慶應義塾

田中 貴久:半導体研究とAI

公開日:2026.10.20

執筆者プロフィール

  • 田中 貴久(たなか たかひさ)

    理工学部 准教授

    専門分野/ナノスケールデバイス工学

    田中 貴久(たなか たかひさ)

    理工学部 准教授

    専門分野/ナノスケールデバイス工学

筆者は現在までに、微細なトランジスタやセンサなどナノスケール電子デバイスの高性能化に関する研究に携わっている。私たちの生活にはスマートフォンなど電子機器が欠かせない。それらの中には微細なトランジスタを大量に含んでいる集積回路が存在する。トランジスタが半導体からできているため、一般には集積回路が"半導体"と呼ばれて経済安全保障とも対応付けて語られることが多くなった。この"半導体"の性能向上は私たちの生活に直結するため、世界的な企業がしのぎを削って開発競争を繰り広げている。


この"半導体"が現在の性能に至ったのは、物理学・化学・電子工学など様々な分野で無数の技術革新が集積されてきた結果であり、誰か1人の天才が作ったものではないのが興味深い。また、当時は全く見向きもされなかった技術が、時を経て最先端デバイスに採用されることもある。そのため"半導体"の研究においては、目前の技術課題を理解するだけでなく、一見無関係に見える異分野の多様な研究にも目を向け、理解を深めていくことが重要だと考えている。


さて、筆者も含めて研究にあたっては、集積回路上で動作するAIの活用が必須となってきた。AIに質問をすれば、数秒でそれらしい答えが返ってくる。このAIの活用方法については諸説あると思うが、"半導体"を研究するにあたっては、当たり障りのないそれらしい答えだけでは不足しており、やはり人間の介在が必要だと考えている。AIが提案する答えは現在の研究動向の延長線上でしかなく、先述のような無関係に思えた先行研究を先端デバイスに採用することはできない。そのため、AIが学習に使ったデータには全く含まれていないような研究の相関を発見するには、人間独自の突飛なひらめきや研究への信念がどうしても必要になる。


今後はさらにAIの性能が向上し、その出力が広く受け入れられる時代になるだろう。だからこそ研究においては主流の動向を押さえつつも、自らのひらめきや信念を尊重し、興味の赴くままにこの分野の研究へ邁進したい。その結果として"半導体"の進化に貢献できれば、研究者としてこれ以上の光栄はない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。