慶應義塾

永尾 圭介:皮膚は語る

公開日:2026.10.14

執筆者プロフィール

  • 永尾 圭介(ながお けいすけ)

    医学部 皮膚科学教室教授

    専門分野/皮膚科学、免疫学

    永尾 圭介(ながお けいすけ)

    医学部 皮膚科学教室教授

    専門分野/皮膚科学、免疫学

皮膚科医として患者さんの皮疹を前にするたびに、「目に見えているのに、中で何が起きているのかは見えにくい」と感じます。この感覚が、研究を続ける原動力になってきました。皮膚は、私たちの体を守る最外層のバリアです。その中では免疫細胞、毛嚢(もうのう)、皮脂腺、神経、血管、そして微生物が絶えず情報を交わしています。皮膚は外界と接し、微生物と共存しながら、周囲の変化に絶えず反応し、適応する動的な臓器なのです。だからこそ、皮膚を調べることは、私たちの体が世界とどのように共存するかを知ることにつながります。


私が最初に夢中になったのは、表皮にいるランゲルハンス細胞という免疫細胞でした。この細胞は、皮膚のバリアを壊さずに突起を伸ばし、皮膚表面にある細菌毒素を取り込み、毒素に対する抗体産生をあらかじめ誘導していることが分かりました。その後も、毛が刺激を感知して免疫細胞を呼び寄せること、免疫細胞が皮脂腺を介して皮膚の細菌のバランスを整えることなど、皮膚の思いがけない仕組みに出合ってきました。


2005年に初めて米国国立衛生研究所(NIH)へ留学し、帰国後6年間慶應で研究を続けた後、2014年からは再びNIHで自分の研究室を率いました。そこで身についたのは、予想通りの結果を喜ぶより、予想外の結果に立ち止まる習慣です。仮説に合わないデータは、必ずしも失敗ではなく、自然がこちらの思い込みを正してくれる合図であることがあります。異なる背景を持つ仲間と議論し、新しい問いが生まれる時間は、研究者として何物にも代えがたいものでした。


NIHでは診療にも携わり、治療が難しい重症薬疹の患者さんの皮膚にある1つひとつの細胞を、「単細胞解析」という技術で調べました。解析から浮かび上がった分子を標的とする治療により、長く続いた炎症が改善しました。研究は論文のためだけでなく、目の前の1人に戻っていくものだと実感した経験です。同じ手法を用いて、血管を侵す希少難病が免疫異常による炎症性疾患であることも明らかにしました。


2026年、12年ぶりに慶應へ戻りました。診察室で患者さんから問いを受け取り、研究室でその答えを探し、再び医療へ返す。その往復を若い仲間と続けながら、皮膚が語る声に、これからも耳を澄ませたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。