます。
──企業も今でこそデュアルワークと言って副業にも寛容になりましたが、私たちが大学を卒業したばかりの頃はまだそういう時代ではありませんでした。
そうですね。最初に勤めた広告代理店では、まだマジックはこっそりやっていました。ある時、〈iPadマジック〉を見たクライアントがとても喜んでくれて新規の案件を2件開拓することができました。その結果、会社のほうも本業に良い効果があるならと、マジシャンとしての活動を容認してくれました。
──それ以来、“サラリーマジシャン”のスタンスは一貫していますね。
僕の場合、マジシャンも会社勤めも、エンターテインメントが軸にあります。エンタメコンテンツで世の中をもっと面白くしたい。ただ、会社とマジックが違うのは、会社が営利企業であることです。もちろんマジックのようにお客さんを騙すことはしませんが、きちんとお客さんに満足してもらえた対価で利益を最大化することを大事にしています。
マジックのほうは、利益よりも面白さや新しさ、楽しさが大事で、それに付随して少しだけ営利があるというくらいです。マジックも新しいトリックを開発するのはお金がかかります。〈iPadマジック〉で言うと、プログラムをつくったり、ソフトウェアを買うための資金です。マジックは僕の権限でそこに投資できますが、仕事のほうではきちんとお金を稼ぐことでバランスを取っています。稼ぐこととエンターテインメントのバランスが取れているからこそ楽しく仕事ができています。
──マジックを本職とするよりも得るものが大きいのですね。
そうですね。もちろん本業でしかできないこともあります。でもマジック1本でいくとなると、食べていくためのマジックになる。僕はお金を稼ぐためのマジックよりも純粋に面白いマジックを追究したいと思っています。
──マジシャンの活動を続けるために、どのようなことに注力していますか。
仕事とマジックを両方とも疎かにしないことです。そのためにも、平日の日中は企業経営、土日はマジックというふうに、それぞれの時間を決めています。マジックのほうでは最近、ドローンの制御技術の勉強をしたり、生成AIをコンピューターに組み込んでどういったものがつくれるのかをリサーチしたりしています。
マジックは僕にとってライフワークなので、これを続けることは“ご飯を食べるのを止めない”のと近い。そして、マジック以上に新しいエンターテインメントをつくりたいと考えているので、基本的にはつねに新しいものを考え続けていくのだと思います。今までになかったものがどんどん出てくるので、僕も探究を続けていけたらなと思っています。
──これからのご活躍を楽しみにしています。有り難うございました。
(2024年6月25日、三田キャンパスにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。