慶應義塾

『内務省──近代日本に君臨した巨大官庁』(内務省研究会編)

公開日:2025.07.22

執筆者プロフィール

  • 清水 唯一朗(しみず ゆいちろう)

    総合政策学部 教授

    清水 唯一朗(しみず ゆいちろう)

    総合政策学部 教授

「内務省研究会?」。本書の刊行情報が出ると、この奇妙な名前にさまざまな憶測がネット上に飛び交いました。著者がグループである珍しさに加えて、毀誉褒貶のある内務省を研究する。たしかに奇妙です。ここで少し説明させてください。

2001年1月、博士進学を前に筆者は悩んでいました。当時の慶應の法学研究科の日本政治史は教員が3名、院生も多い恵まれた環境でしたが、そのなかで伸び悩み、行き悩んでいました。

ところが、この問題は、多くの日本人の間で共有されていない。教育は崇高で重要な営みだという言説がある一方で、公教育費の増額を望む日本人の割合は、国際的にも少ない。教育を受けた人は、もちろんメリットを享受するが、教育の普及は社会全体にも利益をもたらす。しかし後者はあまり認識されていない。教育学者も、教育の公共的利益を実証的に示す努力を怠ってきた。

そんなとき、経済学研究科に他大学から面白い院生が2人来ていると聞きました。これとばかりに教室で出待ちをして話しかけ、後日、3人で小さな修論発表を行いました。新しい地平が開ける思いがしました。

より広く参加を募ってインカレの勉強会を始めたい。協力してくれる知人もあり、慶應、東大、学習院から8名が集まりました。法学部の小川原正道さん、経済学部の松沢裕作さん(当時、東大)は立ち上げから、今春法学部に着任された柏原宏紀さんも初期からのメンバーです。

まだ学閥の意識が残るころです。「若手が集まってよからぬ活動をしている」という類の中傷をかわす意味もあり、会のテーマを考えました。メンバーの専門を見わたすと、神社行政、地方行政、衛生行政、博覧会、政官関係です。すべて包括する官庁があると気づき、内務省研究会を名乗ることとなりました。それから四半世紀。内務省とは名前ばかりで、幅広に日本近現代史を扱う会として3カ月に1回のペースで緩やかに歩みを重ねてきました。20年を前に幹事も交代し、新幹事がコロナ禍を乗り切り、会は100回を超えました。

25年目の節目の年に「内務省」を書かないかとお誘いがありました。私個人への打診でしたが、ぜひ研究会で受けたいと考え、みなさんも賛同してくれました。そこから2年半。無事刊行に辿り着きました。

こうして戦前日本を象徴する巨大官庁を序論と4編の通史、10のテーマ史、11のコラムから、25名で書き上げました。包括的なものとしては、OBたちがまとめた『内務省史』以来、半世紀ぶりです。分厚い新書ですが、さまざまな角度からお楽しみいただければ幸いです。

『内務省──近代日本に君臨した巨大官庁』

(内務省研究会編)

清水 唯一朗

講談社現代新書

560頁、1,650円〈税込〉

※所属・職名等は当時のものです。