慶應義塾

【特集:公共図書館を考える】座談会:変わりゆく図書館──知の拠点は今

登場者プロフィール

  • 松井 清人(まつい きよんど)

    (株)文藝春秋代表取締役社長

    1974年東京教育大学(現筑波大学)文学部アメリカ文学科卒業。同年文藝春秋入社。「諸君」「週刊文春」「文藝春秋」編集長等を経て2008年取締役。常務取締役、専務取締役を経て2014年より現職。

    松井 清人(まつい きよんど)

    (株)文藝春秋代表取締役社長

    1974年東京教育大学(現筑波大学)文学部アメリカ文学科卒業。同年文藝春秋入社。「諸君」「週刊文春」「文藝春秋」編集長等を経て2008年取締役。常務取締役、専務取締役を経て2014年より現職。

  • 猪谷 千香(いがや ちか)

    弁護士ドットコムニュース記者

    明治大学大学院文学研究科考古学専修博士前期課程修了。産経新聞社記者、「ニコニコ動画」ニュース編集者、米「ハフィントンポスト」日本版レポーターを経て2017年より現職。著書に『つながる図書館』等。

    猪谷 千香(いがや ちか)

    弁護士ドットコムニュース記者

    明治大学大学院文学研究科考古学専修博士前期課程修了。産経新聞社記者、「ニコニコ動画」ニュース編集者、米「ハフィントンポスト」日本版レポーターを経て2017年より現職。著書に『つながる図書館』等。

  • 吉井 潤(よしい じゅん)

    その他 : (株)図書館総合研究所主任研究員文学研究科 卒業

    塾員(平26文修)。2006年早稲田大学教育学部卒業。練馬区立南田中図書館副館長、江戸川区立篠崎図書館・江戸川区立篠崎子ども図書館館長等を経て2018年より現職。著書に『29歳で図書館長になって』等。

    吉井 潤(よしい じゅん)

    その他 : (株)図書館総合研究所主任研究員文学研究科 卒業

    塾員(平26文修)。2006年早稲田大学教育学部卒業。練馬区立南田中図書館副館長、江戸川区立篠崎図書館・江戸川区立篠崎子ども図書館館長等を経て2018年より現職。著書に『29歳で図書館長になって』等。

  • 酒井 圭子(さかい けいこ)

    その他 : 目黒区企画経営部広報課長文学研究科 卒業

    塾員(平29文修)。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。板橋区立蓮根図書館、目黒区立守屋図書館勤務等を経て2011~13年目黒区立八雲中央図書館館長。17年より現職。

    酒井 圭子(さかい けいこ)

    その他 : 目黒区企画経営部広報課長文学研究科 卒業

    塾員(平29文修)。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。板橋区立蓮根図書館、目黒区立守屋図書館勤務等を経て2011~13年目黒区立八雲中央図書館館長。17年より現職。

  • 糸賀 雅児(司会)(いとが まさる)

    その他 : 名誉教授

    東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学文学部助手、助教授を経て、1997年~2017年同学部教授。専門は図書館経営論。著書に『地方自治と図書館』(共著)等。

    糸賀 雅児(司会)(いとが まさる)

    その他 : 名誉教授

    東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学文学部助手、助教授を経て、1997年~2017年同学部教授。専門は図書館経営論。著書に『地方自治と図書館』(共著)等。

2018/07/09

「文庫本の貸し出し中止」をめぐって

糸賀

今日は「公共図書館を考える」をテーマに皆様にお集まりいただきました。

今、公共図書館が大きな変化の中にあり、また社会的な関心も高まっています。TSUTAYA図書館に代表される指定管理者制度の導入による運営形態の多様化に加え、以前からの「無料貸本屋」批判、読書離れや書店・出版業界の縮小、さらにはネット社会・電子書籍の普及などに伴って、市民のための知の拠点がどう変化していくのか、そういったことを議論していきたいと考えております。

まず、昨秋、松井さんが東京で開催された全国図書館大会(公益社団法人日本図書館協会主催)で、「文庫本の図書館貸し出し中止」を提案され、大きな反響を呼びました。新聞各紙でもこの提案を受け記事を載せ、そこには一般の読者からもずいぶん反響があったようです。

また、昨年の10月、読売新聞社が行った読書週間世論調査(2017年10月31日同紙掲載)では、公共図書館の図書購入について尋ねており、「希望者が長期間貸し出しを待つことになっても、多様な本を揃える方がよい」が61%、「希望者が長期間貸し出しを待つことがないよう人気の本を多く購入する方がよい」は29%となっています。6割ぐらいの方は特定の人気本を買うのではなく、多様な本を揃えたほうがいいと考えているようです。

この問題について、まずは松井さんから発言をお願いします。

松井

この「文庫本の図書館貸し出し中止」提案は、一出版社の代表取締役の発言であり、書籍協会とかそういうものを代表しているわけではありません。しかし、昨秋図書館大会で申し上げたように、文芸書系の出版社にとってはやはり文庫は命綱で、例えば文藝春秋の全利益の3割以上が実は文庫です。話題になっている「週刊文春」や「文藝春秋」は全体の利益のそれぞれ十数パーセントなんです。だから、文庫というのは圧倒的な収益の柱になっています。

文芸誌はもうほとんど売れません。純文学の「文學界」と中間小説の「オール讀物」は両誌あわせて年間で3億を超える赤字を出すのです。だけど作家を発掘して育てるために、それらの雑誌は必要不可欠なわけです。

ここから単行本になってかなり儲けているのではないかと皆さん思っていらっしゃるのですが、単行本も8割近くは赤字です。 その段階を経て文庫になるわけです。文庫は値段が安くて手に取りやすい。それから書店が長く置いてくれます。若い人の中には明らかに、文庫になるのを待って買う人がいる。だから、文庫になると1桁、初版部数が違います。

単行本では、純文学だったら4千〜5千部というレベルです。ところが、文庫になると、最低でも1万数千部を初版で刷ります。ここで収益を回収する仕組みになっています。ですから文庫本を大量に貸し出されるというのは、文芸系出版社にとっては相当なダメージを受けるということです。

これは、出版社だけではなく、作家にとっても大きなダメージになります。

糸賀

なるほど、大変な影響があるということですね。

松井

ただ、同じ文庫でも出版社によって全く違うということは申し上げておきたい。新潮社とかうちとか、双葉社などの文庫は文芸系の、しかも新刊が軸になっている。でも例えば岩波文庫は全く違うもので、いわゆる古典の文庫です。また学術文庫系は分類が違うから、たぶん図書館では文庫にはカウントしていないでしょう。

実はわれわれのように文庫で収益を上げているところの文庫というのは、今動いている、今まさに店頭を賑わせている文庫を指すのです。もう10年以上も前に出したような名作の文庫は、全然別の扱いです。今店頭を賑わせて、店頭で動いている文庫の貸し出しを猶予いただけませんか、とお願いしているのです。

図書館で人気の高い「文庫本」

糸賀

では図書館員の方に伺いたいのですが、酒井さんと吉井さん、数年前に図書館は無料貸本屋だ、という批判を受けたときに、図書館の現場では、これをどのように受け止めたのでしょうか。

酒井

図書館では実績を報告するのに貸出数で評価されるというところがあるので、数がたくさん報告できるほうが図書館としての使命を果たしていると思われがちです。ただ、ベストセラーを何冊も買うというのは長い目で見ると、そのうち借りられなくなる在庫をたくさん抱えてしまうことになるので、それは一定程度制御しなければいけないということはあります。

文庫本については、たぶん置けば出るのでしょうけれど、私が所属していた目黒区立図書館では、ハードカバーで買うので基本的には購入しませんでした。ただ、読み終わった方が「差し上げます」と寄贈してくださると、有り難く受け入れて貸していました。

最初から文庫のもの、例えば光文社の「古典新訳文庫」とか、書き下ろしの文庫は当然、収集のために買いますが、ハードカバーが出るものはよほど内容が変わらない限り、購入はしていません。

松井

そうですか。すごくうれしい話です(笑)。

吉井

私のところは、文庫は買わないわけではないのですが、やはり親本が絶版などでもう手に入らなくなった場合にどうしても、というパターンです。ただ、私が館長をやっていたのは大人向けの図書館で、年配の方が多くいらっしゃるところでしたが、年配で弱視者になってくると文庫本を読むのはなかなか大変なので、大活字本のほうを手に取るようになり、文字が小さい文庫は手に取りにくいということがありました。でも、「やっぱり文庫は持ちやすいよね」というお客さんもいます。

2015年の新潮社の佐藤隆信社長も、今回の松井さんのご発言も、現場で働いている身にしてみれば「そうですね。分かります」という話なんです。ただ、ああいうご発言があった後、お客さんは、「えっ、文庫はもう買わないの?」とか、「本の貸し出し猶予しちゃうの?」と聞いてきます。

「いや、いきなりそんなことはしません」という対応を一応していますが、図書館に来るお客さんはやはり気にされている感じですね。利用者はやはり年配の方が多いので、年金暮らしではつらいんだろうなとも思いますし、なかなかそこが難しいところですね。

糸賀

総じて図書館では、文庫本は人気があると考えていいのでしょうか。

酒井

あると思います。文庫を1冊寄贈で受けますと、同じハードカバーの本が5冊あっても1冊の文庫本のほうに予約が集中してしまいます。

糸賀

それは通勤とか通学のときに電車の中で読んだりすることを考えると、ハンディで持ち運びに便利だということでしょうか。

吉井

電車で読むのに便利なんでしょうね。

地方図書館の事情

糸賀

そうすると、それは都会の話ではないでしょうか。つまり、電車で通勤・通学する人にとって便利ということで、地方はまた違うのでは?

松井

そうなんです。実は、地方の図書館の人たちにこの話をしてもピンとこないようです。

糸賀

ああ、やはりそうですか。そのあたりの事情を、全国を回って取材されている猪谷さん、お願いします。

猪谷

地方と都市部で一番違うのは書店の数です。都市部は書店さんがたくさんありますので、図書館に文庫を貸し出されるとどうしても競合してしまうという面は確かにあると思います。しかし、地方では、今、書店すらない市町村が問題化しています。そうした自治体では、初めて本を手に取る場所が図書館しかない。だから長い目で見ると、良質な読者を育てるという点から、文庫を含めて、多彩な品揃えを地方の図書館はしなければいけない、ということも言えるかと思います。

ただ、この話、私は板挟みなんです(笑)。自分でも本を書いていますし、松井さんのお話を取材でお伺いしてもいるので、出版社側、作家さんの事情も分かります。今、本の売り上げが厳しくて、特に小さい書店さんなどでは、今まで主力であった雑誌が全く売れない状況です。

松井

そうなんですよね。

猪谷

そうすると、書店の収益の柱として残ってくるのは、文庫と漫画になっているのかなという気はします。私が住んでいた渋谷区上原に幸福書房さんという書店がありました。40年間も地域の人たちに愛され、林真理子さんの地元の書店として有名で、私も通っていたのですが、今年2月、とうとう店を閉じました。

店主にお伺いすると、とにかく雑誌が売れなくなり、ここ数年本当に厳しかったと。この書店は雑誌で収益を得て、多少売れなくても良質の学術書や文芸書を揃えて、収支を合わせていました。それが、雑誌が駄目になってしまうと、いい本も揃えられない。他でもそういう 書店さんが、ついにはつぶれてしまうということを聞きます。

書店が厳しくなれば出版社も厳しくなり、コストのかかる良書が生まれないという悪循環になれば、図書館の蔵書にも影響が出てくると思います。「手間暇かけずに作れて、その瞬間だけ売れる本」が悪いとは言いませんが、そうした本ばかりでは、図書館本来の役割は果たせないのではないでしょうか。

図書館の風景が変わった

糸賀

文庫本の売れ行きが出版社にとっても、書店にとっても、そして作家にとってもきわめて重要だということはよく分かるのです。

さてそのとき、図書館が文庫本の貸し出しをやめたら、読者はもっと文庫本を買うようになるでしょうか?

松井

公共図書館が文庫本を貸し出さなくなったら、すぐに文庫本の売り上げが戻ってくるかと言えば、そんな単純なことではないと思っています。

ただ、一般の市民にとって「図書館には文庫本もたくさん置いてあって、貸し出してくれるんだ」という、そのマインドが問題なんです。私が言っているのは「やはり文庫本ぐらいは街の本屋さんで買ってください」ということなのです。それすら図書館で借りることができるとなったら、これまでの書店、図書館、出版社、読者、このある種の棲み分けの秩序が崩れてしまうのではないか。

糸賀

そのマインドについてもう少し補足していただけないでしょうか。

松井

図書館の風景が以前とずいぶん変わってしまったのではないかという気がします。私が子供の頃、本の面白さに目覚めたのは間違いなく公共図書館でした。うちは商店で忙しかったから、土曜日曜は親に図書館へ連れて行かれて、放り出されていたんです。

大学に入って図書館をどうやって利用したかというと、私が大学4年のときに『日本の精神鑑定』(1973年)という本がみすず書房から出たのですが、6千円もする。50年近く前の大学4年生にはとても買えません。そのようにとても買えない本が資料として図書館にある。だから、図書館で本当に読み漁ったんです。そういうところが図書館だと自分は思っていたわけですが、今やそういう光景が失われてしまったのではないか。

雑誌がこんなに売れなくなったのは、やはりスマホの普及ですよ。そしてネットにより、「フリー」「無料」「タダ」というマインドが蔓延していきます。今では誰もがタダで情報を得られると思っている。図書館はそこに歯止めをかけてほしいと思います。文庫本まで堂々と大量に貸し出してしまったら本を買う人がいなくなる。全てがタダということになってしまうのではないか、というのが私の心配するマインドです。

糸賀

図書館の風景が変わったというのはおっしゃる通りだと思うのですが、現場にいらした酒井さん、吉井さんのお2人はどう受け止めますか?

酒井

現場にいると徐々に変わっていくので感覚として分かりづらいのですが、昔の図書館だと一定程度古びていた本ばかりあり、それでも好きな人が行くというところだったかと思います。エンタメの小説でも、刊行から少し時間が経ったものしかありませんでしたが、今は書店並みのものを求められる。

新刊が出て購入すると、皆予約で持っていかれるんです。皆新しい本が入るとチェックしているのです。利用者から「図書館の棚には新しい本が並んでいないけど、本屋さんみたいに並べてください」と言われる。いや、買っているんですけど……。

糸賀

でも、図書館が求めに応じて新刊書を買うとしたら、大衆迎合的ですよね。本来の役割は何かということになりませんか。

松井

でも、図書館によっては利用者のリクエスト、ニーズに応えなければいけない、となるわけですよ。

酒井

一定程度はそうですね。

松井

そうするとどうしてもベストセラーなどを複数購入することになる。

糸賀

でもバランスの取り方だと思うのですけどね。リクエストとかニーズを一切無視はできないけれども、やはりこれは民業圧迫につながる。私は基本的に税金で成り立っている公共図書館にそれはできないと思いますよ。

ネット予約の弊害

糸賀

吉井さん、どう思いますか。

吉井

今ではネットで予約ができるんです。例えば又吉直樹さんの『火花』が単行本で出ると、ネットで予約する人が多い。でも、図書館ですでに買っている「文學界」は予約が全然入らない。

「『文學界』でも読めますよ」と言うと、「ああ、そうなんですか」という感じです。みんな「火花」と検索して、そちらにバーッと集中してしまう。純文学の雑誌を知っている人はどんどん減ってしまっているのかなと、ちょっと残念でしたね。

松井

実はほとんどの純文学の単行本は、逆に図書館のおかげで出すことができているんです。

芥川賞を受賞すると、その作家の2作目、3作目もちゃんと図書館は資料として購入してくれるのです。そうすると、5、6千部しか刷らない中で、全国の図書館が1500部とか、時には2000部も買ってくれるわけです。これがなかったら純文学の単行本は出せません。

だから、われわれは助けられているところもあるので、共存共栄は十分にあり得ると思っています。

猪谷

予約がネット経由で多数入るという話ですが、人気のある本だと何十人待ち、下手をすると100人を超えているときがありますよね。私はいつも思うのですけど、その100人の番が回ってきたときには、たぶん熱が冷めていると思うんですよね(笑)。

松井

半年待ち、1年待ちとか言いますからね。

猪谷

だったら図書館が毅然とした態度で、「10番目までしか予約は受け付けません。待てない方は書店で買ってください」と、地元の書店さんを紹介できればと思うのです。実際に千代田区立千代田図書館では、貸し出されてしまっている本を地元である神保町の新刊書店や古書店のネットで探して、「ここに行けば在庫があります」と教えるサービスもしています。

私はよく利用者側の「図書館リテラシー」が必要だと話すのですが、図書館側の毅然とした態度によって、利用者側の図書館の使い方や意識を高めていくことが大事だと思っています。

松井

日本図書館協会の機関誌「図書館雑誌」の2007年5月号の中に、川崎市立図書館の例が挙げられています。

そこでは、1つの本にリクエストが10件を超えた時点でさらに1冊、複本を買うと決めていたそうです。ところが、インターネットによる予約受付を始めたら、すさまじい数の予約件数が来てしまった。リリー・フランキーさんの『東京タワー』にはなんと予約件数が1730件も来た。これでは大変なことになってしまうので、川崎市立図書館は「限度を設けます。10件の予約があってもこれ以上は購入しません」と決めたそうです。

それに対する市民の反応はというと、意外にも文句を言ってくる人はほとんどいなかったというのです。今の予約というのは、ネットの画面上でクリックするだけですよね。

糸賀

予約をして取りに行かなくても、キャンセル料は掛かりませんからね。だから、皆とりあえず予約しておく傾向はあります。

ですが、本も文庫本に限らず値段が付いて売られている商品ですから、これを入手しようとするのであれば、「お金を払うか、時間を払うか」どちらかはすべきでしょう。お金を払うというのは本屋で買うという意味です。時間を払うという意味は、図書館でリクエストが多かったら順番待ちしてもらう。お金を払いたくない人は2年でも3年でも待つのは致し方ない。まさに「時は金なり」です。

松井

そうですね。これは新潮社の佐藤社長の名言ですが、だから市民サービスは、「少し不便なくらいがいい」。あまりにも便利になって市民サービスが行き届きすぎてしまうと、皆わがままになってしまう。

糸賀

松井さんがこの問題に一石投じられたので、ただちに文庫本の貸し出しが中止になったということはないのですが、現場にとってはそれなりに「これは考えなければいけないな」と立ち止まって考えさせる効果はあったように思います。

図書館への指定管理者制度導入

糸賀

図書館の風景が変わり、利用のされ方も変わってきた。それを裏付ける1つの実例が指定管理者制度の導入です。TSUTAYA図書館も一時、ずいぶん話題になりました。実は吉井さんも指定管理の民間事業者の一員です。

まずは直営の図書館にいた酒井さんから、図書館への指定管理者制度の導入をどのように受け止められたか、お伺いしたいと思います。

酒井

目黒区はかなり長い間、直営でやっていて、今も委託という形です。館長には区職員を配置して、実際の窓口には委託のスタッフさんに立ってもらっています。

委託や指定管理を請け負う会社さんというのは人材を揃えているなと感じています。委託でお願いした初年度は有力な人を送り込んでくれて、「任せて安心」と思う。そしてふと気が付くと、いつの間にかその方が指定管理の立ち上げに行かれたりする(笑)。委託で一定水準以上に育つと指定管理のほうに異動になるようです。

直営は、やはり身分が保障されているのでハングリーさがないというところはありますが、直営のよさはやはり一貫性というか、10年前に掲げたことを検証して、今度はこういうふうにやってみようという、長期的なプランニングをして軌道修正ができることです。あのときこういう理念でこういうことを始めたという歴史が語り継がれて、蓄積されていく。そのあたりは直営の強みだと思います。

糸賀

指定管理のほうとしては、どうですか。

吉井

私は5年間、江戸川区の図書館で館長をやりましたが、その前に新宿区に3年ほどいました。自治体によってどこまでやっていいよという、指定管理に対する範囲はあります。新宿区でも、江戸川区でも割と自由に「好きにやっていいよ」という感じでやらせていただきました。

例えば、ロボットの「ペッパー」を弊社負担で入れてみたいと江戸川区に相談したら、「おたくの会社で負担するのだったらどうぞ置いてください」という形でペッパーを置きました。

また、「東京オリンピックが近いので、何か盛り上げることを図書館でもやってください」と区から言われました。図書館に関係あることは限られているのですが、オリンピックに出た方に対して「お勧めの本を紹介してください」という形でお願いして、展示をしました。後は松井さんにもお答えいただいたのですが、「出版社社長が薦める図書館で読み継いでいきたい本たち」という企画をやりました。

松井

あ、そうだ。回答しましたね。

吉井

そう、あの企画は私です(笑)。そういう形で割とやりたいことをやらせていただきました。

糸賀

そういう企画は指定管理だからできるということなのですか?

酒井

直営ですと、できなくはないけれど、なかなかハードルが高いというところはあります。

吉井

決裁をとるのが大変なのではないですか。

酒井

そうですね。必要性を説明し,賛成してもらわなくてはいけません。

糸賀

指定管理だと、そういう斬新な企画案とか、自治体にはないノウハウを持っていて、「うちの会社だったらこんなことが図書館でできる」ということをアピールするわけですよね。

吉井

でも、今言ったことはたまたま私が館員とやってみただけで、会社としてということではないです。

指定管理者制度は図書館になじむのか

猪谷

指定管理者制度自体は、導入されてもう15年ですよね。実際、現場ではかなり浸透していて、やみくもに「指定管理反対!」という議論は現実的ではなくなってきています。指定管理者制度でどのように上手く図書館を運営していくのかという、具体的な悩みを自治体は抱えていて、そのいろいろな流れの中の1つにTSUTAYA図書館が出てきていたのではないかと思います。

あれは極端な例で、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が持っているノウハウを持ち込み、図書館の守ってきた歴史や手法を崩しました。ライフスタイル分類やおしゃれな書架などなど。本当に東京都渋谷区にある代官山のT–SITEをそのまま移設したような形で図書館をつくった。

では、利用者側はどう見ていたかというと、確かに吸引力はあるんですね。ただ、それが持続性のある吸引力なのかというところが実は問題です。図書館が持つ役割を考えると、「5年ごとに契約が変わるのだから、次に流行りの図書館をつくることのできるところと契約すればいい」という話でもないと思うのです。

ですから、そこは自治体側がハンドルをしっかり握り、どういう図書館を市民とつくっていくのか。3年とか5年の範囲ではなく、10年とか20年先まで見据えた上での指定管理者制度の利用を考えないといけないとは思っています。

糸賀

ただ、そこまで見据えたような自治体がなかなかないですよね。今年(2018年)3月に総務省が、様々な公の施設の中で指定管理者の導入率を調べて報告(地方行政サービス改革の取組状況等に関する調査)しています。それを見ると、実は図書館は導入率が一番低い。

例えば指定市の場合、一番多いのが介護支援センター、特別養護老人ホーム。こういうところは100%に近いのです。ほかに宿泊・休養施設、それから展示場施設、見本市施設といったところは9割を超えています。それに対して図書館は導入率が23.5%です。

市区町村になると、一番低いのは海水浴場で12.6%。次が公営住宅で13.3%。その次に低いのが図書館で17.4%。逆に老人ホーム、介護支援センター、福祉保健センターというところは半分以上が導入されています。

この数字だけ見ると、図書館に指定管理はなじまない、ということが15年経ってはっきりしてきたということなのですが。

吉井

江戸川区でも指定管理者の事業者が集まる館長会というのがあります。そうすると、図書館は端っこの席で、大体皆文化施設、スポーツ施設、宿泊施設の方です。図書館の数が区内に12館ということもあるのですが、ほかの施設のほうが圧倒的に導入は進んでいるということは感じます。

酒井

福祉系のようにヘルパーさんやケアマネさんという専門職のフィールドになってしまうと、公務員がその現場に行って仕事をするのはもう難しくなっているのではないでしょうか。

一方図書館ですと、司書職、つまり図書館に配属するための職員を採用してきた自治体もあります。図書館を指定管理者にすると、せっかく司書として採用した職員を別の職種に配属せざるを得ず、自治体によっては舵を切りにくい、ということがあるかもしれません。

糸賀

図書館は、やはり経営力だとか、今後この地域の住民のためにどういうサービスや蔵書をつくっていくかということを構想していく力が求められるので、指定管理はなじみにくいのではないかと思います。

指定管理者制度自体は、時代の流れで致し方ないでしょう。全部を直営で公務員がやるという時代でなくなったのははっきりしています。図書館の世界にも指定管理が導入されたことで、直営の図書館もかなり目が覚めたところがあるように感じています。民間がやっていることを見て、直営の自分たちは何ができるのかを考え出したと思いますね。

その意味では、指定管理者制度の導入が刺激を与えた効果はあったと思います。各種の報道メディアも取り上げて、とにかく図書館に関心を寄せる首長が増えましたから。

松井

今度、日比谷図書文化館の図書部門長になったのが、池袋リブロの店長だった菊池壮一さんです。本屋さんの中でも池袋のリブロはレベルも格もかなり高かったから、選書の部分でもちょっと面白い図書館になるのかなと思っています。

猪谷

結局、皆さん自分の街の図書館しか使わないので、ほかの街の図書館がどうなっているのか、意外とご存知ありません。だから、TSUTAYA図書館があれだけ全国メディアで取り上げられると、「ああいう図書館をうちの自治体にも欲しい」という声が必ず出てくるわけです。

市長なのか、議員なのか、市民の方なのか分かりませんが、それを反映させるような形で、新しく図書館をつくるときにはカフェもつくりましょうとか、その地域によってカスタマイズしていく図書館は確かに増えているという気がします。

一方、今後は少子高齢化で自治体の財政が厳しくなり、従来の行政サービスを維持できなくなってくるという流れは避けられないだろうと思います。その中で、「お金が掛かる」と思われている直営の図書館をどれだけ維持できるのか。特に地方の小さい自治体ではなかなか厳しくなってくるのではないかと懸念されます。

変わる図書館利用者

糸賀

公共図書館の利用のされ方もずいぶん変わってきました。団塊世代の方が退職されて、居場所を図書館に求めている実態もあります。

新書としては結構評判になった『定年後』(楠木新著、中公新書、2017年)という本を読むと、なんと「図書館で小競り合い」という見出しがあります。定年後の高齢者同士で毎日、その日の新聞の奪い合いが起きているというのです(笑)。

松井

それこそ定年後の高齢者が一番読みたいのは文庫書き下ろしの時代小説で、これが今どんどん出ています。佐伯泰英さんに代表されるものです。定年後の人たちはこの読者なんですよ。

文庫が出れば飛ぶように売れます。でも、図書館に入れればそこに飛び付いてきますから、かなりの影響はあると思う。佐伯さんの作品はいくつもシリーズが出ていますからね。

実はこういう時代小説の書き下ろしは、われわれの世界では「初速」と言うのですけど、すさまじいスピードで1、2カ月で売れてしまいます。だから、文庫書き下ろしの時代小説とラノベ(ライトノベル)について、「3カ月貸し出しを待ってください」という提案もしました。

雑誌は、いわゆる「館内扱い」で、次の号が出るまで貸し出さないようにしているようです。それと同じで、例えば時代小説とか、ラノベとか、非常に早く売れてしまうものは館内扱いで貸し出しを猶予していただけませんかと。

糸賀

なるほど。とにかく、そういうシニア層の利用が目立っている。

また、松井さんがかつて若い頃に使った図書館に比べると、小さな子供さんを連れたお母さんたちも来るわけです。そういう人たちのことを考えると、古びた本だけではなく、やはり本屋さんのような彩りで明るい雰囲気の図書館にしないと、多くの人が来てくださらないという事情もあると思います。

猪谷

確かに図書館としては、そうやって魅力的な棚をつくって、きれいな場をつくって大勢の住民を呼ばないと、要らない施設だと自治体から判断されて予算がどんどん減って、よけいにシュリンクしてしまうのでしょうね。

糸賀

あとは中高生の勉強ですね。場所借りというのは、以前に比べると最近の公共図書館はずいぶん受け入れるようになりましたね。

猪谷

そうですね。都市部では特に共働き率が高いので、放課後に子供を見守る、地域で子育てをする場としての図書館という役割が今求められているので、図書館における中高生の居場所は増えている気がします。

糸賀

ただ、図書館の本はあまり使っていない。もっぱら勉強と、友達と一緒に行って休憩時間にいろいろしゃべったり。本当に居場所ですね。

現象として特徴的なのは、全国の図書館をあちこち訪ねていると、閲覧スペースに消しゴムのカス入れがずいぶんと普及してきたことに気づきます。

なぜかというと、高校生、中学生が勉強すると、消しゴムのカスが出るからです。こんなものは以前あまり見かけなかった。それがどんどん全国に広がっていて、新潟県のある市立図書館ではご丁寧に、カスを払うための立派なブラシが閲覧席に用意してあります(笑)。

さらに、この前宮崎県内の市立図書館で見かけたのですが、そのカス入れに「疲れたときには少し休んで」とか、「飲み物でリフレッシュ」とか受験生に対する励ましの言葉が書いてある。そうやって勉強する生徒を応援する雰囲気が全国の図書館に徐々に広がっています。

松井

高校生は勉強に行っているのだと思いますけど、そこに並んでいる本を休み時間にちょっと手に取って、「あ、面白い」となりませんか?

糸賀

読む可能性はもちろんありますが、全体としてはそれは少ない。

松井

そうなんですか。私は昔、そうだったけどなあ(笑)。

酒井

勉強とか、お友達と会うためですね。ファストフード店などだとお金が掛かる。タダで何時間いても怒られないし、家族にも「図書館に行ってくる」と言えば、多少遅くなっても大丈夫なので、子供としては行きやすい。

猪谷

私が気になっているのは、大学図書館がアクティブラーニングに対応したり、学生が利用しやすいようなニーズに応えたり、かなり変化していることです。

例えば同志社大学の「ラーニング・コモンズ」という施設では、ダイナー形式のシートを設けるなど画期的なつくりになっています。これは、学生が中高生時代にファミレスで勉強してきたから、彼らはそういう空間が落ち着くという理由ですね。他にも利便性の高いつくりになっていて、大学図書館の司書はこの施設に派遣される形です。

そんなふうに独自に進化した空間で学習してきた彼らが、卒業後、今の公共図書館を使ってくれるのかなと心配です。大きな世代間の断絶が生まれている気がします。

糸賀

もう1つ象徴的なのは、飲み物の扱いです。以前は本が濡れるといけないから図書館で飲み物を飲んではいけなかったのが、いまや飲み物は持ち込み自由という館が大半です。ペットボトルなんて公共図書館も大学図書館も多くは持ち込みオーケーです。

でも、いくらニーズには応えても、公共ならではの、税金を使ったならではの、サービスをする姿勢は、変えてはいけないのだと思います。

「読書」のこれから

糸賀

インターネットによる情報流通がこれだけ普及したなか、「読書」はこれからどういう方向に変わっていくのか。そのときに公共図書館はどういう役割を果たすべきなのか。そのあたりをご議論いただきたいと思います。

猪谷

確かに今、紙媒体に対する可処分時間は確実に減っています。特にスマホが登場して以降、活字は見ているけれど、メディアの発信した情報ではなく、SNSに多くの時間を割いています。今こういったコミュニケーションに時間を奪われている。特に若い世代ではそうです。

紙の本というのは確かに素晴らしいのですが、デジタル情報に比べると、更新ができず、リアルタイムで動いているものについては、やや情報が遅れるきらいがあります。一方、デジタル情報は端末で見たとき、紙媒体に比べて一覧性が低く、情報と情報をつなげて考える機会が減ってしまいます。同じ情報でも、紙の特徴を生かしつつ、デジタルにも載せていくという、双方向での展開がどうしても必要になると思います。

そして図書館側も、本の文化、読書をいかに守っていくかということを抜本的に考えていかなければいけない。例えば、フィンランド大使館で司書や作家の方を取材したことがあるのですが、フィンランドでは図書館で本を借りた場合、作家に1冊につき15円が国庫から払われると聞きました。他にも、作家に対して年間平均7000ユーロの補助が出るともおっしゃっていました。

もちろんフィンランドは税金が高いですし、国としての仕組みが全く違う。とはいえ、フィンランド独自の文化や作家を大事にしようというマインドがあるわけです。そういうことを日本でも皆で考えていくことが大事なのではないかと思うのです。

糸賀

やはり「読書」というのはこれから減っていくのでしょうか。

小中高の学習指導要領がこれから移行期間を経て改訂されていきます。この中で「探究型学習(アクティブ・ラーニング)」が強調され、図書館や調べ学習の重視を打ち出しています。

それから、ちょうどこの4月から国は第4次の「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」を閣議決定しています。また、朝の読書も全国的にかなり普及している。

したがって、読書量が増加するということはないにしても、どこかで読書人口の減少に歯止めが掛からないかなと期待するわけです。吉井さんはデジタルもアナログもよくお使いだけど、どうですか。

吉井

私は紙もデジタルも両方読みますけど、保存となるとやはり紙のほうがまだいいのかなと思います。 iPadなどで読んでいると電池がなくなってしまったらもう読めないので、新幹線などで読むときは紙のほうがいいですよね。ただ、私は今年で35歳ですが、周りで文芸の本を読む人は少なくて、ビジネス書のほうが多いという感じです。純文学は、芥川賞、直木賞、本屋大賞を取って話題だから、仕事の話のネタになるから読むかというパターンが多いです。だから、これからなかなか大変だろうなと思っています。

糸賀

図書館で「ビブリオバトル」をやるところもずいぶん多いですね。ビブリオバトルで関心を持って、本を読むことに目覚める若い人たちも結構います。だから、それこそ図書館と出版社、書店が協力して読書の面白さに気付かせてあげれば、まだまだ掘り起こせるような気はしております。

松井

おっしゃる通りです。今まで出版社のイベントというと、ほとんど本屋さんとの間のもので、しかもサイン会とかトークショーぐらいです。要するに、売りたい新刊書を本屋さんに持って行って、サインしてということしか出版社はやってこなかった。でも図書館はいろいろなイベントをやっているのですね。

私が「荒川区の図書館は文庫貸し出しのパーセンテージが高い」と言ったら、荒川区の図書館の人が会いたいと言う。抗議に来るのかなと思って身構えていたら(笑)、「一緒に何かやりませんか」と言うんです。あそこには120人入れるイベントスペースがあるんです。

糸賀

ええ、絵本に囲まれたイベントスペースがありますね。

松井

それで、芥川賞、直木賞の「人生に、文学を。」キャンペーンの一環で、石田衣良さんに出ていただくことになりました。イベントは本屋さんよりもむしろ広がっています。予約があっと言う間に埋まってしまったそうです。

書店では実利的に「この本が出たからサイン会をやりましょう」となるわけです。そうではなくて、例えば「作家って面白いですよ。すごいですよ」ともう少し身近に感じられるイベントをやって、本や作家に興味を持ってもらうことをやるべきだと思います。

糸賀

書店と出版社と図書館、あとは学校も巻き込んでやっていくべきだと思いますね。地方自治体が設置する図書館であっても、運営のモデルなりマネジメントのモデルなりを変えていかなければいけないでしょう。

猪谷

先ほど申し上げた「図書館リテラシー」をどう育てるかということも課題ですね。義務教育課程で図書館の使い方だけでなく、その役割をきちんと教える。また、どのように図書館や出版社、書店が成り立っているのか、本の世界の仕組みを利用者側に知ってもらう機会を設けるべきなのではないかと思います。

鳥取県の県立図書館と地元の書店さんとの関係がとてもいいと言われています。そこでは、「人生の記念日に、図書館へ本を贈ろう」という「マイ・メモリアルブックキャンペーン」を、書店商業組合と図書館が一緒に展開していました。

人生の記念日に買った本が図書館に寄贈されたら利用者もうれしいし、書店商業組合を通して本を買ってもらうので書店さんもうれしいし、図書館も蔵書が増えてうれしい。そのような三者がとても幸せになるようなアイデアをどんどん出していくことが大事ではないでしょうか。

大切な司書の役割

糸賀

これから図書館も書店や出版社と連携していくときに、肝心なのは司書がどのように考えていくかでしょう。自分は本の専門家で、本については詳しいけれど、街の様子や地方自治の仕組みに関心を持たないようでは困ります。

酒井さんと吉井さんは、実は司書として現職のときに慶應の図書館・情報学専攻の社会人大学院に入学し、勉強されたわけです。そういった司書のリカレント教育、いわゆる「学び直し」についてはどのように考えていますか。

酒井

是非必要だと思います。私がそもそも学ぼうと思ったきっかけは、自分が図書館長をやっているときに、上司や議員さんに、「こういう目的だからこういうものが必要です」と、自分のやっていることの意義や目的をきちんと説明できなくて、すごく悔しい思いをしたからです。

大学院で学べばちょっとは賢くなるかなと(笑)。なかなか難しいものはあるのですけど、自分がやっていること、これからやりたいことを説明する言葉を持つために、リカレント教育は必要だと考えています。

吉井

私も結局、学部で司書資格を取っただけで、そのまま卒業して図書館で働いていて、もうちょっと勉強してみたいなという感じがありました。

実際に学んでみると、論文の展開の仕方と現場での仕事の進め方は同じであることが分かりました。

糸賀

社会人大学院の場合、公共図書館だけではなくて大学図書館に勤めている人も入学してくる。学校図書館だとか、専門図書館という人もいる。お互いに刺激し合って視野を広げるという意味では、きわめて貴重な経験だったろうと思います。

猪谷

たぶん今、司書の方の職域がすごく広がりつつあって、例えば居場所だったり、子育ての場だったり、複合施設の中でシームレスにサービスを展開するとか、いろいろな役割が期待されているのだと思います。司書の変わらぬ役割は守りつつも、時代の流れを見据えてお仕事していただけたらなと思います。

松井

確かにいろいろなことをやらなければならなくなったのかもしれないですが、やはりプロフェッショナルな司書の役割として選書があると思うのです。図書館に目利きがいることは絶対に必要だと思っています。

逆に、そういう人がいれば、市民サービスみたいなところだけに目が行かなくても済むのではないかとも思います。今、どんどん図書購入費が削られている中でどうしても民間委託ということになってくるのかもしれないけれど、ここは今一度、選書の見直しが必要なのだと思いますね。

書店にも目利きが少なくなってきました。昔は必ず売り場に目利きがいて、「この本はいけるぞ」となると、ちゃんといいところに置いてくれたのですが、今はなかなかいないんですね。

糸賀

今、選書と言われたけれど、自治体として「こういう目利きを育てよう」とちゃんとビジョンを持っていれば優れた司書は育てられます。

地方自治体はそういう人を育てなくても図書館自体はつぶれないかもしれない。でも私は、本当はそれではいけないだろうと思います。出版社と軋轢が生じたり、住民からも苦情が出てきてしまうのは、ちゃんとした専門職を育てる仕組みがないからなのです。

松井

「あの図書館の選書はすごいよ」と言われるところがありますよね。そういうところが目立って取り上げられますが、本来はもっと普遍的に目利きがいたはずなんですよね。だから図書館と共存共栄ができたのですもの。

糸賀

そういう意味では、TSUTAYA図書館があれだけマスメディアやネットで取り上げられたとき、選書がものすごく疑問視され、本当の選書ができる人はどういう人なのかという議論が少し盛り上がったので、あれを契機にきちんとした司書がどうやったら育つかを考えてほしかったですね。

今日は多岐にわたって議論していただき、本当に有り難うございました。

(2018年5月15日収録)

※所属・職名等は当時のものです。